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ドーピング  作者: 銀槍
12/29

肉の恨み

魔獣の森に一人の少女の悲鳴が響きわたる。

少女の名前はアメリア フォン ローゼンハート 四歳の少女である。

何故このような場所に、こんな幼い少女が居るのか

それには理由がある。彼女は神の加護を受けて生まれた少女だからだ


加護の力は人間には強すぎる力だ それを制御するのには訓練が欠かせない

その為に力を全開で使えて、尚且つ力を振るえる相手が居る魔獣の森は、

正に、うってつけの場所といえる


アメリアは、祖父と二人で、王都からこの場所に来ていた

だが訓練の最中、突然、魔獣の攻撃を受けて、祖父と離れ離れになってしまった。


一方その頃、魔獣の森の別の場所では・・・


「うおーーーうまそーーーー」


シンが一人、食事の用意をしていた。シンがこの森に来て一週間が経っていた

最初の内は逃げ回っていたシンだったが、余りのしつこさに遂にキレた

持っていた魔道具を使い、あっという間に魔獣を退けてしまった。


「僕って結構、強かったのか?」 自分の力に驚くシン


自分の力を確かめる為に、暫くの間、魔獣の森に居る事にしたのだ


魔獣の森はシンにとってパラダイスだった

大型の魔獣が居るだけあって、森の自然は豊かで、木の実や自然に自生している野菜なども沢山ある。しかも、魔力草や岩塩や温泉まであるとなれば、ちょっぴり帰りたくなくなるシンである


シンは温泉の近くの岩山に、魔道具を使い穴を掘り、木を伐採して食器やテーブルを作り、魔獣の毛皮を洞穴の床に敷いたり、ベッドも作った、正に魔道具さまさまである。


シンは洞穴の前に石を並べて作った釜戸の前で料理の真っ最中である

魔獣の肉を木串に刺し釜戸の火で炙り、上から塩を振りかける

簡単な料理だが、漂う香ばしい匂いがたまらない


そんな料理中に遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。


『索敵』


魔法を発動し、様子を探る

どうやら女の子が、魔獣に追い掛けられているようだ


「大変だ」


シンは立ち上がり洞穴に向う、

そして洞穴の中から数本の木を拾うと、木を釜戸に入れる


(ふう、あぶねえ あぶねえ 火が弱いと肉がうまく焼けないからな)


シンは釜戸の前で腰を下ろし、肉が焼き上がるのを待っている


魔獣の森は弱肉強食だ、当然シンも生きる為に魔獣を狩っている。少女を襲っている魔獣も生きる為に少女を襲っているに過ぎない。それに魔獣の森は、目的のある者以外は滅多に人は入らない。この少女も、自分が死ぬかもしれないという覚悟を持ってこの森に入った筈だ。

それにシンは黒髪だ、どんなトラブルに巻き込まれるか分からない

それに自分が魔獣に勝てるとも限らない

知らない人間の為に命を掛ける気も無い


以上の理由からシンは無視する事を決めた

運が良ければ、少女は助かるかもしれないし


「キャーいやーー」少女の悲鳴が響く


「キャーうまそー」シンの喜びの声が響く


香ばしい匂いをたちあげる肉の木串の一本を手に取り、口の中に頬張るシン

口の中に、肉のうま味がジュワッと広がる


「うめーーー」


思わず声を上げるシン

そうしてる間にも、少女とシンの距離が、少しづつ縮まってくる


「キャーーーイヤーーーー」


(全く、うるさいな、食事中は静かに食べるのがマナーだろ)


確かに相手も食事中だが、余りの騒々しさにイラッとくるシン


やがて少女の声が段々大きくなり、やがて目の前の草むらの中から

バサッと一人の少女が、釜戸の前で美味しそうに肉を頬張るシンの前に現れる


少女はシンの横を通り過ぎると、洞穴の中に隠れてしまった。

その後を追う魔獣が現れ、シンの前を走って洞穴へ向う

その際に、釜戸に刺してあった肉串が無残にも飛び散ってしまう

魔獣は4メートル程あるので、洞穴の穴は小さく入れないので、

洞穴の前をウロウロしている


そんな中、シンの怒りが爆発した


「てめーよくも僕の肉を、肉の恨みだけに、お前がニクい」


『空気パンチ』


シンは魔法を発動する、シンは自分の目の前に、大きな空気の塊を作り、それを高速で射出するイメージをする、射出された空気の塊は魔獣に当たり、魔獣は遠くへ飛んで行った。


「ざまあみろ、それより大丈夫か」


シンは洞穴に向う、かと思いきや、その手前の釜戸の残骸の辺りを見まわし、

辺りに散らばった肉串の一本を取ると


「良かった、大丈夫だ、まだ食える」


と言って肉に付いたほこりを払うと、肉をまた食べ始めた


その様子を洞穴の入り口から見つめる一人の少女

少女とシンの視線が合う


「肉、食べる?」シンは少女に肉を差し出した


修復された釜戸には、新しい肉が焼かれ、

釜戸を間に挟んで、シンと少女が向かい合って座っている


「んぐ・んぐ・・そんでね、あたち、おじいちゃまとはぐれちゃったの」


少女は既に、肉串を10本以上食べ、そのペースは落ちそうな気配はない


(加護を持つ者か、厄介だな、トラブルの匂いしかしない)


「それで、そのおじいちゃんは、君を迎えに来るの?」


フルフルと顔を横に振って 「わかんない」


「だよねー、しょうがない、迎えが来るまで君の事面倒みてあげるよ」


(そして、とっととお帰り願おう)


「ほんとーありがとう、それにしてもこのお肉おいちいね、こんなおいちいのは、はじめて」


アメリアは笑顔で、美味しくお肉をパクついている


(そういえば、他人に料理を作って、美味しいと言われたのは久しぶりだな、何かいいな、こういうのも何かいい)


「飯を食べ終わったら、お風呂に入るといい、後で案内してあげるから」


「うん、ありがと、でも、おふろってなーに?」


アメリアは首を斜めにコクンとしながら尋ねてきます。


(アレ、この世界ってお風呂が無いのかな? そういえば僕も、生まれてからシャワーしか浴びた事しかないや)


「それじゃあ後で一緒に入ろう」


「うん」


ニコニコ笑顔で、肉を頬張りながらアメリアは答えます


夕食後、温泉に案内するシン

洞穴のすぐ側に温泉が湧き出ており、すでに魔道具で温泉の形は整えられており、人が十人以上入っても余裕の広さを誇る。

服を脱ぎ、先に温泉に入るシン、その後に続くアメリア


「うわー、あったかくてきもちいいー」


「そうだろ、凄く気持ちいいだろ」


「うん」


肩までしっかりと温泉に浸かり、すっかりご機嫌な二人

すでに辺りは薄暗くなってきている

やがて辺りは完全に真っ暗になり、することもないので二人してベッドにもぐる

暫くすると、アメリアの寝息が聞こえてくる


(やっぱり、疲れていたのかな)


アメリアの髪を優しく撫でていると、アメリアが抱きついてきた

足と手をしっかりとシンに絡ませる いわゆる抱き枕の状態である

少しの間、このままじっとしていると、急に抱き締める力が強くなる

四歳児とは思えないほどだ


「アメリア、少し痛い、もう少し力を緩めて」


アメリアに小声でお願いするが、彼女から発せられた声は、全く別人の女性の声で


「あらーだって、やっと調べたい人が目の前に居るんですもの、力が入るのは当然だわ」


何を言っているのか分からないシンだったが


「チョット、冗談はお終いにしてアメリア、今すぐ離して」


なんとか彼女から離れようともがくが、凄い力で抱きつかれている状態では、どうする事も出来ない


「私の事が分からないなんて、知能はそれほど高くないのかしら、それともわざとそうしているのかしら」


どうやらアメリアの身体は、何者かに乗っ取られた状態らしい


「あのーアメリアの身体から出て行ってくれませんか」


「単刀直入に言うのね、普通こんな時は、私の事を聞くのが礼儀じゃなくて」


「もうトラブルはお腹一杯なので、早く出てって下さい、シッシッ」


「私は犬ではないのですけど、こうなったら聞きたくなくても聞いて貰いますよ、私は 知識の・・・


「ワーワー聞きたくない、聞きたくない」


これ以上面倒事はゴメンなので、首を横に振りつつ足をバタつかせて、必死に抵抗するシン


「コラー聞きなさい、私の名は・・・


「嫌だって言ってるでしょうが」


シンはそう言いながら、首から上を使ってアメリアに頭突きを喰らわす


ゴンと音がして、頭がクラクラするシン、

一方、アメリアの方も頭をふらつかせて、やがて動かなくなった

暫くすると、アメリアの抱き締める力も弱まり、穏やかな寝息を立てている


アメリアの腕の中から抜け出し、ベッドから出て洞穴の床の上に座るシン


(何だったんだあの痴女は)


考えても何も浮かばないシンは、とりあえずまた襲われては堪らないので、洞穴の床の毛皮の上で寝る事にした

だが何時また襲われるかと思うと、中々眠る事が出来ないシンであった



朝日が昇り、辺りが明るくなる頃、シンは朝食の準備を始める

石鍋に水を入れ、火を掛けお湯にし、その中に野菜と肉をいれる

野菜に十分火が通った頃に、塩で味付けをする

鍋から優しい匂いが漂ってくる


まだ寝ているアメリアを起こそうとするが


(またあの女の方が出たらどうしよう)


チョッピリ怖かったので右手に木の棒を持って、木の棒の先でツンツンとアメリアを突っつく

起こしてる最中に、ウーンと呻きながら体の向きを変えたので、一瞬ビクッとするが、何も起きなかったので更に棒で彼女を突っつく


「アメリアさーん、朝ですよ起きて下さーい」


まだ起きない


「アメリア、朝ごはん冷めちゃうよ」その言葉を発した途端


「ごはん、たべるー」


さっきまで全然起きなかったのに、ごはんの言葉を聞いた途端

急にベッドから起きだしてきた


(どうやら本物の方だな)釜戸に向う彼女を見ながら一安心するシン


釜戸の前で座るアメリアに、石鍋から肉と野菜入りのスープを木のお椀に入れて渡す

渡されたスープを、木のスプーンを使い口の中に次々と入れてゆく


美味しそうに食べる彼女を余所にシンは考える


(このまま一緒に居て、何時あの痴女が現れるとも限らん、こっちから彼女を送った方良いか)


『索敵』


魔力総量の殆ど全てを注ぎ込み、索敵範囲を最大限に広げる

その結果、索敵範囲の中に、数名の人間を確認する

その中にはマリーの姿も感知出来る


(なんで魔獣の森にマリーが居るんだ? ああそうか、メイド長の修行の一環か)


一人納得するシン


その他の人間も調べると、見るからに偉そうな爺さんが二人の騎士を連れて此方の方へ向ってきている。だが爺さんといっても、その体は鋼の様に逞しく、胸板も厚い、ただ一つ爺さんらしいと言えば、頭部が禿げ、その周りの毛が限りなく白に近い銀髪で、唯一頭の天辺に一本の毛が生えている、所謂波平さんカットの逞しい老人だ


シンはアメリアにお爺さんの容姿を尋ねます


「アメリアのお爺さんてどんな人」


「おじいちゃんはねー すごくおおきくて、すごくつよいの、でもあたまのてっぺんに、おけけがいっぽんしかないの」


(こいつだ)シンは、今此方に向ってきている人が、彼女のお爺さんだと確信する


「君のお爺ちゃんが近くまで来ているよ、すぐ迎えに行こう」


「えーほんとー、ワーイ、でもこれをたべおわってからねー」


(お前は爺さんより飯の方が大事なのかよ、それにそれでもう四杯目だぞ)


アメリアの食欲に半ば呆れるシン


(でもまあ、此方に向って来ているし、焦る事も無いか)


お爺さんの進む速度を考えると、後一時間程でシン達の居る場所に来る事になります。

シンは目印にと、釜戸に薪を放り込みます

釜戸から立ち上がる煙で此方に来られ易くなるように誘導します


そして一時間後お爺さんと孫娘は対面を果たします

抱きあいお互いに涙する二人、そんな二人の姿に感動している騎士達


(あーやっと来たか、とっとと連れて帰ってくれその痴女を)一人ドライなシン


やがて感動の場面が過ぎ、孫娘を地面に降ろし、シンと向き合う爺さん


「アメリアが世話になった、有難う」


「いえ、人として当たり前の事をしたまでです」キリッ


最初は見捨てる筈だったのに、心にもない事をのたまうシン


「何かお礼をしたいのだが」


「いえ、お礼が欲しくて彼女を助けた訳ではありませんから、お礼など要りません」


(だからとっとと連れて帰れやボケー)


「いや伯爵家としては、孫娘を助けて貰っておいて礼のひとつもせんことには、ワシの気が済まん、金貨を礼に渡したいと思うのだが、持ち合わせが無い、王都まで一緒に来てもらう事になるがどうじゃろう」


金貨という言葉を聞いたシンは


「行きましょう、すぐ行きましょう」


「おおそうか、有難う」


こうしてシンは王都に行く事になりました



・・・そしてその頃マリーは

片手剣を両手に振るっていました、そしてその周辺にはかなりの数の魔獣の死体が


「シンさまーどこですかー」


シンの為に、神の血に若干目覚めたマリーの姿があった


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