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ドーピング  作者: 銀槍
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マリーとの出会い

裏庭の花壇を抜け、本館東側の通りを真っすぐ抜けると、目の前に小さな平屋建ての建物が見えてくる。

建物には幾つかの窓が有り、一番端の窓の下には窓の高さと同じくらいの高さの脚立が立てかけてある。


その建物の中には十人位の子供たちがおり、椅子に座って机の中から教科書を出して勉強している者や、他の者と話をしている姿が、窓の外から見える。


子供たちの姿は、普通種の人間や、獣人と呼ばれる顔が獣のままの者もおれば、顔が人間で、頭にねこの耳や犬の耳がついているハーフと呼ばれる者もいる。

もちろん獣人には、しっぽも付いている。


この場所はシュタインベルク家が経営する塾のようなものだ。

本来、この国の学校は10歳から始まるが、学校に入れるのは、お金持ちや貴族などの極限られた者達だけに限られる。例外としては、貴族や商人が買った魔力が高い子供か、奨学金で入学した子供だけだ。

ここに居るのは貴族と商人の子供か、自分では気付いていないが、貴族や商人に買われた子供達だけだ。

なぜ商人や貴族が能力の高い子供を集めるのには、当然理由がある。


ガイエス帝国と迷宮国家リムノスは長い間戦争状態にある。

ガイエス帝国は大陸一国土が広く、天然資源も極めて豊富だが、国土に迷宮が一つも無いのだ


迷宮には、この世界では余り採れない物が、多数産出している。

例えば、砂糖、胡椒、などの各種調味料や、果物、野菜などがある。

だが最も重要な産出物は 魔石 と呼ばれる鉱物で、魔石には魔力を蓄える性質があるので、武器や防具、生活に必要な魔道具の材料にも多数使われているので、当然需要も高い。

しかも魔石は迷宮からしか出ないので、物凄く高価になる。

ガイエス帝国が、迷宮を求めるのは、むしろ当然と言える。


そのため、何時ガイエス帝国が本格的に攻めてくるか分からない状態では、常に軍備の強化は必須と言えるだろう。


窓の外から生徒達の様子をうかがっていると、立ち話しをしていた生徒達が全員、席に座りだし、机の上に教科書を出してゆく


シンとマリーが教室の様子を確認すると、シンはマリーから茶色のフードの付いたマントを受け取ると、それを身に付け、フードを頭からすっぽりと被る。

フードを被る事によって黒髪が完全に隠れる。

黒髪は色々と目立つのだ。


髪の毛がフードの外にはみ出していないのを確認すると、脚立の置いてある窓へゆっくりと近づく。


何時もの様に、マリーが脚立を支え、シンが脚立に上るのを待っている。いくらシンが大人びてるとはいえ、まだ二歳の子供であり、当然、大人用の脚立はかなり、いや、凄くでかい。

シンにとっては、小さい山の様に感じられる脚立の階段の一段目になんとか手を掛け、足に力を込めてジャンプする その勢いで手に力を入れて、一気に階段を登ってゆく


「よいちょ」 


小さな掛け声と共に、素早く一段目の階段に体を置く


その様子を傍で見ていたマリーは


「はあ~やっぱりシン様は、カワイイわー その一生懸命な所が最高にス・テ・キ」


などとシンを熱い眼差しで見つめていると、彼と初めて出会った日の出来事を思い出していた。


彼女の父親は冒険者で庶民の出で、母親はシュタインベルク家の分家筋にあたるヘルシュタインという貴族の出だ。 当然二人の結婚が認められる訳が無く、二人は駆け落ちをして王都の中層区にある一軒家を買い、そこで二人で暮らし始めた。ヘルシュタイン家の当主である彼女の父親は激怒し、彼女を勘当してしまう。やがて二人に赤ん坊が生まれる。それがマリーだ。

マリーは母親に似て、見目麗しく、大きくなるにつれて、ますます美しくなっていった。

特徴的なのは、母親譲りの薄く紫掛った銀髪だ。

やがて妹も生まれ、彼女も妹も良く笑い、家族は幸せに包まれていた。


そんな幸せな日々が、突然終わりを告げる。

彼女が8歳、妹が2歳の時に彼女の父親が商隊の護衛中に盗賊に襲われて殺されてしまったのだ。


当然、父親が居なくなった家族の生活は急に苦しくなり、よく笑っていた彼女もやがてまったく笑わなくなっていった。生活はどんどん苦しくなり、やがて母親は自分の父親に助けを求めた。

だが、父親はそんな娘に対して、


「庶民の血に汚れた子供を産んだ娘など、どうなろうと知った事か」と


そしていよいよお金が底を尽き、母親が娘を奴隷商人に売ろうかと考え始めたその時に母親の父親から連絡が入った。


「上の娘をシュタインベルク家へ仕事に出せ」と


生活に困っていた母親は、一も二も無く了承した。


(これで娘を奴隷にしなくて済む)と


だがそれはシュタインベルク家とヘルシュタイン家で取り交わされた密約だった

黒髪の赤ん坊と庶民の血に汚れた子供を同時に始末するという密約


ほんのわずかな支度金と、月々の給金を母親が受け取れる様に手続きをするとすぐに彼女は馬車に乗せられ、一路シュタインベルク領へ向かう。


五日程、馬車で過ごした後、彼女はシュタインベルク領へ入る、両脇を木々で植えられた長い街道を抜けるとやがて大きな壁に囲まれた街の入り口が見える入り口を抜け、石畳みで舗装された道を進むと、街の奥の方に大きな門が見える。門をくぐりしばらく進むと、大きな建物が見える。馬車はその建物の前で止まる。


マリーが馬車から下りると、一人の初老のメイド服を着た女性が、これから彼女が過ごす部屋へと案内し、それから三日間、寝る間も無く仕事を叩きこまれた。


シュタインベルク家へ来て一週間が経過した頃、メイド長が彼女を呼びつけて


「旦那様の子供で、生まれたばかりのシン様の面倒を、全て一人でみなさい」


一瞬、何を言われたのか分からなかったが、直ぐに言われた事を理解すると、


「そんな、一人で面倒を見るなんて無理です。しかも赤ん坊なんて」


困惑するマリーに、メイド長は口調を強めて


「旦那様の命令です、シン様は本館一階東側の一番端の部屋に居りますから、急いでお世話をするように、いいですね」


と命令すると、自分の仕事に戻って行ってしまった


しょうがなくシンが居る部屋を目指して、力無く、トボトボと歩いていたが、やがてシンが居る部屋の扉

の前まで来ると、どうしょうかと暫く考えていたが、やがて意を決して扉を開ける。


扉を開けた彼女の眼に映ったのは、両手を股に挟んで、コロコロと転がる赤ん坊だった。


「うー本当にマジでやばくなってきた」


シンのトイレへの我慢は、ほぼ限界に近付いていた。それをまぎらわすためにコロコロと転がっていると、一人の少女と視線が合う。

暫しの間、見詰め合っていると、シンが彼女に向かってあぐらをかき、一言


「バブブバブ (トイレどこ)」


一瞬、マリーがぽかんとしていると更に


「バブブバブブブ、バブブブバブブ(早く教えて、お願いだから)」


マリーは、彼が何かを言ってるのは判ったが、どんな意味なのか判らなかったので、


「ごめんなさい、あなたが何を言っているのか判らないわ」


マリーがそう答えると、シンは自分の小さな指を使って自分の股間を指さす、その仕草に彼女は、


(まあ~なんてかわいいのでしょう) 


などと思ってしまうが、直ぐに気を取り直すと、有る事に気づく


「もしかしてオムツ」


フルフルと顔を横に振るシン そしてまた股間を手で指す


「まさかとは思うけど、トイレに行きたいの」


そうマリーが尋ねると、正解とばかりに首を縦に振る


(何だ、トイレだったらトイレって言ってくれればいいのに)


そう思った途端、彼女はマジマジとシンを見つめる。


(え・ちょっと待って、なんで生まれたばかりの赤ん坊が、私の言葉が判るの?)


彼女が軽くパニクッテいるとシンの一言が彼女を正気に戻す。

   

「バブブ(早く)」


シンに急かされて、マリーは彼を両手で抱き抱えると、部屋から出て、トイレへ向かう。

途中、何人かのメイドと執事が変な眼で二人を見ていたが、構わず無視をした。

トイレのある場所の扉を開けて中に入ると、そこには前世と同じ洋式トイレがあり、便器の脇には水を流すためのボタンらしき物もある


とりあえず便座の前まで来たが、どうしたらいいか分からず、マリーが固まっているとシンが便座を指さした。便座の上までシンをそーと下ろすと、彼は足をプルプルさせながら、便器の後ろにある水洗タンクに手をついて支えにし、なんとか便座の上に立った。

そしてマリーに背を向けながら、右手を軽く振ってマリーに出ていく指示をする。

その指示に気付いたマリーはそそくさとトイレの外へ出て、扉を閉める。

マリーが出て行ったのが分かるとシンは急いで用を足しにかかった。


シンが入っているトイレの前でマリーは考えていた


(さすがにこれは在り得ないよ、家の妹だってこんな事が出来る様になるまで、2年は掛ったのに)


などと色々と彼の事を考えていると、トイレの中から彼の声で


「うーん うーん  うーん」

と、声が聞こえる。


(えっ もしかして大きい方なの、だとしたらあんな体制で、出来るのかしら)


などと色々考えていると、どうしても中に入って覗きたくなってきた。


(ここで勝手に入ったら、完全に私、変態じゃない。ダメヨ入っちゃ、あーでも見たい)


しばらく自分の欲望と闘っていたが、あっさりと欲望が勝った。

意を決して、扉に手を掛けると、そーと扉を開ける。

扉の先には、トイレの脇にある水洗ボタンに、一生懸命手を伸ばしているシンの姿があった。

マリーはホッとした様な、ガッカリした様なきもちになるが、便器の脇まで行くと、代わりにボタンを押してあげる。すると便器から勢い良く水がながれてゆく

その様子を見ていたシンは彼女の方へ向けて、ありがとうの意味のお辞儀をする。


だが、ここで悲劇が起きた


便座から足を滑らして、スポッと便器の中へ落ちてしまつたのだ。

しばらく便器の中でもがいていたが、中々抜け出せず、悪戦苦闘していると、突然マリーが便座のボタンを ポチっと押してしまう。便器から勢い良く出る水がシンの顔に掛る。


「ブアブーーーーーーー(こら、何するんだ、溺れるだろ、ヤメロー)」


シンのそんな様子にマリーは


(わーかわいくて面白い、くせになりそう)


などと思いつつ、何度も水洗ボタンを押してしまった。


確かに小さい赤ん坊が、ぱたぱた する姿はかわいい。しかもシンは黒髪だが、顔は整っている。将来が楽しみだろう。しかしこの危機を乗り越えなければ、その未来も無いのだ。


  ( くそー生まれてすぐに死んでたまるか )


神の血の力とは、良くも悪くも、強大な強い意志によって引き出される。

生まれたばかりの空腹に対する強い生への想いで、半分目覚めかけていた神の力が、今回の便器溺死事件で完全に覚醒した。覚醒した神の力は彼を生かすべく、彼の体を絶えず強くしようとする。

しかし、その進行は鈍亀の様な遅さなので、今はまったく役に立ちませんハイ


だがしかし、彼は神の力に頼ることなく、なんとか便器から脱出した。

だが、ほぼすべての体力を使ってしまったので、便器の横でぐったりしていると、マリーがトイレの清掃で使うバケツをシンの横に置いて、シンをヒョイと掴むと、バケツの中にシンを入れてトイレの外へ出る。


グッタリしているが、バケツの淵に両手を乗せて、ボーと外を見つめるシンを見てマリーは


(バケツの中のシン様もいいわー)


もうシンの行動のおかしさなど、もうどうでも良くなっていた


その顔には笑顔があった。


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