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ドーピング  作者: 銀槍
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迷宮突入

迷宮に馬の蹄の駆け抜ける音が聞こえる。シンが迷宮に突入して既に二時間が経っているが、迷宮の攻略のスピードとしては驚異的と言える。シンが今居るのは15階層の石畳の通路の上だが、新米のレベル100の冒険者が初日に到達する階層は、平均5階層の通称リムノスの畑と呼ばれている主に野菜や穀物が実るエリア階層が大半になる。本来ならばもっと先の階層まで行ける実力があるのだが、20階層まで採れる物資が余り高くなく、迷宮に出る魔獣も5階層辺りまでなら、大勢の人数でパーティを組んでも、単体で出る事が多い為、力試しの為に5階層で止める新米冒険者が多い。


シンは5階層にある野菜や穀物には目もくれずにひたすら上を目指している。

それには迷宮に入る前の出来事が関係していた。


朝もやの中、一台の馬車が迷宮へ向っている。

シンは今、サフラン商会が手配した馬車の中にいた。馬車の中にはレスとユニコーンのゴーレムとゴーレムの着ぐるみが置いてあった。シンゴーレムとユニコーンのゴーレムの姿で迷宮に向うのは目立ち過ぎるとのレスの判断から馬車で迷宮の前まで向う事にしたのだ。


馬車の中のユニコーンには後ろに屋根付きの台車が付けられており、台車にシンが迷宮で使う道具や食料が収められていた。


サフラン商会から迷宮は距離が近いので10分もしない内に迷宮の前に着く。

馬車の中から首だけを出して外の様子を窺っていると、迷宮の中に入る冒険者達に、赤耳の少女が何かを必死に訴えかけていた。耳を澄ませて聞いていると、


「母が病気なんです、どうしても 万病の種 が必要なんです、どうかお願いします」


冒険者達に涙目になりながら、必死に頼み込むヒルダだが、只の一人もヒルダの言葉に耳を傾ける者は居なかった。


(万病の種って確か迷宮の36階層に存在している小さな種の形をしているが、飲めば全ての病を治す事が出来るという凄い物だと思ったけれども、何でみんな引き受けないんだ)


その疑問にはレスが答えてくれた。

「万病の種の値段は一粒金貨200枚はするのねん、あの少女に支払う能力があるとは到底思えないのねん」


ボロボロの服を着たヒルダに金貨200枚の大金を支払う事が出来るとは誰も思ってはいなかった。


「それに配達屋(・・・)と新人に到底出来る仕事じゃないのねん」


「配達屋って何ですか?、それとどうして彼らが新人だと判るのですか」


「シンちゃんに迷宮の事は教えても、冒険者については教えていなかったわねん。シンちゃん、あの人を見て御覧なさい」


レスが指さす方向を見ると一人の冒険者が立っていた。他に仲間は居ないらしく、彼の装備を見ると、剣と鎧は立派だが、他には大きい空の革袋一つしか持って無く、とても迷宮に入るとは思えなかった


「彼の目的は20階層にある胡椒ねん、胡椒は1キロ金貨1枚で取引されるから、一回の迷宮探索で金貨10枚はかたいのねん、それなら転移魔法で20階層まで行って、胡椒を回収して転移魔法で直ぐに迷宮の外に出れば、危険は最小限でかなりの利益を上げる事が出来るのねん。そういう特定の資源を扱う冒険者を配達屋というのねん、それに一人なら、迷宮で同じ冒険者に殺される危険がかなり減るしねん」


「冒険者に殺されるって、冒険者に殺人鬼でもいるんですか」


「そうじゃないのねん、冒険者の中には自分のレベル上げの為には手段を選ばずに他の冒険者を殺して成り上がろうとする者が、悲しい事に多数存在するのねん。」


「だったら国がなんとかしてくれるんじゃないんですか」


「誰も目撃者が居ない迷宮で犯罪を立証するのは難しいのねん、それに人が居ない事を良い事に無実の人に罪をなすりつけようとした冒険者もいたから、基本迷宮は治外法権になっているのねん」


「つまり、人を殺そうが罪には問われないと?」


「そういう事ねん」


「それじゃ今度は何であの4人の冒険者が新人だと判ったんですか?」


一人の冒険者は結構高めの武具を装備していたが、後の3人は粗末な武具に、食事を余り摂っていないのか貧相な身体つきをしており、3人に共通して首に黒い紐の様な物が巻かれていた。


「あの3人は、あの男の奴隷ねん」


「何であの3人が奴隷だって判るんですか」


「シンちゃんは奴隷を見た事が無かったのねん、奴隷の首には、主人に絶対服従の紐の魔道具が取り付けられているのねん。其の魔道具は主人にしか外せないのねん。本来、迷宮の上層を目指す冒険者は、レベルのほぼ同じ4人から6人のチームを組んで行動するのねん。迷宮では基本的に人数に応じて出現する魔獣の数が決まっているし、それに迷宮の通路には狭い場所もあるから、大人数でも行動しづらいのねん。あの3人の奴隷はどうひいき目に見ても高レベルとは思えないし、装備の点から見ても10階層まで到達できるかも怪しいから新人と判断したのねん。」


「それよりシンちゃん、あの女の子が貴方に頼みに来たら、貴方は彼女の依頼を引き受けるの?」


「それは……」

シンとしては目標が40階層の黒水晶だったので、そのついでに36階層にある万病の種を採ってきても良いと思っていた。


「シンちゃん、商人の先輩として、一つアドバイスをして上げるのねん。情に流されて商売をしては絶対にいけないのねん。もしシンちゃんが彼女の願いを訊いて万病の種をタダであげて、それが噂になったらどうするの、労働に対しては正当な対価を、それが商売の基本よん」


「判りました、アドバイス有難う御座います」

シンは万病の種をあげた後の事を考えてはいなかった。もし金貨200枚もする万病の種をタダであげたとなれば噂にならない方がおかしいだろう。そして2匹目のドジョウを狙う奴が現れないとは限らないのだ。


シンは馬車の中でゴーレムの着ぐるみを着て最後に兜をかぶる。兜の顔の部分は開いておりシンの素顔が見える。兜の脇に在る小さいボタンを押すと、兜の内側の両脇から仮面の半分づつがスライドして顔の中央でピタリと閉じてシンの顔が隠れる。魔道具を装備し、ユニコーンに跨り取ってを掴む。


レスの「行ってらっしゃい」の言葉に軽くお辞儀をして前に向き直り、ユニコーンに魔力を注ぎ込む。

魔力を注ぎ込まれたユニコーンは、生きている馬が如く、勢いよく馬車から飛び出してゆく。


大きな音と共に現れたゴーレム騎馬の登場に、驚き視線をシンに集める冒険者達。

その中にはヒルダの姿も見える。すると突然、ヒルダがシンに向って近寄って来た。


(頼まれても毅然とした態度で断ろう)


そう心に決めたシンだったが、ヒルダはシンの脇をすり抜けてシンの後ろにいた冒険者に声を掛けていた。


その様子を馬車の中から顔だけ出していたレスが、右手を口に当てて、プププと笑っていた。


(ほう、そうですか、僕には万病の種を採ってくる事は出来ないと、そう判断したんだね、上等だよやってやろうじゃないか)


シンはユニコーンを迷宮の入り口に向ける。そして魔力を再び送り込むと、ユニコーンがスピードを上げながら迷宮の入り口に近づいて行く。


シンの迷宮攻略が始まった。


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