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4話

4話 脅威は老いた狼

1991年1月25日、この日イラク軍のミサイル攻撃のよって空母インビンシブルが撃沈されたのを目撃した私、ジム・スティーブ少佐はその夜、9年前のあの悪夢を思い出し、(うな)されていたのである。

~~~~~~回想~~~~~~

1982年7月某日

フォークランド島沖

その日、英海軍(Royal Navy)の派遣艦隊の第2戦隊旗艦である駆逐艦エクセターの戦闘指揮所(CIC)に私、スティーブ中尉はあった。

連中(アルゼンチン海軍)ですが、ジェネラル・ベルグラノについては我がコンカラーが撃沈される放った魚雷によって刺し違え、沈没しておりますが、もう1隻、アンデスが健在です…………」

そう私が言うと砲雷長のトンプソン少佐が「アンデス…………またの名を餓えた狼。その元をたどればかつて世界3位を誇った大海軍(大日本帝国海軍)巡洋艦(足柄)だ」と言うと私は「足柄。もしかしてあの即位記念(1937年)の観艦式に参加した日本の巡洋艦ですか?」と言うと「そうだ」と頷き、話しはしばらく続いたのである。

そして話終わると砲雷長は悲壮な表情を浮かべていた。それは絶対にあの船には勝てないと言う死を覚悟した表情であった。

しばらくするとミラージュ戦闘機とおぼしき航空機がレーダーに表示される。恐らく亜国のダガー戦闘機だろう。

インビンシブルが中破し、多数のミサイル防空艦(駆逐艦)主力戦闘艦(汎用フリゲート)を喪失した場合、英海軍(Royal Navy)の威信は崩れ、国民はマレー沖海戦敗北以上の衝撃を受けるだろう。

故に艦長に砲雷長、そして私も汗で全身がびっしょりだ。

そして…………次の瞬間、ハーミスの早期警戒ヘリから『目標まで70㌔!あと1時間以内でアンデス(アシガラ)の射程に入ります!』 と報告が入るとすぐに艦隊司令のリチャード少将が「対艦ミサイル発射!」と命じる。すると数隻のフリゲート艦からエグゾセミサイルがアンデスに向かって飛翔する。

最大の脅威であるアンデスを撃破すべく。しかし亜国艦隊側もシーダートやアルバトロス等の艦対空ミサイル、12.7及び11.4㌢の中口径砲に加えて76㍉、40㍉の小口径砲による弾幕で迎え撃ち、濃密な弾幕は20発中12発を撃ち落とした。

だが、迎撃をくぐり抜けたミサイルの1発は水上機用収容用のクレーンを撤去して増設した対潜ヘリ1機を搭載可能なアンデスのヘリ格納庫に命中し損傷を与えた。

しかしその威力は予想したより小さかった。

『アンデスは以前として健在なり!主砲をこちらに…………ミサイル警報!?うわぁあああああ!…………』

早期警戒ヘリ1号からの通信が途絶え、雑音だけが残った。

恐らくさっきのダガー戦闘機の対空ミサイルの餌食になったのであろう。


そして遂にアンデスの射程に入る。全艦艇、逆V字型の陣形で突入せよ!と命令が入り、全ての11.4㌢搭載艦がアンデスに照準を合わせる。そして…………

距離20㌔地点で砲撃命令が下り、砲撃が始まる。

物凄い砲煙に包まれるが、足柄の砲弾はその比ではない。

正直、当たればこちらは終わる。アウトだ。


かつての日本海やユトランド海戦の様に水上艦が合間見舞える大海戦の幕が切って落ちたのである。

いくらアンデスがシステム化されているとは言え、所詮はあの戦争の前に造られた全身に鎧を纏った武者(恐竜の生き残り)だ。

確かに戦前に建造された重巡であるアンデスは接収後、米国で戦闘指揮所(CIC)を設置したものの依然として現代の艦艇に比べてシステム化こそなされていない。だが格段と優れた防御力と攻撃力を有し、11.4㌢砲弾など浴びたところで蚊に刺された程度の被害しか受けない。

そして現代の柔らかい艦艇向けに作られた対艦ミサイルも硬い装甲で受け止めてしまうだろうが、大和と同じで大量の弾数を当てればすぐに沈むだろう。


私はそう思っていた。がその発想は甘かった。

魚雷とミサイルは違う。私はそのことを忘れていた。


そしてあの船(アンデスこと足柄)には英国への復讐に燃えるとある北日本海軍の派遣高級将校が乗り込んでいた。後に巡洋艦やましろの砲雷長である清瀬作造から聞いた話だと男の名は清瀬信雄、彼の父で、第13代統合幕僚長であり駐日武官時代に私の父と親交を築いた清瀬亮児の双子の兄で、つまり清瀬作造の伯父にあたる人物だと言う。そして何故、我が国へ復讐を誓うかと言えば彼は英海軍の駆逐艦のよって羽黒を撃沈された際に新任少尉として乗艦していたからだ。

父や我が友、清瀬作造の話だと実直な人物だった亮児に対して信雄は感情的かつヒステリックであり戦後、帰郷するや否や共産主義へと傾倒していったと言う。


この時の私は口径20㌢、総重量125kgと巨弾の恐怖にうち震えつつも、1万3000tもの巨大な巡洋艦と戦えると言う興奮が身体中を支配していた。

そしてその恐怖で形成されたトラウマは今も私の体を支配している。

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