ユニコーン
リムノス王都にある迷宮で採れる資源の種類は数が多い。
魔石や調味料等の高価な物や、野菜や果物等の比較的生活に必要な物まで様々あり、
中には肉の葉をつける木など、常識では考えられない物まで存在している。
リムノス王国にとって迷宮は生命線に等しく、その為、迷宮から資源を持ち帰る冒険者の育成に力を入れている。この国では7歳から冒険者ギルドに登録出来、ある一定のレベルと功績を収めた者には貴族として国に召抱えられる事が約束されている。だが、貴族になれる者は30年に一人と言われ、その成果は余り芳しくない。だが、それでも人々は冒険者を目指す、自分の夢と欲望を実現させる為に。
そんな欲望まみれの人間がここにも1人……いや2人いた。
サフラン商会の建物のとある一室にその2人はいた。
「レっ、レスさん……ぼっ、僕もう……」
「ハア、ハア、ダメよ、シンちゃん、もう少し我慢して」
「でっ、でも、僕、もう限界です」
「ハア、ハア、頑張って、もう少しで終わるから」
「やっぱり、もう無理、あとレスさん、顔が近いです、なに興奮しているんですか」
机に拳をバンバンと叩きつけて喚き叫ぶシン
彼の前には迷宮に関する数百ページにも及ぶ分厚い本が置かれており、後20ページ程で読み終わる所で開いていた。
「だってシンちゃんの横顔がとても素敵だったから、でも後少しで憶え終ったのに残念ねん」
「大体、1日で迷宮の全てを憶えるなんて無理ですよ」
「あらん、私は1日で憶えたわん」平然と言ってのけるレス
(レスさんて、見かけはアレだけど、ホントは凄い人なのかも)驚くシン
「じゃあ、続きを始めましょうねん」
「ほんともう勘弁して下さい、これ以上もう脳みそに入りません」
ペコペコと頭を下げて頼み込むが、
「それじゃあ、罰として私とデートするの……
レスが言いきるより速く、
「急に力が漲って来た――――、さあ、やるぞ―――――」
本と向かい合うシン
(早く終わらせて宿に帰って寝よう)
*********翌日********
「いっ、痛い、レスさん、そんなに激しくしないで…」
「ハア、ハア、これくらい普通だから大丈夫」
「でっ、でも凄くきついし、痛い」
「ハア、ハア、直ぐに慣れるから平気よん、ハア、ハア」
「イテテテテテテ、やっぱり締めすぎですよこの鎧は」
「やっぱり締めすぎだったかしらん、御免なさいねシンちゃん」
(だって、シンちゃんの苦しむ顔が堪らなく可愛かったから、つい締めすぎちゃった、テヘ)
迷宮に入る為の装備を整える為に再度商会を訪れるシン。
今日は迷宮で使う装備と道具を揃える事にしたのだが、いきなり最初からつまづきつつあった。
「でもなんかこの鎧、金ぴかで無駄に派手な気がするんですけども」
シンが着けている鎧は、薄い革に金メッキが施され、所々に装飾を施された珠玉の一品となっており、防御力よりも見た目重視と動きやすさを追求した仕様となっている。
「ああ、それ、貴族用だからん」
「何で貴族用なんですか?」
「子供用といったら貴族用しかなくてねん、貴族の親はパーティで息子にその鎧を着せて出させるのねん。普通五歳位の子供の鎧なんてオーダーメイドしかないのねん。」
「ちなみにこの鎧で迷宮に入ったらどうなりますか」
「普通の子供なら、2階層クラスの魔獣の一撃であの世行き」
「ふざけんなあ――――――――――」
「でもオーダーメイドとなると素材選びから製造まで少なくとも1カ月は掛るのねん。シンちゃんそんなに待てるのねん?」
(家をでてから2週間近く経つし、犬先生はどうでもいいけど、マリーには早く会いたいけど、家に帰ったら何時また外に出る許可が出るか判らないし、どうしょうかな、あっそうだ、あれがあった。)
「レスさん、鎧の事は僕に心当たりが有りますから、今からちょっと行って取って来ますね。」
『転移』
シンは魔法を発動する。シンの姿がレスの前から消える。
(この年で転移の魔法が使えるなんて、やっぱりシンちゃんは只者じゃないわねん。でも、シンちゃん帰りはどうするのかしらん、魔力が足りるのかしらん)
転移の魔法を発動してシンが向かった先は、第二の家とも呼べる魔獣の森の洞穴、その中にシンの姿が現れる。
(一週間ぶりだけどなんか懐かしいな、それにしても転移魔法って初めてつかったけれど結構魔力を使うな、1300位魔力を使った気がするけど、まっいいか)
転移魔法は転移する質量と距離が大きくなればなるほど、比例して使う魔力の量が増加する。
もし転移魔法の使用魔力が一定だったら敵国の兵が簡単に敵国の首都に転移し放題になったり、密輸などが横行して、世界はメチャクチャになっていただろう。
シンは洞穴の隅に置いてある目的の物を両手一杯に抱えると、『転移』の魔法を発動して一気に王都へと跳ぶ。そしてレスの前に再び現れる。突然シンが現れたので驚くレス。
「ちょっとシンちゃん、ビックリさせないでよん、あら、手に抱えているのはレッドグランドドラゴンの皮で出来た鎧みたいだけど、何か形が変ねん。」
「レッドグランドドラゴンて確か迷宮の本によると確か、40階層に存在する魔獣ですよね」
「うん、そうねん、大きさは4メートル程で翼が無いから空も飛べないけど、その分、地上での機動性が恐ろしく速く、何より火に対する耐性が恐ろしく高いので、生半可な火の魔法なんか全然受け付けない恐ろしい魔獣なのねん。」
(このゴーレムの素材ってそんなに良い物だったんだ)
「だったら僕、これを着て迷宮に入ろうと思います。」
「ちょっと待ってシンちゃん、この鎧の形だと迷宮だと魔獣に間違われる可能性があるから、顔の所だけでも素顔が見えるようにした方がよいのねん。」
「えっ、でも」
このゴーレムのきぐるみは犬先生に返さばならないので返答に困るシン
「この鎧は、スイッチひとつで顔が元に戻るように改造するから大丈夫ねん」
「それじゃあ宜しくお願いします」
レスはゴーレムのきぐるみを受け取ると、シンと一緒にいた部屋を出て何処かへ行ってしまった。その間、何もすることが無かったシンは、部屋に置いてある様々な武具を見る事にした。
色々な武器を見てみるが、まだ五歳児のシンには大き過ぎる物が多く、使えそうな物はナイフ位しかなかった。だが、その部屋の中で、ある一つの物に目が止まる。
「何だコレ?」
部屋の片隅にポツンとあるユニコーンタイプのゴーレム、しかしその大きさは子供が乗れる程の大きさしかなく、頭の両側には手を握る為の取っ手が付いている。ペタペタとそのゴーレムを触って調べていると、レスが部屋に戻って来た。
「シンちゃんおまたせ…あら、何をしてるのん」
「あの、これ何ですか?」
「子供のプレゼントにと貴族の親が依頼してきて製作したのだけれども、動力である魔石を積み込む段階で予算が無くなってしまって以来、この部屋に置きっぱなしなのねん。」
「それじゃあ、これ動かないんですか?」
「ゴーレムに乗って直接魔力を送り込めば動くのねん、でも、子供の魔力では動かすのは不可能なのねん。大人では小さ過ぎて乗れないし、今のままでは商品価値がゼロなのねん。」
「だったらこれ、僕に下さい」




