5話
5話 老いた狼の牙
1982年7月某日
フォークランド島沖
エクセターら英艦隊の周囲にアンデスの砲弾が降り注ぐ。
もし一発でもこのエクセターに敵弾が当たれば俺たちは一瞬で粉々になるだろう。
『くっ……………来るぞ!取り舵一杯!』
航海長がそう言うと無線で操舵手が復唱したのが伝わり、艦は左に向かう。
それから暫くすると右舷に巨大な水柱が立ち、それが崩れる。
『次、来るぞ!』
航海長がそう言うと今度は右に艦は向かい、左に水柱が立つ。
だが、万事休す。
遂にアンデスの砲弾がフリゲートアンテロープに直撃したのである。燃え盛るアンテロープの情報を聞いた俺の脳裏には幼少期に聞かされたデンマーク海峡海戦の話しの中で英国の誇る戦艦フッド が撃沈されたのを思い出した。
(ま、まずい……………)
俺はそう思いつつも主砲の操作スティックを調整し、アンデスに再度照準を合わせる。
「喰らいやがれ、この腐れ野郎が!」
俺がそう言うと11.4㌢砲が火を噴き、アンデスへと向かい、アンデスもこちらへ火を噴く。
そして……………
アンデスの射撃管制盤を吹き飛ばした直後、こちらも大きな衝撃を喰らった。格納庫被弾。
火災だけで済んだが、それにより本艦は戦闘不能に陥った。
結果、俺の艦はヘリ格納庫が大破の被害を受け、アンデスは集中砲火により艦橋や射撃管制装置破損の被害を受け、撤収せざるを得なくなった。無論、後に聞いた話だと乗っていたあの北日本将校も戦死したと言う。
が、こちらもアンテロープ以下フリゲート3隻と駆逐艦1隻を失い、英北関係も破綻した。
~~~~~回想終了~~~~~
目を覚ますと俺は汗まみれだった。見回すとそこは自室。どうやら夢だったみたいだ。
「夢か…………それにしても嫌な夢だったな……………」
俺はそう呟くと砂漠が近い海の冷たい朝焼けを見つめた。
アンデスは一線を退き、もう現役ではない。とは言え、俺や英海軍の戦友たちに
これからどういう死闘が待っているのだろうか。俺はため息を吐いた。
翌日、クウェート沖
ミズーリ戦闘指揮所
「日本の偵察機から入電!!敵は間違いなくイラク陸軍大統領親衛戦車大隊です!!」
「そうか……対地戦闘、主砲、83式榴弾用意!!」
「83式榴弾、装填用ー意!!艦橋要員は衝撃に備えよ!!」
ミズーリの戦闘指揮所でそう言う指示が下ると船体に装備された40㎝3連装砲が一斉に左に向くと仰角を上げる。それはウィスコンシンとミズーリも同じだ。
砲撃開始命令が下ると米海軍の艦砲射撃艦隊旗艦ミズーリが最初の砲撃を開始し、ウィスコンシンが続いて火を噴き、次々とスプルアンス級駆逐艦が火を噴く。
戦艦と言う巨大な龍がミサイル全盛期の時代に牙を剥くのである。
駆逐艦の艦砲射撃は小さい砲弾とはいえ、精密無比な命中精度を誇り、小さい砲弾であるとは侮れない。
そして戦艦の砲弾の破壊力は幾多の敵をミンチ肉に変える恐ろしい威力を有する。
この攻撃を食らった敵の運命を想像すると恐ろしい………