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ドーピング  作者: 銀槍
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マリーと僕

シュタインベルク家の敷地は広い、敷地の中には森とも呼べる程の林が存在し、六歳から九歳までの魔法の素質のある子供や、貴族の子供が通う学校があり、その子供達が住む寮、シュタインベルク家に仕える騎士団が鍛錬に使う鍛錬場、武器、防具を修理、製造する鍛冶室や、薬草の製造 管理をする薬草室がある。昔は林の向こうの池で、魚の養殖をしていたほどだ。


黒髪の少年が生まれてから二年が経ち、シュタインベルク家本館の裏庭のベンチに座り、メイド見習いのマリーが、花壇で花いじりをしている黒髪の少年を微笑みながらみつめている。


黒髪の少年の両親は、彼が生まれてからすぐに彼の育児を放棄した。代わりに当時8歳のシュタインベルク家にメイド見習いとして雇われたばかりの彼女に全てを押しつけたのである。

シュタインベルク家の始まりの始祖は、希少な神と人間との混血で、それゆえ自分達が神に選ばれた人間だと一族のほとんど全ての者が思っており、そのためプライドが恐ろしいほど高い。


故にシュタインベルク家から、黒髪の子共が生まれる事など、断じて認められないのだ。


黒髪の子供と、普通の人間の子供の身体的能力の違いは全くない。ただ一つ違うのは魔力総量が黒髪の子供の方が若干低いだけである。


ただレベルが上がるとなると話は違ってくる。


例えば黒髪の子供のレベルが1で魔力総量が1とし、普通の子供のレベル1で魔力総量が2とすると、同じレベル2になるとすると、黒髪の子供の魔力総量が2になるのに対し、普通の子供の魔力総量は4になる。しかもレベルが上がるにつれてその差は開く一方になる。


この世界は魔力至上主義だ。


どんなに剣が強く、どんなに力が強くても、攻撃魔法一発で、全てが終わってしまうからである。

そして魔力が無ければ、防御魔法で防ぐことも出来ない。


黒髪の少年の名前は シン フォン シュタインベルク 名前のシンと言う意味は、

古代の国の言葉で 罪 や 出来そこない を意味する言葉だ。


その少年シンは、本館の裏庭の花壇で、花を一本摘んで右手に持ち、その花をじっと見つめている。

そして花を見つめながら、ある言葉をイメージしながら、心の中でつぶやいた。


『解析』


その途端、右手から目に見えない力が、右手に持った花を覆うと、やがてまた力がシンの中に

戻ってゆく、すると頭のなかにある言葉が浮かんでくる。


〈   花  花びらに毒あり   〉


その言葉が浮かんだ途端、彼は慌てて右手から花を捨てた。


(ふう・・・・やばい やばい まったく、毒の花なんか花壇に植えるなよな)


彼がこの力に目覚めたのは、彼が生まれてからすぐだった。なにせ8歳の女の子に、赤ん坊の世話などが完璧に出来る筈もなく、彼はいつもおなかをすかせていた。


彼は生まれてから直ぐに本館の中で、人がほとんど通らない場所の一角に押し込められた。

その部屋は六畳ほどしかなく、しかもベビーベッドも無く、床の上にカーペットが敷き詰められている事が唯一の救いだった。カーペットの上にタオルを重ねて寝床としてなんとか生活していた。


メイド見習いのマリーも侯爵家の仕事も覚えなければならず、いつも彼の傍にいられる訳もなく、彼は簡易タオルベッドの上で、1メートル程先にある食べ物を恨めしそうに見つめていた。

カーペットの上に置いてある食べ物には、ミルクの入ったガラスのコップとパンそして見たことも無い毒々しい色をしたくだものがある。


本来ならばこのような食べ物は、生まれたばかりの赤ん坊の食べるものではない。

だが乳母も居ないこの状況ではこれを食べるしかなかった。


本来ならばこの赤ん坊は、状況が何一つ分からず、指一本動かせずに餓死する運命にあった。

それこそが両親の狙いだった。死んだ後は、その責任を全てマリーに押しつける手筈だった

そのためにマリーを雇ったのだから


だがこの赤ん坊の頭の中には前世の大人の記憶が有った。しかも神の血も流れている。

それが彼の運命を変えた。


彼はまだ立つ事ができなかったので、体を回転させながら食べ物に近づいてゆく

食べ物に近づくと、両手をついてなんとかあぐらをかくと、すぐにミルクの入ったガラス瓶を

両手で持って コクコクと飲み始めた。


(ぷはーうまい)


本来ならば前世の記憶があっても、生まれたばかりの赤ん坊に、コップを持つ事など出来ない

まさに神様パワー万歳である。


お腹が一杯になって落ち着くと、今度は目の前にある果物が気になってくる。

果物をペチペチと叩きながら


(これ、どんな味がするんだろう)


などと思っていると、体から得体のしれない力が、スー と出ていき果物を覆うと、

やがてまた体の中に戻って行った。

一体何が起こったのかと思っていると、頭の中にふいに言葉が浮かぶ


<果実  糖分>


いきなり頭の中で言葉が浮かんできたので一瞬驚いたが、今度はコップを手に持って同じ様にやると


<ガラス   牛乳>


とでてきた。


(へえーここにも牛っているんだ)


どうやらこの力は、思った事を教えてくれるらしいことを理解した彼は、この力をいろいろと

調べていくことを決意する。自分が生きてゆくために

でもまあとりあえずは、



(トイレはどこですかー かなりやばいんですけど)


彼の心の叫びに誰も答えてくれる人はいなかった。


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