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冒険者登録(レジスタリング)

「冒険者登録したいのですが」


 ギルドの受付カウンターには、二人組が訪れていた。

 今声を発したのは、背の低い方の人物だ。

 透き通った女性の声。

 口調は丁寧だが、二人してフードを深々と被っており、表情は見えない。


「失礼ですが、フードは外してもらえますか?」


 それは想定内の質問だったのだろう。

 フードの二人組のうち片方の、背の低い方の人物だけが、すんなりフードを取って顔を晒した。


「まあ、お綺麗ですね」


 長い金髪と大きな瞳が印象的な、若い女性だった。

 細身の体は、とても荒事には向かないように見える。


「登録されるのは、お二人ですか?」


「いえ、私だけです」


 金髪の女性が答える。


「まあ!あなただけが?」


 女性冒険者も珍しいというほどではないが、男に混じって同じ仕事をするのに不利は否めない。

 冒険者ギルドの受付嬢なら、次に大体同じことを言うだろう。


「オホン、わかりました。最初にお断りさせていただきますが、冒険者は危険な職業で、命の危険も伴います。ギルドは一切の保証を負いませんのでご了承ください」


 コクリと、金髪の女性は一度だけ頷いた。


「戦闘の経験はお有りで? 失礼ですが、そうは見えません。もう一度よくお考えください」


 ここまでの受付嬢の話は、テンプレートのような常套句。

 ここで諦める人柄では、冒険者はやっていけないだろう。


 しかし金髪の女性は、諦めるでも反論するでもなく、ただ受付嬢から目を逸らさず見つめた。


 お互い何も言葉を発さず、沈黙が続く。

 その空気に耐えきれず、受付嬢の方が先にソワソワし出した。


「それでも、私は冒険者登録がしたいです」


 その空気を察したのか、金髪の女性が沈黙を破り、もう一度同じことを言った。


「……わかりました。そこまで言うなら、冒険者ギルドは来る者拒まず。歓迎しましょう」


 何か事情があるのだろうから、余計な詮索はすまいと、受付嬢は歓迎の意を示した。


「まずは冒険者登録ですね。承りました。それでは、こちらに必要事項を記入してください」


 受付嬢は、記入用紙と筆をテーブルに置く。


「代筆も承っております」


「お願いします」


「わかりました。では、お名前は?」


「イリアです」


「イリアさんですね。えっと、じゃあ希望の役職は?」


「魔法使いです」


 魔法使いはそもそも適正保持者が少ない。

 しかも、パーティーの火力の要であり、冒険者ギルドにとっても貴重な存在だった。


「ほうほうほう!なるほど、魔法使いですか。だったら、ちょっと待ってくださいね」


 受付嬢はイリアに待機するよう指示し、自分は奥へと下がった。

 暫くして、


「よっと、ジャジャーン」


 戻ってきた受付嬢は、透明な玉のようなものを両手に抱えてテーブルに乗せた。


「さあ!これは、魔力を測る水晶です! イリア、ここに手を乗せてみて! 」


 受付嬢曰く、これは誰にでも保有魔力量が分かるように作られた魔道具とのこと。


 イリアは黙って従い、水晶に手を乗せた。

 水晶は、すぐに反応を示す。


「いい!すごくいい!やったわ!イリア、あなた今日からうちの期待の新人(ホープ)よ! 」


 水晶は、鮮やかな翡翠色に染まっていた。


「ありがとうございます」


「お礼なんて必要ないわ。むしろこっちが言いたいくらい。これから、頑張ってね! 」


 水晶の調べが行われる様子を野次馬していた他の冒険者たちも、これにはかなり驚いたようだ。


「なんだなんだ!?」


「うわ、こりゃすげえよ!」


「羨ましいわ〜」


「うちのパーティーに入らない?」


 騒ぎを聞きつけて、冒険者たちが続々と集まって来た。

 皆、口々にイリアを褒めた。


 受付嬢は、腕を組みながらその様子に頷いていた。


「ちょっとそこ、勝手に勧誘しないでよ! イリアは私が最初に目を付けたんだから! 半端なパーティーには入れさせないわよ! 」


「最初に目を付けるって言ったって、受付嬢なんだから当たり前だろうに」


「そこ、うるさい」


 期待の新人を発掘した。

 そのシチュエーションに、受付嬢として彼女は燃えていた。


「イリア、初めてのギルドで不安かもしれないけど私に任せて。これも何かの縁よ、わたしが面倒見てあげる。もうすぐ仕事上がるからちょっと待っててね。大丈夫、悪いようにはしないわ」


「え?あの、ところで、冒険者登録は出来たのかしら? 」


「うん、もちろん。ばっちり完了よ」


「じゃあ、そこまでしてもらわなくても」


「えっ?」


「えっ?」


 受付嬢は、断られるとは微塵も思っていなかったかのような表情で固まった。


「……あ〜、でも、まだ分からないこともいっぱいあるでしょう? 」


「…… ええ、まあ」


「お姉さんが全部教えてあげる。そうだ、わたしはエマっていうの。よろしくね、イリア!」


 イリアは困ったような顔で、二人組のもう片方、フードの人物を振り返る。

 イリアの無言の問いに、フードの人物は小さく頷いた。


 それを見て、イリアは受付嬢の方に向き直った。


「わかりました、そのご厚意受け取ります。エマさん、こちらこそよろしくお願いしますね」


 イリアは、はにかんでそう答えた。


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