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第七節「竹光侍」

 水野左近将監の屋敷。

祝杯は続いている。

座敷の隅に、水野の側近の家臣が数名控えている。

水野が盃を置く。

「ここで止めてしまっては山城屋新之助が狙いだったとバレるかもしれん」

庄兵衛が頷く。

「はい。もう数件は同じような事件を起こさねば疑われる可能性がございます」

「あと二、三件もあれば疑われることもあるまい」

「そうなれば安心して山城屋の身代をを私が」

水野が笑う。

「その時は上納は忘れるな」

その時。

座敷の隅で、浪人がゆっくり立ち上がった。

「なるほど。そういう企みか」

座敷の空気が凍る。

水野が睨む。

「何だ、貴様は」

控えていた武士が前へ出る。

「明日の襲撃用に、本日雇いました浪人にございます。これ無礼者!こちらは旗本・水野左近将監様なるぞ!控えい!」

「油断したのはお前の方だったな」

そう言うと、左手を腰へ。

静かに。

竹光を、途中まで抜く。

月明かりが、白い刃代わりの竹光を照らす。

水野の目が見開く。

「竹光……!?」

「まさか……!」

浪人は静かに言う。

「人呼んで――竹光侍」

次の瞬間。

動いた。

一番近くにいた武士の腰から刀を抜き取る。

武士が気付くより早い。

返す刀で峰打ち。

武士が畳に沈む。

「斬れ!」

「曲者だ!出合え!出合え!」

水野の声。屋敷のあちこちから武士が出てくる。

傍にいた水野の護衛役三人が一斉に抜刀。

座敷は狭い。

刃が迫る。

清十郎は低く構える。

最初の一太刀を受け流す。

刃が畳を裂く。

清十郎は踏み込むと峰打ち。

背後からの斬撃を身体を沈め、かわす。

振り向きざまに横薙ぎ。

二人目が崩れる。

三人目が叫びながら突く。

清十郎は刃を打ち上げ、間合いの内へ。

柄元で顎を打つ。

武士が転がる。

それからも次々に襲い掛かる水野の配下の武士を流れるような剣技で仕留めていく。

たった一人の痩せこけた浪人を武士が大勢で掛かっても一太刀も浴びせる事が出来ない。

周りに立っている配下がいなくなると、水野が立ち上がる。

ゆっくりと刀を抜く。

旗本の剣。

無駄がない。

「浪人風情が」

鋭い斬撃。

清十郎は受けず、流す。

二合。

三合。

刃が火花を散らす。

水野が踏み込む。

清十郎は半歩ずらす。

刃をすり上げる。

身体を入れ替える。

峰が鳩尾へ入る。

水野の息が止まる。

膝が落ちる。

その時、外で足音。

「南町奉行所だ!動くな!」

襖が破られる。

同心が雪崩れ込む。

先頭に谷川助左衛門。

「橋本殿!」

清十郎は刃を引く。

谷川が水野を押さえる。

庄兵衛は腰を抜かし、崩れ落ちる。

清十郎は谷川に言う。

「傷はいいのか?」

「痛みはありますが、御番所(奉行所)は人手不足なので休んではおられません」

「そうか……無理はされない様に。後はお任せする。」

夜風が吹き込む。

悪の企みは、ここで断たれた。

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