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勧誘(ソリシテーション)

 ここは酒場「笑う小鹿亭」。

 時刻は宵の口、酒場が忙しくなる時間帯。

 笑う小鹿亭も例に漏れず、ひっきりなしに注文が飛び交う賑わいを見せていた。


 その酒場の一角のテーブル席では、


「炎の剣のクエスト成功と、イリアの冒険者としての門出を祝って、乾杯!」


「「「「乾杯 」」」」


 ミラ、エマ、ラグーン、マトウ、モネの5人が座っていた。

 エマの乾杯の音頭で、宴が始まる。


 最初は自己紹介に始まり、そのうち脱線して炎の剣の苦労話に花が咲く。美味しい食事も相まって、麦酒が進んだ。

 話が一区切り着いた頃、ミラは自分から質問した。


「やっぱり炎の剣って、有名なパーティーなんですか?」


「っぶ!っごほっ、ごほ、ごほっ」


 エマは、飲みかけていた酒を軽く吹き出した。


「ええっと。イリアは冒険者になりたてだから知らないのも無理はないけど、炎の剣はここらで一番実力がある評判のパーティーなのよ」


 エマは、まるで自分のことのように得意げに語る。


「俺らも、だいぶ名が売れてきたと思ってたんだけどなぁ」


 一方のラグーンは、軽くショックを受けたようで、顔を落として肴を摘んだ。


「フン、あんたがモグリなだけじゃない?」


「モネ、それは言い過ぎなんだな〜」


「アハハ、いいですよ。私、世間知らずなんです」


 ミラがこのあたりの事情に疎いのは本当のことだ。


「そういえば今回、炎の剣の皆さんはどんな依頼を達成したんですか?」


妖鬼(オーガ)の討伐よ。Cランクの魔物の中では最強の魔物なの。それを3人で討伐しちゃうんだから、炎の剣はうちのギルドの誇りよ」


 答えたのは、またエマだ。

 酒のせいか、興奮して頬が赤い。


「そこまで言われると照れるな。まあ、俺もよく倒せたなと思うよ」


「フン、アタシたちの実力なら当然の結果よ」


 ラグーンとモネも、満更でもない反応だ。


「Cランクの魔物…… それって、やっぱりすごいことなんですか?」


「あれ? あんまり説明して無かったっけ? いいわ、じゃあ今説明するわね。登録したての冒険者はE級からスタートするの。だから、イリアは今E級冒険者ってことになるわ」


 ギルドの制度に関する説明は、受付嬢の本分だ。

 エマは、水を得た魚のように生き生きとしていた。


「依頼達成率やギルドへの貢献度なんかによってD級、C級、B級と昇格することができるの。ちなみに、E級は駆け出し、C級以上で一流冒険者ってところかしら?」


 それは、概ねミラの認識と一致していた。


「なるほど、じゃあみなさんはやっぱり一流の冒険者だったんですね」


「フン、何よ今ごろ」


「そうなの! だから今も黙々と食べ続けてるマトウだって、立派な一流冒険者なのよ」


「そう言われると照れるな〜。げっぷ」


「「「ゲップはやめろ」」」


 和やかな宴会の中、不意にミラの胸に懐かしさが込み上げる。

 受付嬢時代、エマのように冒険者に混じって楽しく飲んだ記憶は今や遠い彼方だ。


「そう、それでね。今日みんなを集めたのは、みんなに相談があってね」


「おう、何だ? それが今日の本題だろ?」


「もったいぶらずに言いなさいよ」


「おいらも気になるんだな〜」


「うん、ええっとね。イリアを炎の剣に入れてあげることはできないかしら?」


「何だって?」


「はあ!?」


「えっと~?」


「ええっ!?」


 ミラを含め、エマの提案を聞いた全員が、驚いて声を上げた。


「もちろん、今すぐってわけじゃないの。イリアが冒険者のイロハを学んで一人前になってからの話よ」


 ミラにとっても初耳だった。

 ミラは、エマがギルドで言っていた「わたしに任せて」の意味を理解した。


「いや、そんな急には決められないよ。イリアちゃんはいい子だと思うけど、パーティーメンバーとして信用できるかって言われたら話は変わってしまうだろ?」


「私は嫌よ。大体、魔法使いならアタシがいるじゃない。アタシ一人で十分よ」


「おいらは反対じゃないけど、ラグーンの言う通り、すぐには決められないんだな〜」


 モネを筆頭に、ラグーンやマトウでさえも、流石に両手を挙げて賛成はできない。


「わたしは、イリアには素質があると思うの。まだ出会ったばかりだけど、イリアは絶対に大物になる予感がするわ。みんな、考えてみてくれないかな? イリア、勝手に話を進めちゃってごめんなさい。イリアはどう思ってるか聞かせて」


「願ってもないご提案なんですけど……。連れと相談しないと……。個人的には、本当にありがたいと思っているんですが……」


 今即決するかどうかは別として、現実問題、冒険者として活動する以上はどこかでパーティーを組むのは避けられない。

 ミラの言葉は本心からのものだった。


「よし、じゃあこうしよう。もしイリアが望むなら、今度、イリアを連れて迷宮に行くんだ。安全マージンを取って、Dランク以下の迷宮に。これならイリアの実力も観れるし、実戦で俺たちのパーティーとの相性だって分かるだろ?」


 ラグーンが折衷案を出す。


「おいらは賛成だな〜」


「えっ、アタシは嫌よ。何でアタシ達がこの子のために、低ランクの依頼を受けなくちゃいけないのよ。というか、この子だって私たちと組むか、まだ決めかねてるんでしょ?それなのにそんな約束、都合よすぎ。せめて、この場ではっきりさせなさい。私たちと組む気があるのか、ないのか!」


 ミラ以外の三人は、モネの剣幕に押されて反論できない。

 ミラの返事待ちの空気が生まれた。


(もともとアレンは、私が冒険者するのに賛成してくれてたんだし、反対しないよね?この街一番のパーティーに誘われるなんて、今を逃したらこんな機会絶対ないわ!)


「……ぜひ、パーティーに入れて欲しいです。せっかく誘っていただいたのに、すぐにお返事せず失礼しました。よろしくお願いします」


 ミラの返事を聞いて、ラグーンが助け舟を出す。


「ミラもこう言ってくれてるんだ。まあそう詰め寄るなよ、モネ。エマが太鼓判を押すぐらいなんだ。エマの直感が間違ってたことなんて、今まで無かったろ?それを確かめもせずに、手放すのは惜しいじゃないか」


「そうだな〜、きっと僕らにとっても試す価値があるんだな〜」


「もしお世話になる機会に恵まれたら、私精一杯頑張ります!」


 炎の剣の過半数の賛同は得られた。あとはモネだけだ。


「おいらは、一度やってみるのがいいと思うんだな〜」


「わたしからもお願いします」


「俺からも頼むよ、モネ」


 最後のラグーンの一言が決め手となったのか、遂にはモネも折れた。


「……はぁ、仕方ないわね。チャンスをあげるだけよ?」


「わぁ!ありがとうございます!」


 モネの言葉に、ミラは喜色満面の笑みを見せる。


「良かったわね、イリア! あ、迷宮探索は不安かもしれないけど安心して。それまでにわたしが冒険者のイロハをたっぷり叩き込んであげるから!」


「あの……ほどほどにお願いしますね」


「うふふふふ」


 エマも、ミラに負けない笑顔を咲かせた。

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