ある夏の変わらない1日
ここは地球から遠く離れた小さな星。
ここにいる人間は僕と妻の2人だけ。
朝日が昇る時間に合わせて全自動カーテンが開き、愛犬の助六が僕のもとへ駆け寄ってくる。
「おはよう、今日もよろしくね」
助六は白髪交じりの老犬だが、宇宙通販で購入した餌が良かったらしくとても元気だ。
そして、僕はいつものように妻を起こす。
「おはよう、よく眠れたかい?」
僕は愛する妻に優しく語りかけ、頬にそっとキスをした。
彼女はまだ眠たそうな表情で身体を起こす。
「…今日は何日?」
「8月4日だよ。ここに季節はないけど、地球の北半球は真夏だろうね」
「…そう」
妻は憂鬱そうな表情で窓の外の星空を眺めている。
「明日は君の誕生日だね!宇宙便でケーキも用意したんだ、楽しみにしててね」
「…ありがとう」
僕は妻の素っ気ない態度を横目に、ミント入りのハーブティーを淹れる。
爽やかな香りが部屋にふわっと広がった。
「いい香りね、ところで今日は何日だったかしら?」
「8月4日だよ。ここに季節はないけど、地球の北半球は真夏だろうね」
「…そう」
「明日は君の誕生日だね!宇宙便でケーキも用意したんだ、楽しみにしててね」
「…ありがとう」
妻はまた憂鬱そうな顔で窓の外を眺める。
彼女は気付いていないが、この会話を続けてまもなく3年になる。
そして愛犬の助六も、実は2代目に変わっている。
事の発端は、僕が彼女の"ある手紙"を見つけたことだ。
彼女は3年前、医師から認知症からなる記憶障害という診断を受けて、何日も1人で考え込んでいた。
そんなある日、僕は彼女が書斎で熱心に何かを書いているのを見てしまった。
彼女が眠った後机の上を見ると、全て子どもが書いたような平仮名で、こう書かれていた。
"めいわくかけてごめんなさい、あした、はちがついつかにしにます"
だから、今日も8月4日だし、明日も8月4日だ。
その先も、ずっと、ずっと。
何年経っても変わらない。
ハーブティーを淹れ終わった後、彼女が思い出したようにこちらに話しかけてきた。
「…今日は何日?」
「8月4日だよ。ここに季節はないけど、地球の北半球は真夏だろうね」
「…そう」
「明日は君の誕生日だね!宇宙便でケーキも用意したんだ、楽しみにしててね」
「…ありがとう」
「こちらこそ、いつもありがとう」
僕が返した言葉に、彼女は少し不思議そうな表情をして、また窓の外を眺めるのだった。




