0-3.状況は最悪だけど弓兵はとりあえず歩み出す
VRゲームやってたら、キャラごと異世界に拉致られちゃったでござる。
そんな世界での私の役目は、神様の実験のモルモットなんだそうで……。
どうして、こーなった。
実験って何をって思ってたら、クエストで実験内容を指示するからって。
それを全部クリアするまでは死んでも死なせないからなっだってさ。
死んだらまた頭からやり直しな? 無限ループだから覚悟しとけよって?
すっげぇ嫌らしい顔で笑いながら、そんな怖い台詞で脅されちゃった……。
……自分でも何を言ってるのかイマイチ良く分からない。
でも、私を取り巻いてる理不尽すぎる状況は、もっと訳の分からない代物だった!
もっとも……。
「転んでもタダじゃ起き上がってやらないもんね~」
あの後、この壮大というか、馬鹿らしいというか。無駄にスケールのでっかい割には、色々とみみっちい結果に終わってる気がする“実験”とやらを、円滑に。かつスムーズに進めるためにって名目で、アカシアの奴に勝負を挑んでみたんだ。
とはいえ、相手の中身は一応は神様らしいし、外側は森のヌシであるエント様。
普通に喧嘩しても絶対に勝ち目はない組み合わせだ。だから、勝負の内容は必然として武力以外にならざる得なかったんだけどね。
『……それで、何で勝負するつもりだ?』
『私が貴方の名前を当てる事が出来るかどうかってのは?』
『私の名はアカシアだと教えてやったはずだが?』
『ううん。貴方のホントの名前。いうなれば真名ってヤツかな?』
私がそう言ってみると、彼はちょっとだけ嫌そうに顔をしかめていた。
それを見て、私はますます確信を深める。
『貴方、ホントの名前は明石家って名前だったでしょ。地球人。しかも元日本人のなんじゃない?』
何故分かったって不思議そうにしてたから教えてやったよ。
荒木とかディオとかアスカとかヲタとか、あっちの世界の住人でないと分からない言葉を使ってたし。それに、そういったネタに普通に対応したりしてたのと、しつこいくらいに俺はアカシヤって名前じゃないぞって繰り返してたのが印象的だったからって。あと、真名って言葉に過剰に反応してたのも、それなりに日本の古い時代の風習とかに詳しい日本人とかしか居ないんじゃないかって思ったからかな。
それを聞いて、彼はバレバレだったかって苦笑いしてたけどね。それと、杉下警部のモノ真似に反応が薄かったのを見るに、けっこう前に世界を渡った人なんじゃないかな~って予想を付け加えたら、面白そうに笑ってたよ。
それで『分かった。良いだろう。お前の勝ちだ』って自分の負けを潔く認めてくれて、思い出したよーに『何を賭けるか決めてなかったな。何が欲しい?』って聞かれたから、素直に『チートな加護を下さい!』って頼んでみた。
チートって、具体的にはって聞かれたから『取得経験値をどーんと増やして!』って。
それを聞いて流石に呆れてたし、ちょっと渋ってたんだけど『そっちのほうが実験も早く進むと思うよ?』って言ってみたら、それなりに納得もしてくれた。
「んで、結果として、こんなん手に入りました!」
取得スキル、どーん!
>アカシアの加護【促成栽培】を得ました。
>取得経験値が常時30倍に増幅されます。
ひゃっほーい! こんなん貰ったどー!
加護の一番下のトコにエント様印な樹木のアイコンが増えてて、そこにいかにも「こいつは早く育つぜー!」って感じの名前の加護が貰えたんだもんね。ちなみに、なんで10倍でも100倍でもなく、中途半端な30倍なんて数字なのかというと、実は一緒に貰えた加護が関係していたりする。
>アカシアの加護【業突張者】を得ました。
>初期クラスが「アーチャー/スカウト/エンチャンター」のトリプルに変更されます。
いえーい! 多クラス化返してくれたどー!
まあ、流石にレベルアップまでは無理だから諦めろってことで、普通のトリプルクラスと違ってサブクラスは付いてないし、3クラスともカンストどころかレベル1からのスタートになってるらしいんだけどね。でも、取得した経験値が30倍になってるから、それが3クラスに均等分配されるってことは、つまり各クラスが約10倍の速度で育っていくって感じになるのかな!? かな!? うん、なんだか凄いね! 流石、神様、アカシア様! いよ、この太っ腹野郎ってなモンだよ!
……う、うん。まあ、どうやらネーミングセンスが壊滅してるらしいのは、たったコレだけを見ただけでも分かるってなモンだけどさ。……多分、こういうセンスのなさっぷりのせいで、色んなこと他人任せにしちゃってんじゃないかな~って気がしたし。で、でも、名前以外は大変結構な感じなんで、これはこれでアリだし、ちゃんと感謝しなきゃね!
……ただ、コレ貰ったときにボソッと「経験値だけ手に入れても金策が間に合わなくなるかもしれんがな」って、忠告らしきものも受けては居たのだけど……。
まあ、それもLvをあげまくってやれば最終的には廃人城主やってた頃の装備が身につけられるようになるだろうし?
大丈夫だ、問題ないってことで、ひとつ解決~ってことで。
そんなこんなで倍速どころか10倍育成モードに入っちゃった私は、育成マニアの血に火が入っちゃったのか、手当たり次第に目についた森の魔物達を射殺して、撃ち殺して、射殺して、撃ち殺して。たまにナイフをブッ刺したりして殺たりもしながらも、殺して、殺して、殺しまくった。……流石、促成栽培モードというべきか、手持ちの矢が尽きかける頃には、私のレベルは15ほどになっていたし、そこでようやく森を抜ける事も出来ていた。
さてさて。そんなこんなで、こんなんなりましたとさってことで。
ステータス、ぽちっとな。
NAMEs:アルシェ(♀)【魔弓兵】
CLASS:トリプル(アーチャー/スカウト/エンチャンター)Lv15
GUILD:シャーウッド(Lv10)
STR:85(+65)→150 / INT:40(+10)→50
DEX:60(+60)→120 / WIT:35(-05)→30
CON:80(-20)→ 60 / MEN:40(+50)→90
GIFT :前世の業、王の加護、呪印効果、促成栽培、業突張者
SKILL:[...]
……なんか表示がびみょーに変わってるし。
名前のトコの自称な称号がなんか文字増えてるような……?
クラスは、まあ、貰った加護のお陰ってことで納得なんだけど。
あと基本ステは、やっぱりゲームみたいに固定値なんだねぇ~。
もしかすると増えたりするかなって、ちょっと期待してたんだけどね。
……うん。まあ、これについてはすっぱり諦めよう。
残念だったねって。
さて、と。問題は、その後か。
神様から変な加護貰っちゃったのが原因なんだろうけど。
これはアレかな~?
前の世界で身につけた物以外の物を入手しちゃったからってこと?
しかし、それにしては随分と禍々しい言葉が並んでいるような……。
……なんだよ、前世の業って。カルマとでも読むのか?
う~ん。そんなに悪いことしたっけな……?
……うん。してたかも?
というか、思い返せばサーバ中から恨み買ってたような気もする。
……言い得て妙というか、納得というか。うん、よし。忘れよう!
さて、次はっと……。王の加護ってなんだろ。
もしかして、エント様がなんかこっそりくれてたとか?
……ああ、これってもしかしてゲームで入手した加護の事かも?
となると次の呪印ってヤツも、刺青でステータスいじってる分か。
その後ろの二つは、まあ、分かるんだけどね。
「ふむ」
まあ、ステータスについては今更騒いだ所でどうにかなるものでもなし。
あっそー、そーなったんだ。へー。程度に眺めておく程度に留めておく。
「さて、さて。こっちはどーなってるかなーっと……」
レベルもそこそこあがってきてることだし。
ゲームだとそろそろ色々とスキルが増えてきてる頃のはずなんだけど……。
そう思ってスキルの[...]を選んで詳細表示を画面を開いてみる。
そんな私の目に色んなアイコンが飛び込んできてきた。
おー、あるある。よしよし、ちゃんと増えてくれてるな。
弓での単純な遠距離攻撃系のスキルに、短剣の一撃必殺な近接攻撃系スキル。
他にもスカウト系の共通スキルで、これがあると色々な場所で便利って感じの【隠形】とか【静音移動】とか【気配遮断】とかの隠密行動系のスキルなんかも(まだぜんぜん低レベルだけど)ちゃんと増えてた。
あとは、スカウト系ではおなじみなスタントマン的なアクロバットな動きを可能にしてくれる各種ムーブ(フリークライミング系壁登りとか綱渡りとかレッツターザンとかの、いわゆる軽業系ってヤツ?)を可能にするのとかも覚えてるかな。
後は、矢とか短剣に色々と細工を施せるエンチャンターの状態異常付与系、いわゆる毒とか麻痺とかでお馴染みの状態異常付与系があったりする。
流石にお手軽に火力増強してくれる四大属性+αの属性付与系はまだ全然覚えてないけど。それ以外は、エンチャンターの代名詞とも言える単純に自分のパワーアップを行う各種増強系とかが多いかな~。
うん。まあ、総じて全体的に言えることは、覚えたばっかりでどれもこれもまだまだ効果の方は、びみょーなのばっかりってことだけどね!
「ふう。……目がチラチラする」
……流石はトリプルというべきか。使えるスキルだけはやたらと盛り沢山だ。
まあ、何しろ3つの職業のスキルを同時に覚えていってるんだからね。
多いのは当たり前っちゃ当たり前な話でしかなかったんだが。
とはいえ、今、気になっているのはコレじゃなくて……。
「エルフの固有スキル何処いった。……おっ!? やった! あった!」
これで勝つる!
初期村の種族固有クエストでないと身に付けられない特殊スキルの習得が不安だったんだけど、そっちも問題なく覚えてくれたみたいだ。
【夜目】とか【森の加護】とか【妖精族の教え】だの。
すっごく地味だけど、有るのと無いのとじゃ大違いな、大事な大事なバッシブスキル達があるのを見て、心底ほっとした。
……まあ、こんな風に山のようなスキル数があるとはいっても、その大半はバッシブ……。常時発動型の効果がうっすーい、イマイチ効果が実感しづらい程度の効き目しかないスキルとかばっかりなんだけど。
アクティブ型のズドーンと使った時に効果が目に見えるレベルで分かる様なのも一応はあるにはあるんだけどね。でも、そういうすっごい効果的なのは、費用対効果的な必然性でもって盛大に魔力を消費してくれたりするんだよね……。
一応は、その中間的な効果があるスキルで、明らかに効果を体感できるトグル型って呼ばれる効果を自分の意思でON/OFFできる、それなりに魔力消費が控えめなのもあったりもするのだけど……。
そういうのって大半が戦闘用スキルじゃなくて、ほとんどが隠形とか気配消しとかのスカウト系とかの特殊スキルだったりする。もちろん、命中率とか射程距離とかを増やしてくれるトグル系の特殊スキルもあるんだけど、やっぱり効果の方は目に見えるレベルの恩恵があるアクティブ型スキルには敵わなかったりするかな~。
そうなると戦闘で使える効果的な戦闘用スキルは必然としてアクティブ型のスキルばっかりという事になるわけだけど……。そればっかり使うとすぐに魔力切れを起こしてしまう訳で……。それが原因でさっきまでの森での狩りでも途中で弓をしまって、短剣に持ち替えて戦ったりしていた理由だったりするのだけど。
「う~。やっぱMPが一番のネックか~」
そもそもの問題として、私らみたいな弓とか短剣をメイン武器にしているクラスであるスカウト系のキャラは、そのほとんどが必然として魔法使いでなく戦士な訳で。そんな戦士系の宿命でもってHPは比較的に多い代わりにMPが少なかったりする。
……まあ、それでも魔力と俊敏性に優れたエルフだから、スカウト系の中では一番HPが少ない代わりにMP量と回復力に恵まれてたりするんだけどね。でも、所詮はメイジでなく戦士でしかないスカウトな訳で。
そんな戦士でも魔法使いでもないという中間職、盗賊系の職業ゆえの色々な部分の器用貧乏さ、言い換えれば中途半端さとひ弱さといった弱点は、ことある事にネックになってくるのが悩みの種だったりする。
ようはトリプルクラスになったことで多彩な選択肢を得て色んな職のイイトコ取りみたいな感じになって間違いなく強さの桁が一つは上がってるんだけど、そもそものベースになっている職は所詮は戦士もどきなスカウトでしかない訳だ。
その結果、使える膨大なスキル数に対して絶望的なまでにMPが足りてないってわけ。
特にスカウト系最大の攻撃手段であり、全職業の中でもっとも瞬間的な高火力を誇るブロー系スキル……。いわゆる弱点狙ってぶっ刺しちゃうぞ~系な致死攻撃(数種類あって全部覚えれば絶え間なく連発可能だったりする)は、これまたすっげぇ威力に比例して、えっぐい量のMPを大量消費してくれる訳で……。
これにエンチャンターの瞬間火力増幅系の各種ブースト系スキルを組み合わせると、そりゃあもう、全種族で最大の魔力量を誇るエルフのMPであっても、あっというまに使いきってしまう訳で……。まあ、その分、他種族じゃ真似できない馬鹿げた瞬間火力が得られるメリットもあるんだけどさぁ……。でも、そんなの使っちゃったら、もう色んな意味でもう後がない最後の手段ってヤツな訳で。
「ぶっちゃけ、燃費悪すぎてここぞという時にしか使い道がないんだよねぇ……」
まさに捨て身の必殺技、最後の手ってヤツな訳だ。でも、そんなの日常的に使えるはずもなく……。結果として、カタログスペックだけはやたらと豪華なんだけど、その実態は『お寒い限り』の一言な理想と現実の乖離っぷりってヤツを前に、思わず乾いた笑いが吹き出しちゃいそうになるよね……。
「まあ、一番の問題は弓の通常攻撃にもMPが消費されるって事なんだろうけど」
そう、そこが問題だった。
こっちの世界じゃどうか知らないけど、私の元居たVRゲームの世界の弓って、かなり特殊な構造をしてたんだよね。
まず普通の弓との一番の違いとしては、弓に弦が張ってなくて矢を打つ時にだけ魔力で弦が張られるって事と、その弦で矢を放つ時に弓そのものがほとんどしならない……。弦に込められる魔力の強さが、そのまま弦の張りの強さになってる感じで、結果として弓に込められる魔力の強さが、そのまま矢を放つ強さになってるって感じなんだけど。
まあ、そんな訳で、私のメイン武器である弓は、いわゆる魔力の弦の力で矢を飛ばす魔弓ってヤツだったらしくて、普通に攻撃するだけでMPが少しだけど減るんだよね。
もちろん、消費した分はすぐに自然回復はするんだけどね。でも、絶え間なくじゃんじゃん連続で攻撃してやると流石に自然回復が間に合わなくなるし、攻撃速度UPのスキルとか使って戦っていると尚更、自然回復が追いつかなくなって、あっという間にMPゲージが磨り減っていってしまう訳だ。
そんなこんなで、普通に弓を使ってるだけで、あっというまにMPがなくなっちゃう程度には消費がきつかったりする。……まあ、MP切れを起こしたら大人しく座って休んでいれば良いだけなんだけどね。
つまり何が言いたいのかというと、常時MPをごりごりと削ってくれる弓をメイン武器として戦わざる得ないアーチャーをメインクラスとしている限り、サブ武器の短剣でくりだせるスカウトの必殺技は使いづらいし、下手にスカウトの短剣技でMPを削ってしまうと本職の武器である弓が使えなくなるという本末転倒な結果になってしまうという事であって。
ついでに暴露してしまうと、エンチャンターのブーストスキルを上乗せしなちゃいけない代わりにエッグい威力を誇る超必殺技に至っては、MPがほぼ全回復してる状態でないと使うことすら出来ないという前提条件があって……。
MP消費の激しい弓使いにとって、その条件は厳しいを通り越して無理があるレベルの要求だったりする。
「ん~。どこまでいってもMPとの戦いになっちゃうんだよなぁ……」
──思い返せば、最初はあっという間にMPが切れちゃう事に驚いたよなぁ……。
チュートリアルのクエストとか、街の中だけでこなせる手紙配達とかの初期クエストとかでさ。ちまちまと、じみ~に稼いで稼いで……。ようやく貯めたなけなしの所持金で買った初めての武器、ショートボウ。……いやー、嬉しかったねぇ。
それを片手に喜び勇んで町の外に飛び出して行って、手当たりしだいにフィールドの敵に弓を打ちまくった挙句に、早々にMP切れを起こしてさ。その時に殺しきれなかった敵から必死に逃げまわる羽目になったなぁって……。
「うんうん。そうそう。ちょーど、あんな感じ……」
頭に矢が刺さってさ。みょーに殺気立った敵がすっごく怖くてさ。あんな風に、必死に逃げてたら……。そうそう。そんな風に次から次へと敵をリンクさせてしまってさ。盛大にトレインしてしまったなぁとか……。最後には逃げ切れなくなってボッコボコにされてしまったなぁとか。そんな苦い記憶が蘇るなぁって……。
ポコン。
>クエストが追加されました。
>魔物に襲われている旅の商人を助けて助力を得よう!
嫌な予感はしてたけどさ! やっぱり来ちゃったか、神様クエスト!
「はいはい。分かりましたよ。っていうか、下心丸出しだな、をひ」
やれやれ。こんなことならアロー、ちょっとは残しとくんだった。
我知らず苦笑を浮かべながらも、私はサブ武器である短剣を装備して、魔物の群れに追われてる馬車に駆け寄っていくのだった。