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ドーピング  作者: 銀槍
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流れる時代

むかーし むかーし あるところに、天才的な腕を持った、魔道具作りの男の職人がおりました。

その職人はある貴族の元で働いておりました。

ある日職人は、新しく開発した魔道具のテストのために、貴族に仕えている女性の騎士と二人で、ある林の中へとやって来ました。


「ここまで来れば良いでしょう」と職人が女騎士に言うと、


「本当にこんな所でやるのか」と


体をマントで覆いながら、モジモジしながら、職人に尋ねます。


「当たり前ではないですか、作ったものがどれ程の物か調べるのは当然です」


そう言うと、男は上の服を脱ぎ、上半身裸になりました。

 

「なぜ服を脱ぐ」と女騎士が職人に訊くと、


「素肌でなければ、判らないこともあるのです」と真顔で答えます。


「それでは魔道具のテストを始めます、まずは防具からです」


職人が宣言すると女騎士はマントを脱ぎ始めました。

マントを脱ぐとそこには、赤いボンテージを身に付けた女騎士が現れました。

職人の指示の通りに、防具に魔力を注ぐと、女騎士は通常の三倍のスピードで動く事が出来ました。凄い性能です、見た目はアレですけど


次に職人が試したのは、熱い蝋が広範囲に飛び出す魔道具です。

職人は女騎士に言いました。

 

「それを私に向って、使いなさい」と


女騎士は言われた通りに、職人に向けて魔道具に魔力を注ぎ込みます。

すると魔道具から熱々の蝋の玉が職人に向けて、広範囲にばら撒かれます。

職人は、素人とは思えない動きで蝋の玉をかわし続けますが、幾つかは職人の身体に当たってしまいます。職人は蝋の玉が身体に当たるたびに、


「あっ、あん、ダメ」 といった嬉しい様な、苦しい様な声を上げます。


最後に職人が出したのは、20センチ位の筒の形をした魔道具です。

その魔道具は、魔力を注ぐ事によって、魔力で出来たムチを作る事が出来、しかも、変幻自在、数も何本も作りだす事が出来る優れものでした。


早速職人は、女騎士に使うように指示します。

女騎士は筒に魔力を込めます、すると女騎士の手元に、一本のムチが現れました。

女騎士は職人に向けて、ムチを振るいます。

最初は上手く避けていた職人も、段々自ら当たるようになってきました。

ムチに打たれている職人は、とっても嬉しそうです。

その様子を見ていた女騎士は怒り、


「こんな物が、武器であってたまるものか」と叫び、


手に持っていた魔道具を、おもいっきり、遠くへ投げ捨てました。

投げ出された魔道具は、元の筒へと戻り、川の中へポチャっと入ってしまいました


その場に残されたのは、ムチで打たれて、嬉しそうな顔をした職人だけでした


   ・・・・そして現在・・・


シンは薬草室にある簡易ベッドの上で目を覚ましました。

シンが辺りを見回すと、隣にはシンと同じ二歳位の普通種の女の子がスヤスヤと眠っていました。


「おっ やっと起きたか」

 

シンが声がした方へ顔を向けると、そこにはプロレスラーの様なゴツイ身体と顔に、頭の上に犬耳を生やした四十歳位の男の獣人がいました。


その男は通称 犬先生 と呼ばれるハーフの獣人で、その隣で薬草をすり潰しているハーフの猫の獣人は 猫先生 と呼ばれる彼の奥さんだ。

ちなみにシンの横で寝ているのは、二人の子供だ。


なぜハーフの獣人から普通種の子供が生まれる仕組みはこうだ。

普通、顔が獣の獣人とハーフの獣人が子供を作ると、生まれる子供は顔が獣の獣人か、ハーフの獣人が生まれる。ハーフの獣人同士の獣人が子供を作ると、生まれる子供は、ハーフの獣人か、普通種の人間の子供か、顔が獣の獣人が生まれる。


「いぬちぇんちぇい、マリーはどこへいきまちたか」とシンが尋ねると


「マリーの奴なら、他に仕事が有るとか言って出ていったぞ。お前の事を宜しく頼むと、涙ながらに俺に頼んで行きやがった。まったく大袈裟な奴だよ、まったく」


半分呆れながら、犬先生が言うと、シンもまったく同感だと感じた。


「いぬちぇんちぇい どうもありがとうございまちた」


とシンが、感謝を伝えると、

 

「俺は何もしてねえよ、お前の身体がかってに治っただけだよ」


そう言うと半分呆れながらシンを見る。

シンはそう言われると、自分の体をペタペタとさわって調べると、いつの間にか、顔の傷もタンコブも消えていた。自分自身不思議に思っていると、変な臭いが何かを煮ている鍋から漂ってくる。

余りの臭さに思わず鼻をつまむと、


「いやーすまんすまん、今、魔力草を煮ていてな、後もうちょっとで終わるから、もう暫く我慢してれ」


と全然悪びれずに言う。


その言葉を聞いて、シンの瞳がランランと輝く なにせ自分の弱点を克服出来るかもしれない希望の星が、目の前にあるのだから。


猫先生が、鍋をもう一つ用意し、ザルを空の鍋の上に置き、魔力草の入った鍋のお湯を上から掛けて、ザルで濾してゆきます。ザルに残った茹でられた魔力草は、近くにあったゴミ箱へ捨てられました


それを見ていたシンは、ゴミ箱に近づくと、茹でられた魔力草の一つを手に持ち


『解析』


魔法を唱えると、彼は出てきた結果に驚きました。


< 茹でられた草 魔力総量を4上げる力がある >


シンは余りの結果に ブッ と吹き出してしまう。その様子を不思議そうに見ていた犬先生は、


「なんだ、どうした」とシンに尋ねました


「いぬちぇんちぇい これすてちゃゅの?」


「当たり前だろう、魔力を摂ったら、たたの草だ草」


その言葉にシンは驚きました、もしかしたら、この世界には『解析』の魔法は、無いのかもしれません。

シンはゴミ箱から茹でられた魔力草を、全て拾い集めると、


「いぬちぇんちぇい これちょうだい」とお願いしました。


「こんなものどうするんだ」と犬先生が尋ねると、


シンは、そのまま黙り込んでしまいました。言える訳がありません

茹でられた魔力草には、まだ力が残っているなんて

黙ったままのシンを見つめて、犬先生は察しがつきました。


(こいつは旦那様に嫌われてるんだったな、たぶん、ろくな物も食べさせて貰って無いんだろうな、可哀想になあ)


犬先生は、つぶらなお眼目から涙を流しながら、


「こんな物で良かったら、幾らでもくれてやらあ」


行き成り涙を流し始めた犬先生にドン引きしつつも、シンは有り難く魔力草を頂戴し、帰り際に、ビンに詰められたお湯に『解析』の魔法を掛けると、上昇値がたったの1だった。


薬草室を出て、自分の部屋がある場所に一番近い本館東側の入り口のドアを目指して歩みを進め、入り口のドアの前まで来ると、ある重要な問題が発生した。


(ドアに手が届かない)


いつもはマリーにやって貰っていたので全く気が付かなかったシン

しょうがないので、直ぐ側のレンガで出来た花壇の縁に座り、マリーを待つ事にしたシン

ただ待つのも暇だったので、右手に握り込んでいる魔力草の1枚を、ヒョイと掴んで、口の中に入れ、モグモグと食べてみる。

すると、余りの苦さに、反射的に吐き出しそうになるが、なんとか、飲み込む事が出来た。

  

( この苦さハンパじゃない、一体どうしたらいいんだ )


ウンウン考えていると、前世の知識で ミラクルフルーツ という知識が浮かんできた。

ミラクルフルーツというのは、小さい食べ物で、それを食べた後にレモンをかじると、本来、すっぱく感じる筈なのに、甘く感じるという、奇跡の食べ物なのだ。

つまり、舌の味覚を変えれば良い訳だ。


『味覚変換』


僕は魔法をイメージする 舌の味を、何を食べても 桃 の味になるように魔法を掛ける。桃は、僕が一番好きな果物だったからだ。

魔法が効いてるかどうか確かめるために、魔力草の葉を1枚口に放り込む。

モグモグ食べていると、やがて懐かしい桃の味が口一杯に広がってきた

余りの懐かしさに、30枚ちかくあった葉っぱを、あっという間に食べてしまった


多少の満腹感の中、自分自身に『解析』の魔法を掛ける。


『解析 魔力総量』


魔法が発動し、頭の中に文字が浮かぶ


<魔法総量 131 >


その数字を目にした途端


( 僕の時代が来たーーーーーーーーーー )


衝撃の事実に、僕は思わず立ち上がり、右手に握り拳をつくり、右手を天高く突き上げ


「わがじんちぇいにくいなち」と大声で叫んでいた。


「ほー だったら何処へいっても平気だな」


僕の傍で発せられた言葉に冷静さを取り戻すと、そこには中肉中背の立派な服を着た男と、その後ろには、銀色の甲冑を着た男が二人、ロープを持って立っていた。


暫く事情が判らないので、黙って立って居ると、男が口を開き、


「しょせんクズはクズか、実の父親に何一つ言葉を掛けないのは」


男は、憎々しげに僕を見つめ、そう言い放った。


( 今何て言った、僕の父親だって、この人が? )


当たり前だ、シンは生まれた時しか、父親と会ってはいない。

さすがのシンも、生まれてすぐの記憶など覚えてはいない

驚いていると父親が、


「 教室での一件は聴いた、お前に罰を与える、お前を林の向こうへ追放する。だがまあ私も鬼ではない、食事と服だけは与えてやる。直ぐにそこへいってもらう」


父親は、両脇の騎士に目で合図すると、騎士はシンの目の前に立ち、いきなりシンに蹴りを放った。

咄嗟の出来事に対応出来なかったシンは、腹にモロに蹴りを喰らい、そのまま後ろへと吹っ飛ぶ。花壇を飛び越えて、本館の壁に激突し、体が地面に落ちる。

腹を抱えながらうずくまり、胃が逆流しそうになるのを必死に抑えると騎士がまたシンの前に立つ。シンは魔法を使おうとするが、お腹の痛みが邪魔をしてうまく発動出来ない。

騎士はかなりのレベルのようだ。うずくまるシンに騎士は更に蹴りを加える

骨が軋み、肉が裂け、それでも必死に耐えるシン

シンがグッタリすると、騎士はロープでシンを縛り上げるとシンを肩に担いで移動を開始した。


二時間後、

騎士は、林の奥の海側の敷地の端まで来ると、ロープに縛られたままの

シンを放り出し、そのまま去って行った。


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