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ある夏の変わらない1日

掲載日:2026/01/10

ここは地球から遠く離れた小さな星。

ここにいる人間は僕と妻の2人だけ。


朝日が昇る時間に合わせて全自動カーテンが開き、愛犬の助六(すけろく)が僕のもとへ駆け寄ってくる。


「おはよう、今日もよろしくね」

助六は白髪交じりの老犬だが、宇宙通販で購入した餌が良かったらしくとても元気だ。


そして、僕はいつものように妻を起こす。


「おはよう、よく眠れたかい?」

僕は愛する妻に優しく語りかけ、頬にそっとキスをした。


彼女はまだ眠たそうな表情で身体を起こす。


「…今日は何日?」

「8月4日だよ。ここに季節はないけど、地球の北半球は真夏だろうね」

「…そう」


妻は憂鬱そうな表情で窓の外の星空を眺めている。


「明日は君の誕生日だね!宇宙便でケーキも用意したんだ、楽しみにしててね」


「…ありがとう」


僕は妻の素っ気ない態度を横目に、ミント入りのハーブティーを淹れる。

爽やかな香りが部屋にふわっと広がった。


「いい香りね、ところで今日は何日だったかしら?」


「8月4日だよ。ここに季節はないけど、地球の北半球は真夏だろうね」


「…そう」


「明日は君の誕生日だね!宇宙便でケーキも用意したんだ、楽しみにしててね」


「…ありがとう」


妻はまた憂鬱そうな顔で窓の外を眺める。


彼女は気付いていないが、この会話を続けてまもなく3年になる。

そして愛犬の助六も、実は2代目に変わっている。


事の発端は、僕が彼女の"ある手紙"を見つけたことだ。


彼女は3年前、医師から認知症からなる記憶障害という診断を受けて、何日も1人で考え込んでいた。


そんなある日、僕は彼女が書斎で熱心に何かを書いているのを見てしまった。

彼女が眠った後机の上を見ると、全て子どもが書いたような平仮名で、こう書かれていた。


"めいわくかけてごめんなさい、あした、はちがついつかにしにます"


だから、今日も8月4日だし、明日も8月4日だ。

その先も、ずっと、ずっと。

何年経っても変わらない。


ハーブティーを淹れ終わった後、彼女が思い出したようにこちらに話しかけてきた。


「…今日は何日?」

「8月4日だよ。ここに季節はないけど、地球の北半球は真夏だろうね」


「…そう」


「明日は君の誕生日だね!宇宙便でケーキも用意したんだ、楽しみにしててね」


「…ありがとう」


「こちらこそ、いつもありがとう」


僕が返した言葉に、彼女は少し不思議そうな表情をして、また窓の外を眺めるのだった。

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