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ドーピング  作者: 銀槍
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暴走

時は数分前に戻る。死を覚悟したシンの脳裏には、生まれてから出会った人々の顔が鮮明に蘇っては通り過ぎて行った。その思い出の中で、ある人物との思い出が浮かび上がる。


(あった、この状況を打破する方法が)


シンは魔法を発動する。


シンが魔法を発動したのとほぼ同時に、青竜の青白い炎がシンの多重結界の全てを貫き、シンの居る場所を炎で蹂躙した。


大量の炎を吐き終わり、シンの居た場所を見詰める青竜。

シンが消滅したのを確認すると、天に向けて顔を上げ、勝利の咆哮を上げた。


その瞬間、青竜の周りの地面から無数の魔力糸が伸びて、全方位から青竜に突き刺さる。

大半の魔力糸は青竜の鱗に弾き返されるが、僅かな量の魔力糸が青竜の眼、口、鼻、耳、翼の付け根から青竜の内部に侵入し、魔力糸は硬い鱗に覆われた外皮とは違い、柔らかい内臓を切り裂いて行く。


「グアァァァァァ―――――――」


叫び声を上げて首を振り回し、身体を捻って魔力糸を引き千切る青竜だが、内部に受けた傷の痛みで、その場でもだえ苦しむ。


痛みで苦しんでいる青竜の背後の地面からシンが飛び出し、青竜の背中に生えている翼の付け根に取り付いて、魔道具を翼の付け根の皮膚が鱗で覆われていない部分に押し付ける。そして再度魔力糸を発生させ、青竜の内部を蹂躙していく。


「グオ―――――――――――」


再度襲われる痛みにシンを振りほどこうと身を捩るがシンは 『吸着』 の魔法を使っていてどうしても離れない。


「死ね、死ね、死んでくれ」


暴れる青竜の背中で魔道具に魔力を送り続けるシン


どうしても離れないシンに対して青竜は背中から倒れて押し潰そうとする


ドォォォォォォォーーーーーン 響く地響きと舞い上がる砂煙と共に後ろに倒れ込む青竜


砂煙の中から飛行魔法でシンが飛び出してくる。

眼を潰され、耳を破壊されたのに空中にいるシンの居場所が判るのか、シンに顔だけを向け炎を吹き出そうとするが、シンの方も右手に持った魔道具に魔力を込める。


魔力を込めると同時に、シンの右手の甲に紋章が現れ、紋章の輝きが力強く増してゆく。

五メートル程の円錐形の光り輝くドリルが魔道具によって形成され、ドリルの矛先を青竜の口に向ける。


青竜の口から炎が吐きだされるのと同時に、シンもドリルを高速回転させて青竜に向けて打ち出す。両者の力が丁度中間地点でぶつかり合う。


ギュルルルル――――――、音を上げて、ドリルの高速回転が、青白い炎をかき分けて青竜の顔に迫る。そのままドリルは、青竜の顔を砕き、首を貫通して青竜の後ろに抜けて迷宮の地面を掘り進み、その姿を消していった。


首を貫かれた青竜は、シンに向けていた首を後ろから迷宮の大地に倒れ込んで絶命した。


「勝ったのか?」


光となって消え始めた青竜を見ても、自分の勝利をシンはまだ信じられなかった。





その頃、深夜のシュタインベルク邸の明りの無い薄暗い部屋の中で、傷の痛みと毒の所為で朦朧とする意識の中、なかなか寝付けないマリーが、ただ一人ベッドの上でぼんやりと外の景色を見ていた。その時、急に部屋の中に人の気配をマリーは感じるが、傷つき毒に侵された身体は、首を動かすことさえ困難な為、相手を見る事さえ出来ないか゜その人物がベッドに近付いてくるのが気配で判った。近付く人物が視界に入り、心の中で驚くマリー


(えっ、シン様、何でこんな時間に、もしかしてこれは夢なの?)


身体が思う様に動かず、心の中で慌てるマリーを余所に、シンは懐から黄金色に光り輝くリンゴを取り出し、輝くリンゴをマリーの胸の上にそっと置く。


(なんて綺麗なリンゴなの、これはやっぱり夢なのね)


リンゴはマリーの身体の中にゆっくりと沈んで行き、やがてリンゴがマリーの身体の中に入りきると、マリーの身体が光り輝き出す。


輝きが収まると、マリーの失われた手足が再生され、再生された右手が布団の端から出ているのを確認すると、シンはベッドから離れようとするが、再生されたマリーの右手がシンの左手を掴む。


「マリー…」


若干、驚きながらもマリーを見詰めるシン。少しの間、見詰め合うと、マリーの方から口を開く。


「シン様、少しお話しませんか」


「うん、いいけど」


「それではベッドに腰掛けて下さい、立ったままでは疲れるでしょうから」


その言葉に従ってシンはベッドに腰を掛ける。


(これは夢なんだから、何でも私の思い通りに出来る筈よね。がんばれ私)


意を決してシンの顔を見詰めるマリー、胸は高鳴り、思わず恥ずかしくなってしまうが、それでもシンの左手は掴んで離さない。


「シン様、私、私、ずっと前から貴方の事が好きでした」


「うん、僕もマリーの事が大好きだよ」


返された言葉に舞い上がってしまい、体中が真っ赤に燃えてしまう様な感覚を憶えるマリー


だがシンとしては恋愛関係の好きではなく、友達感覚としての好きであった。

シンは未だに5歳児でマリーは13歳、しかもシンの精神年齢は大人である事と、前世の価値観の為、どうしてもマリーを一人の女性では無く、一人の少女として見てしまう。


だがマリーは違った、シンを一人の男性として見ていた。そして自分がもうすぐ死んでしまう事実、これが現実ではなく夢だという認識がマリーを暴走させる。


「シン様――――」


シンに抱きつき唇をうばうマリー、その勢いのままシンを押し倒す。


(ちょっ、マリー、いきなり、えっ、ちょ)

咄嗟の出来事に戸惑うシン


暫くの間、唇を重ねていたが、マリーの方から唇を離してゆく。

今度は首筋にマリーの唇が吸いついた。痛いくらいに首筋を吸う。


(再生の実の副作用か?、このままではまずい、なんとかしないと)


『睡眠』


シンは魔法を発動する


「ふにゃ、シンさまぁ~、あれ、夢なのににゃんで眠く…・」


シンの上で眠りに落ちるマリーを抱きかかえてベッドにちゃんと寝かせる


(ふ―――、まさか再生の実にあんな副作用があるとは思いもしなかった。でも良かった、マリーの身体が元通りになって)


慈愛の眼差しでマリーの顔を見詰め、優しくマリーの顔を撫でる


「おやすみ、マリー」


シンの気配が部屋から消えた。




・・・・・そして早朝・・・・・


「マリー起きなさい、マリー」


身体を軽く揺さぶられながら、マリーがまどろみの中から眼を覚ますと、目の前には慌てたメイド長の顔があった。


「マリー、一体あなたに何が有ったのですか、手足が元に戻っているのはどういう事なのですか?」


「手と足ですか?」


自分の右手を見ると、確かに失った筈の右手が元通りに其処にはあった。


「あれ、今度はメイド長との夢ですか」


「マリー、これは夢ではありません、現実です」


「でも私の身体は……」


「だから訊いているのです。貴方に一体何が有ったのですか」


(昨日は夢の中でシン様が現れて、黄金のリンゴを……あっ)


いきなりベッドから跳び起き、壁に掛けてあったメイド服を取り、急いで寝間着からメイド服に着替えて部屋のドアノブに手を掛ける


「待ちなさいマリー、事情を説明しなさい」


「すいませんメイド長、帰って来てから説明します。」


ドアを開けて勢いよく部屋から飛び出すマリー


館を出て、林の中を駆け抜ける途中でマリーは考える。


「本当にシン様なのですか、あなたが治してくれたのですか」


はやる心を抑えて林を掛ける。途中、小型の飛行魔獣に襲われるが、難なく撃退しつつシンの住んでいる小屋の辺りまで来ると、美味しそうな匂いが小屋の方から漂ってくる。


小屋の扉の前に立ち、呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる為に息を大きく吸って吐きだす。


(よし)


コンコンと、勇気をもって扉を叩く。


少しの沈黙の後、ゆっくりと扉が開き、シンが現れ開口一番棒読みで、


「あれー、マリーどうしたのー、うわーすごい、手足が元通りになってる、きっと神様が助けてくれたんだよー」


これがシンが考えた作戦であった。自分がマリーの怪我を治したと判ったら、どんな事になるか想像するだけで恐ろしい、きっと碌な事にはならない事だけはハッキリとしていたので誤魔化すことにした。


「シン様が私の怪我を治してくれたんじゃないんですか」


「僕にそんな力はないよ、だからきっとこれは神様が治してくれたんだよ」


「本当にそうなんでしょうか」


「たぶんそうだよ」


何か怪しいと思い、シンの事をジット見詰めていると、嘘をついているのが後ろめたいのか、シンが顔を逸らして横を向く。


そしてその時、ある物がマリーの視界に入った途端、彼女の身体から湯気が出そうなほど真っ赤に染まり、恥ずかしさのあまり両手で顔を押さえて、その場に蹲ってしまう。


そんなマリーの仕草に心配したシンが、マリーの肩に手を置いて、両手で塞がれた顔を覗き込んで、


「大丈夫?、何処か痛い所でもあるの?」


シンにも聞こえるかどうかも判らない小さな声だが、それでも嬉しそうに、


     「うそつき」


と、マリーはつぶやいた。指の隙間から、自分が付けた首筋のキスマークをみつめながら






・・・・その頃、とある場所の地下の研究室の一室・・・・


白衣を着た初老の男と、四十代の男がフラスコの中で蠢く小さな黒い細胞をみつめている。


「ようやくここまで来たな。」


「はい、これもアイゼン様の援助のおかげです。しかし本当によろしいのですか、私の復讐の相手は、貴方様の息子なのですぞ。」


「ふん、地位を追われた私にはそんな事はどうでもいい、私はあの女さえ殺せれば、後の事はどうでも私の知った事か」


「左様でございますか」


黒い細胞を見詰めながら、かつてのシュタインベルク家当主代行の男は、憎しみに顔を歪ませた。



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