第八節「裁き」
南町御番所(奉行所)、白州。
板敷きの上に、山城屋番頭・庄兵衛。
縄がかかる。
脇には捕縛された賊たち。
少し離れた位置に、水野左近将監。
だが水野は“御預け”の扱い。
旗本の身ゆえ、町奉行が直ちに裁けぬ。
上段に座すは――
南町奉行・大岡越前守忠相。
静かな目。
「山城屋番頭、庄兵衛」
「ははっ」
「三百両強奪未遂、並びに他商家襲撃教唆。若旦那殺害を装い、山城屋を乗っ取らんと企てた。相違ないか」
庄兵衛は額を板に押し付けたまま言う。
「身に覚えはございませぬ。私は被害者にございます」
忠相は淡々と返す。
「若旦那は死んではおらぬ」
庄兵衛の肩が震える。
「……何を」
「生きておる」
脇より、新之助が進み出る。
白州がざわめく。
庄兵衛の顔色が変わる。
「な……」
忠相は続ける。
「捕らえた八人は既に自白しておる」
庄兵衛は声を荒げる。
「賊の証言など当てになりませぬ!」
忠相は頷く。
「左様。賊のみでは弱い」
庄兵衛の目に、わずかな光が戻る。
忠相が言う。
「証人を」
清十郎が進み出る。
庄兵衛が嘲る。
「浪人の証言など信用できませぬ!」
白州がざわつく。
忠相の声が低く響く。
「その浪人は、私が密偵として雇った者である」
静寂。
「その者の目は奉行の目。その者の証言は奉行の証言である」
庄兵衛の顔から血の気が引く。
忠相はさらに告げる。
「旗本水野左近将監の関与も明らかとなった。水野は評定所へ上申し、裁きを仰ぐ」
水野は顔を伏せる。
忠相の視線が庄兵衛へ戻る。
「庄兵衛」
「……」
「観念せよ」
長い沈黙。
やがて庄兵衛の肩が落ちる。
「……欲に目が眩みました」
声は小さい。
「山城屋を立て直すつもりが、いつしか……」
忠相は静かに言う。
「商いは信用で成り立つ」
庄兵衛は崩れ落ちる。
「申し開きございませぬ……」
忠相が判じる。
「山城屋番頭庄兵衛。遠島申し付ける」
庄兵衛は引き立てられる。
新之助は深く頭を下げた。
「お奉行様、かたじけなく存じます」
忠相は言う。
「信用を裏切るな」
「肝に銘じます」
忠相は清十郎を見る。
「橋本清十郎」
「ははっ」
「大儀であった」
「務めを果たしたまでにございます」
忠相は静かに頷く。
「これにて一件落着」
白州の空気が緩む。
三百両は守られた。
山城屋の信用も守られた。
だが旗本の裁きは、まだ先にある。




