それぞれの
小雨が降る中、マリーは目的の場所を目指して走り続ける。
走り続けると、やがて一本の細い小道に出る。
その小道を伝い、暫く走っていると、遠くの方に、小さな小屋が見える。
この小道は小屋まで続いているようだ
「あっあれだ」
ようやく見えた目的地に、走るスピードを上げるマリー
だが上空から黒い影が三つマリー達に迫る
その影は、空を飛ぶ鳥型の小さい魔獣で、攻撃力は全く大したことはないが、
その分動きが素早いため、攻撃を当てるのには、かなり苦労をする
少しやっかいな敵である。
目の前から急速に迫る三つの魔獣に、
「何、あれ」 と驚くマリー
魔獣とマリー達との距離がグングン縮まる、ぶつかる寸前なんとか体を捻って魔獣の攻撃をかわす。魔獣は、その勢いのまま飛び去り、一気にマリー達との距離が開く。魔獣の攻撃をかわしたマリーだが、バランスを崩しそうになるが、なんとか踏み留まる。
どうしようかと立ち止り、悩んでいると
「林の中へ入るんだ、あの魔獣ピーは、スピードはあるけど、方向転換は苦手だから」
「シン様」
突然の背中からの声に、シンが生きていると感じ喜ぶマリー
だが、シンの言葉を直ぐに思い出し、林の中へ駆け込むマリー達
林の木々に邪魔をされ、攻撃が出来ないピーは
マリー達の上空をグルグルと旋回する。
マリー達は道沿いに林の中を、ピーを警戒しつつ、小屋を目指して歩き続ける
だがその林の木々もついに途切れる
林と小屋との距離は約二十メートル程あり、その間を遮る物は何もない。
「僕が魔法で奴らをけん制するから、その隙に小屋へ走って」
マリーがシンの指示にコクリと頷くと、一気に林の中から走り出る
上空に待機をしていたピーがマリー達に襲いかかる
『火炎弾』
シンは魔法を発動した
空中に現れたボール大の炎の玉は、三匹のピー目指して飛んでゆく
放たれた三つの炎の内二つは、目的を果たしピーを黒こげにしてゆく
だが残るひとつは、火炎弾をかわし、二人に迫ってくる
シンが、また魔法を発動使用とするとその前に、
何処からかナイフが飛んできて、ピーを串刺しにする。
その様子に、少し驚いていると、いつの間にかメイド長が、
マリー達と小屋との間に立っていた。
「大丈夫でしたか二人とも」メイド長の問いかけに
「有難う御座いますメイド長、でもどうして此処に?」
「この地は魔獣の森に一番近いから、時々空から弱い魔獣が出るのです。あなたが心配だから後をコッソリつけて来て仕舞いました」
「だったら、どうして一緒に来てはくれなかったのですか」と、尋ねるマリーに、
両手を頬に当てながら、腰をクネクネして顔を若干赤くさせながら
「だってー、マリーちゃんの大事な人の一大事なんですもの、邪魔をしちゃ悪いと思ってついね。」
その言葉を聞いたマリーの真っ白な綺麗な顔がミルミル真っ赤になってゆく
更に言葉を続けるメイド長
「でも、おかげでいい絵が撮れたわ」
とニコニコしながら、懐から小型の記録型の魔道具を取り出す
「お気に入りは、やっぱりマリーちゃんが、シン様、しんじゃいやのセリフかしらね、おもわず目頭が熱くなっちゃった。」
その言葉を聴いたマリーは
「イヤー ヤメテー」と、 顔を真っ赤にしながら叫んでいた。
小屋の中に入ると、既に暖炉には火が付いており、テーブルの上には
温かいスープとパン、新しい服が置いてあった。
しかもベッドのシーツも新しく替えられていた。驚く二人にメイド長は、
「メイドですから」と、当然の様に言っていた。
新しい服を着るために、騎士達にやられ、傷付き血だらけになった服
を脱ぎだすシン
シンの姿を顔を両手で覆い、指の隙間からチラチラとシンの着替えをガン見
するマリーと、眼を下に伏せ、時々シンを見るメイド長
( 凄い、アレだけ傷めつけられたのに、傷がもう殆ど無くなっている )
心の中で驚きながら、冷静な顔を保つメイド長
シンが着替え終わるのを待つと、
「マリー、そろそろ日が暮れます、帰りますよ」
「えっでもシン様が」と、ためらうマリーに
「これ以上私達の帰りが遅くなれば、旦那様がシン様に嫌がらせをする口実を与える事になります。」
その言葉に納得せざるおえないマリー、 しぶしぶ頷くと、小屋を後にする二人
帰り道の中、無言のまま歩き続ける二人 途中急にマリーの歩みが止まる。
「どうしました マリー」
メイド長に問われ、意を決したように、話始めるマリー
「メイド長、私に闘い方を教えてください」
「いきなりどうしたのマリー?」
「私、シン様の為に何も出来なかった、こんな想いはもう二度としたくありません。だから私、力が欲しいんです、シン様を守れるだけの力が」
「それを、彼が望まなくても?」と、問うメイド長に
「はい」
真っすぐな瞳で、メイド長を見つめるマリー
「はーまったく、若いっていいわねー」と、若干羨むメイド長
「いいわ、鍛えてあげる。でも、やるからには最強を目指すわよ、私が貴方を最強のメイドにして上げる。」
「あのー、最強のメイドじゃなくて、闘い方を……」
マリーの話しが終わる前に、走り出すメイド長
「さあマリー早速鍛えますよ、本館までダッシュです」
「あっ はい」慌てて走り出すマリー
( 待ってて下さいシン様、私、絶対強くなりますから )
メイド長とマリーは揃って走り出した。
・・・・それから三日後・・・
ガイエス帝国とリムノス国との国境付近
リムノス国側の砦の中の一つの建物の中で、一人の青年将校が、
ある報告の為に扉の前まで来ると、大きく息を吸い込み、扉を開ける
「失礼します」
扉を開け中に入ると、目の前には豪華な造りの椅子と机が有り
その椅子の上には、十二歳位のダークエルフの女の子が座っていた。
青年将校は、机の前まで来ると、女の子に手に持っていた報告書を手渡す。
手渡された報告書を手に取り、一通り報告書を読み終えると
報告書を無造作に机の上に投げ、怒気を露わに
「あのうつけめ、良くも二年間も、この私の事を謀りおって」
その余りの迫力に、少したじろぐ青年将校
「しかし、この報告書に書かれている事は、本当の事なのでしょうか、自分には正直信じられません」
「ほう、どのような所が信じられぬと」 少女が問うと
「はい、生まれて直ぐに人の言葉を理解し、しかも二歳で魔法を使うなど正直信じられません」
「では、この報告書には偽りが書いてあると?」
「そうは申しませんが」
「では、この報告書に書かれている事が真実だとしたら、お前はどう思う」
「はっ、考えられるのは、加護持ちか、或いは 神の覚醒者 ではないかと」
「加護持ちは考えられぬな、生まれたばかりの子供に加護の力は制御出来ぬ、必ず一度は暴走するが、この子にはそのような様子は見受けられぬ。 神の覚醒者 にしても、二歳で覚醒するなど聞いた事が無い」
「では一体何なのですか、この黒髪の子供は」
「私にも判らぬ」
「………」黙り込む将校
少しの間、沈黙が部屋を支配し、やがて少女が口を開く
「この子については様子見で良かろう。あの愚か者には罰を与える、黒髪と言う概念に捕らわれ、正確な状況判断も出来ぬ者には、シュタインベルク家の当主代行など務まらぬ、辞めてもらう。」
少女の指示を受けた青年将校は、少女に敬礼をすると部屋を出て行く
一人きりになった部屋で少女は椅子から立ち上がり、
窓際に寄り、窓の外を見つめる。
遠くの方に、黒い魔獣の骨の残骸が窓から見える。
彼女は闘う時以外は、いつも少女の姿をしている。
それには理由がある。
いずれまた出会うかもしれない 彼 に、出会った頃の姿でいれば
直ぐに自分の事を見つけてくれると信じているからだ。
彼女は、魔獣の残骸を見詰めながら、
彼が別れ際に発した言葉を思い出していた。
( またいつか、必ず逢える )
彼女は彼の事を思い出し呟いた
「 黒髪の仮面の剣士様 」