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弓兵の憂鬱  作者: 雪之丞
1/5

0-0.主人公不在の世界の片隅で弓兵は暇を持て余す


 MMOと聞いて、何を想像するだろう。

 聞き慣れない言葉だと思う人にはネットゲームとでも言い直そうかな。

 いわゆる多人数が同一のフィールドに接続して遊ぶ形式のゲームのことなんだけど。

 そういったゲームと言われて、普通は何を連想するものなんだろう……?


 ドラゴンとかアンデットとかエルフとかドワーフとかいるようなファンタジックな世界?

 それともFPSみたいなLvとかの成長要素がほとんど無いシューティングゲーム?

 プレイヤースキルとかだけでダイレクトにやりあうタイプのステトラジーとか?

 まあ、ネトゲって一言で言っても色々と種類があるからねぇ~。

 それこそ、ピンからキリまで。


 海外とかの場合には比較的プレイヤーのスキルが重視される傾向が強いみたいだね。

 ステトラジーもそうだけど、FPSとかは、その最たる物だと言えると思う。

 それこそ、ワンゲームにおいて何回も殺されたり、同一の相手を何度も殺したり。互いに殺し殺されしながら拠点占拠の度合いを競ってみたりね。

 もっとダイレクトにチーム戦で制限時間内に殺した数を競い合ったりするのもあるかな。

 成績とかアベレージとかで勲章とか貰えたりはあるみたいだけど、それが成長とかの育成要素につながらないのは、どれも同じなんだと思う。


 まあ、そんな成長要素の有無があるかないかだけでも、見た目は似たようなシステムの多人数で遊ぶタイプのゲームであっても、その中身は大きくデザインが変わってしまうのは、むしろ当たり前といえば当たり前の話でしかなかったのかもしれないけどねぇ~。


 ちなみに我が国を含む東アジア地域での主流は、その真反対にあったりするそうだ。

 プレイヤースキルに偏重しがちなFPS主体の世界の潮流とは真逆のファンタジックで美しい風景や装備品を美麗かつ豪華なグラフィックで描いた、色々とマニアックな衣装デザインとかが売りになったりするような育成要素必須で時間をかければかけただけリターンが得られるという、プレイヤーの腕を鍛えるのとは真逆の方向性を持ったファンタジー系のRPGが主体になっていたりするらしい。


 FPSが『中の人の腕を鍛える』要素に偏っているのに対して、この手のRPGは『プレイヤーをつなぎとめて時間を消費させる』要素に偏っているとも言えるんだと思う。

 まあ、この辺りは文化とか流行の違いというか、そういうレベルの趣向の違いって結論付けられているんだけどね。


 他にも、前者のプレイヤーはだいたいどのゲームも操作系が似たり寄ったりといったこともあって、そのゲームで鍛えたテクニックを次の新しいゲームに持っていきやすいのに対して、後者のゲームのプレイヤーはテクニックを鍛えられる要素がほとんどない事もあって、単一のゲームにいつまでたっても縛り付けられやすいシステムデザインになっているという部分の違いもあったりするのかな。


 まあ、そういった新規ゲームに移住することが容易なデザインになっているお陰で次から次へと新要素とか載せた新ゲームをリリースできるんだろうけどね。

 そろそろ飽きてきたので新しい刺激が欲しいと思っていた旧作のプレイヤーとか、他ゲームに飽きてきて移住先を探していたようなプレイヤーがあっちに行ったり、こっちに来たりで。だから景気の良いウン百万本売れたってニュースになったりもするわけで、それは結果として開発側に色々な冒険に挑戦させることへの原料力にもなってくれているのだとか。

 ……まあ、そういった流動性の高さなんかの面でも両極端な違いがあったりするってわけ。


 さて。少々前置きが長くなってしまったのだけど。とりあえず、今話題にすべきは成長要素があって、プレイヤースキルよりもつぎ込んだ時間が殆どの場合において能力の高低を決定するような傾向のあるファンタジータイプのRPG。さっきまでの話でいくと、いわゆる後者の方のゲームって事になるんだろうね。


 この手のゲームでは、基本的な操作体系はどれもこれも似たり寄ったりで、マウスとファンクションキーだけで操作出来るってタイプが大半だったりした。

 まあ、定番のキー設定とも言えるWASD+スペースとかの特定キーとマウス操作だけでプレイするようなFPSとかも似たような物といえばそうなんだろうけどね。


 決定的に違うと感じるのは相手に狙いをつけたり、相手からの攻撃を回避したりといったアクション要素の部分が、前者は攻撃対象を指定して攻撃を指示するだけといった、完全にシステム任せで自動化されている代物であるのに対して、後者の方はプレイヤーが自分で操作して攻撃を命中させたり回避しなきゃいけないってことで……。

 わかりやすく表現するなら、全く同じ条件のキャラ同士が戦わせた場合に、前者の場合には互いに同じようなダメージを受けたり与えたりすることになるのだけど、後者の場合にはプレイヤーの腕、技術によっては一方的に攻撃を当てたり回避したりするして完封することが出来るという意味であり、こういったプレイヤーの操作技術の介入度合いの大きさの違いこそが、システム的に一番大きな差異として現れやすい部分なんではないかと個人的には思っていたりもするのだけれど。


 まあ、それは良いとして……。


 ネットゲームってヤツの大原則というか常識レベルの話になるのだろうけど、これらのゲームには、基本的には主人公って概念はない。それは、居る、居ないといった問題ではなく。ハナから存在しないって意味で。

 もちろん、主観的な意味においては、自分が操作しているアバター……。自分の操作キャラクターが自分にとっての分身であって、考え方とか捉え方によっては自分にとっては主人公って認識になるのかもしれないけどね。でも、そのサーバーには色んな人達が自分と同じようにつないでいて、色んなキャラクターでログインして遊んでる訳で。そういった意味では、そのサーバーにいる全員がある意味、主人公であるとも表現出来るのかもしれない。


 まあ、そういった概念部分は何処か現実社会と似ていて、街のど真ん中で「俺は、この世界の主人公だ!」なんて力いっぱい自己主張してみたところで、その人はせいぜい可哀想な人扱いされて後ろ指を指されるのがオチなのだろうし?


 まあ、つまり、何が言いたいかというとね……。


「……すっごく、暇、なんだけど」


 そう暇すぎて埒もない事をつらつらと考えながらボソっと口にする。


 ……っていうかさ。なんかおかしくない? 今、私がやってるのって、確か戦争ゲームのはずなんだよ? そんでもって、今は戦争中な訳で。……それなのに、なんで花形であるはずのギルドマスターが、こーして暇してなきゃいけないわけ……?


 そんな私は、自分が腰掛けている無駄に豪華で金ピカで悪趣味な椅子こと『支配者の座』とかいう名前の座り心地最低度MAXな椅子にため息をつきながら足を組みなおしてみたりするくらいしかやることがなかった訳で。


「暇なのは大変結構なことだ」


 そんな私のぼやき声に答えるのは、椅子の背後に控えたでっかい白い鎧を着た騎士。部屋のアチコチに配置された黒い色で統一された騎士タイプのゴーレム達『守護機兵団』と見た目は似ているけど、中身のほうは随分とかけ離れていたりする。……主に右斜め上方向に。


「ん? 今、何か、言ったか?」

「いえ、何も……」


 今、背後から剣が喉のあたりに押し付けられたような妙な殺気が感じられたのは、きっと私の気のせいじゃなかったのだと思う。……というか、その振り上げてるハルバード下ろしてくれないかな……?


「ねえ、ヴァイス。私も外に出たいなぁって……」

「アルシェ。今は、何の時間だ?」

「……えーと……。城取り戦中?」


 そう。とっても楽しい戦争中。このゲームで一番盛り上がるだろう定期イベントの真っ最中ってヤツで。私も大好きなメインイベントの真っ最中ってヤツだったりした。


「正ェ解ァィ。で、俺達は?」

「城主勢力」


 一応、守備側。宣戦布告組を待ち構えてる側。


「じゃあ、お前は?」

「城主勢力の代表者、平たく言えば城主」


 一応程度の補正効果とはいえども、こうして城主が王座に座っているだけで、城のフィールド内に居るNPCまで含んだ守備兵力全体に一定の特殊効果が与えられている。……だから、こうして、城主は基本的には王座に座ってなきゃいけない訳だし、その周囲をがっつりと守ってる訳だけれども。


「それじゃ、俺達の城に宣戦布告してきやがった身ほど知らずの阿呆どもの勝利条件ってヤツは、なんだ?」

「……城主勢力の敗北」

「もっと具体的には? 城主であるお前が連中に討ち取られた時点で、問答無用で俺達の負けってこと、そろそろ思い出せたか? ん? あと、お前がそこから動くと補正が切れて全員が迷惑するんだからな? それも思い出せたか?」


 そう言いながらコンコンコンコンと金属製の(ナックル)で私の(ヘルム)をノックしてくる自称“護衛役”の白騎士ことヴァイスに釘を刺されるまでもなく、自分の役割は理解している。……理解しているつもりだった。だったのだけど……。


「分かっちゃいるけどさぁ……」

「まあ、せっかく念願の“アレ”を手に入れたのにコレじゃあなぁ……。我慢できないで飛び出したくなるって気持ちも分からんでもないが」


 だが、今日は、駄目だ。そうきっぱりと駄目出しして、私の肩をギュッと背後から押さえつける彼は、きっと護衛役というだけでなくお目付役でもあったんだと思う。


「……私の弓が泣いている」

「だろうな。俺の相棒ハルバードもそろそろ錆びついてそうだ」


 そんなタメ息をつく私達の想いはきっと共通だったのだろうと思う。


 ──そろそろ誰か踏み込んでこないかなぁ。

 ──そろそろ誰か踏み込んでこねぇかねぇ。


 そんな私達の心のボヤキを他所に、城はまるで無人のように静まり返っていて。私達の周囲に点在しているNPCのゴーレム騎士達もピクリとも動かないでいる。

 ……ん~。視界の隅にあるレーダーを見るに、どうやらほんとに無人っぽい……。

 なんかさっきからギルドチャットの画面で『押せ押せ押せ押せ~』だの『このまま崖に押し込んだれ~』とか『ヒャッハ~! 汚物は消毒だ~!』とか『落ちろ、落ちろ、落ちろ~!』とか、やたら物騒で威勢の良い荒っぽい指示とか台詞が流れてる始末だし。


「確か今回の戦力差って……」

「防衛がうちらの主力ギルド3、サブギルド3で6。友軍4の併せて10ってトコか」

「敵は?」

「開戦10分前の段階で125ギルドが攻城登録済み」

「戦力比は単純計算で12倍ってトコ?」

「そんなトコ」


 普通なら開始十分持たないで落ちるレベルの戦力差なんだろうけどね。


「まあ、前の時が戦力比45倍でも落ちなかったんだ。この程度なら、まだ想定の範囲内ってトコだろ」


 前のときは色々とアクシデントが重なりまくって、色々と方々で恨みを買いまくっちゃったせいか、サーバーの全戦争ギルドと上位の狩りギルド総出で攻めこまれて落城寸前な最終防衛ラインまで押し込まれたもんなぁ……。と、他人事のように振り返ってみる。

 ……いや、あの時もハラハラドキドキさせられながら椅子に座って固まってたから、実際、どんだけやばかったのかは、後からメンバーがアップしてくれたダイジェスト版の動画見て、ようやく分かったって感じなんだけど。

 そんな前の時と違って兵力差は開いてないし、それでも前の時には痛い目にあったから、こうして手抜きせずに最上級グレードの無人君ことゴーレム騎士団も城のアチコチにたんまり配置してあるし。流石に、これなら余裕だろって声が頭の上から聞こえた気がしたけど……。

 押し寄せてくる敵勢力を場外に展開した迎撃部隊と防衛兵器のゴーレム騎士団だけで迎撃、撃退できちゃってるって感じ?


「うん。そんな感じ」


 ただ、まあ。……なんか面白くないんだよな。そうボソッとつぶやいた彼の言葉のとおり、私もなんだか妙な違和感というか不安のような気持ち悪さを感じている。


「真っ当にやったら、ウチのギルドの主力部隊が守ってる正門の防衛勢力に勝てっこないってのは、連中も前の時に嫌ってほどに思い知ってるはずなんだがな」


 以前に鯖総攻撃(そうしゅつげき)などと呼ばれたド派手な城取り戦では、防衛側が自分達と協力ギルドだけ。敵は、それ以外のほぼ全部のギルドという笑ってしまうような絶望的な戦力比の状況になった訳だけれども。……その時には、全サーバーの歴代の中でも最高の戦力比になる45倍なんていうふざけた記録を叩き出しちゃったのだ。

 それでも真正面からやりあったら、前の時と同様にウチら“シャーウッド”の誇る主力メンバー……。自他ともに認めざる得ない廃人プレイヤーの集団による反則じみた瞬間最大火力で一気に焼き払われてしまう訳だけれども。


「……正面、どんな感じ?」

「圧倒的じゃないか、我が軍わって感じ」

「圧巻?」

「無双状態。向かう所敵なしってヤツだな」


 レベル上限の制限がある以上、レベル差はさほど開いてないはずなのだけど、根本的な装備品の差と色んな“加護”の有無の差で瞬間火力の大きな差が生まれているんだと思う。

 何の策もなしに数に頼っただけで真正面から挑めば、前の時と同じく半分以下の数の敵に、単なる動く的扱いされてあっという間に焼き払われて食い荒らされる。それを嫌というほどに前のときに味わったはずなのに、それでもまた派手に攻め込んできた理由って、何なんだろうね……。きっと何か理由なり何なりがあると思うのだけれど。


「まだムカついてるままですよっていう意思表示?」

「それにしては間が空きすぎだろ」


 前回の総攻めから3ヶ月経ってるしなぁ……。


「前の時、最終ラインまでイケたんだから少数精鋭でもう一回って感じかね」


 前の時は明らかに日頃狩りメインのニワカ戦争屋さんが好き勝手に動いていて、結果として向こうの戦争屋連中の足を引っ張ってくれてたらしいから……。


「……にして、真正面ばっかりってのもなんか変だよね」

「まあな……」


 あんまりにもド直球に正面ばっかり攻めてくるモンだから、こっちも守備隊をそっちに集中せざる得なくて、他のトコはNPCの無人君にお任せって有り様になってしまっている。

 ……まあ、敵のこないトコで暇してろってのも可哀想だからね。これで裏をかかれたとしても、それならそれで仕方ない。それに、万が一、他の守りが抜かれても城内へ帰還するアイテムを全員保持してるから、ギルドチャットで号令さえかければ全員がものの数秒で城主の間に飛んできて、最終防衛ラインを構築。城内に侵入してきた敵戦力を一点集中で迎撃して食い止めるって感じのプランBに移行できる手はずになってるし……。


「向こうさんも、それは知ってるはずなんだがな」


 前の時も、そうやって最後の防衛ライン作って時間一杯粘って守り切ったんだから、中まで攻め込んだら一気に戦線が後ろに下がるってのは、向こうも分かっていそうではあるんだし、前は最後の通路で数に頼れない質のぶつけあいになって、こっちの防衛隊を抜けなかったわけだし……?


「やっぱり、何か不自然だよね」

「やっぱ、そー、思うか?」


 そんな私達の背後に突如として姿を表して、天井近くにある通路からバラバラと降ってきたのは、見間違うはずもない敵対勢力側を示す赤い旗のエンブレムが頭上に輝く短剣使い、アサシン達であり……。


「野郎!」


 咄嗟に立ち上がって、連中に向かって弓を構えて広域攻撃スキルを使ったのと、ほぼ同時に背後からヴァイスの広域防御スキルが展開されるのが見えて。そんな二重のエフェクトが重なった空間に、究極回避を発動させながら殺到してきた敵側の高レベルな短剣使い達が放つ致死性のファイナルブローが無数の煌めきを生み出していた。



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