天使の槍
唐突な出来事だった。
俺がそのことの全容を知る時がくるのだろうか。
「お前は選ばれたのだ。お前が拒絶することは、神を拒絶することである」
会社への通勤途中、駅へと向かう細い路地を一人歩いていた俺は、突然、こんなことをいう白い服で全身を覆っている人に道を阻まれた。
「や、別に神とか信じてないんで」
通ろうとしても、通ることができない。
「お前の信心については聞いておらぬ。お前はずいぶん昔に、悪魔を見たであろう」
高校で確かに俺は悪魔を見ている。
正確にいえば、悪魔と戦う女子と共に、悪魔を校舎屋上で見た。
だが、もう8年前になる。
「それで、あんたはなに者なんだ」
「我は天使。我は神の使い。我は神の一部」
「天使ねえ……」
今ひとつ信じられない俺は、天使である証拠を要求した。
「見よっ!」
掛け声と共に、背中から羽が生え、後光が差した。
思わず柏手を打ちたくなる神々しさだ。
「分かったわかった。あんたは間違いなく天使だ。で、天使が俺に何の用なんだ」
「来るべき悪魔との決戦において、力となって欲しい。詳しくいえば、我と共にいよ」
数瞬考える。
俺が今いるのは独身寮で、誰かと同居することは許されない。
だとすれば何処かに家でも借りなければならないだろうが、それで金銭的負担が増えるのは好ましくない。
だったら話は簡単だ。
「お金とかかかるんでしたら、この話、なかったことに」
「否、我は天使。姿を消し、共に行く。迷惑はかけぬ」
すでに会社に遅刻しそうになっているという迷惑をこうむっているが、口には出さない。
姿を消せるというのであれば、必要な時に姿を消してもらえればいい
静かにしてもらえればバレる心配もないだろう
俺はため息をついて、天使に言った。
「分かった、一緒に行こう」
うむと短く天使はいった。