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【続編執筆中!】銀灰の掠夜彗星(ナイトグレイザー)~「夜」に追いつかれたら即死する世界で、深窓の姫君を拾いました~  作者: 吉良織彦
第1章:空の底の契約者

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第5話 契約と境界線

サクヤ、アリア、ヴィグナ。

三者三様の思惑が交差する中、壊れかけた巨船を直すための「契約」が結ばれます。

「動くな」


 声と共に、喉元に鋭利な冷気が突きつけられた。

 星導剣ビームサーベルの切っ先だ。起動音もなく、殺気だけで空気を凍らせる手腕。素人ではないサクヤは両手を挙げ、ゆっくりと視線を上げた。


「……手荒い挨拶だな、お巡りさん」


 そこに立っていたのは、燃えるような赤髪の女騎士だった。

 ヴィグナ・スカーレット。白い軍服を着崩すことなく纏ったその姿は、凛々しくも圧倒的な威圧感を放っていた。

 だが、サクヤの目が留まったのは、その剣だけではない。至近距離で対峙したことで、彼女の身体的特徴が暴力的なほどの存在感で迫ってきたのだ。白い軍服のボタンが、今にも弾け飛びそうなほどに張り詰めた胸元。騎士として鍛え抜かれた体幹の上に、不釣り合いなほどの豊満な果実が乗っている。呼吸をするたびに、分厚い生地が窮屈そうにきしみ、その圧倒的な質量を主張していた。厳しい表情と、その扇情的な身体つきのアンバランスさ。


(……なんて身体してやがる。軍服のサイズ間違ってんじゃねえか?)


 サクヤは内心で毒づきながらも、その迫力に一瞬たじろいだ。剣呑な空気が路地裏を支配する。


「貴様、何者だ。アリア様に何をした」

「ヴィグナ! やめて! この人は私を助けてくれたの!」


 アリアが割って入る。

 ヴィグナと呼ばれた騎士は、一瞬驚いたようにアリアを見つめ、渋々といった様子で剣を引いた。

 だが、その眼光は依然として鋭くサクヤを射抜いている。


「……失礼した。私はオリエンス公国近衛騎士団長、ヴィグナ・スカーレットだ」

「俺はサクヤ。ただのスカベンジャーだよ」

「スカベンジャーだと? ……フン、薄汚いハイエナか」


 露骨な侮蔑。


 彼女のような誇り高い騎士にとって、戦場の屍肉を漁るサクヤのような人種は、最も軽蔑すべき対象なのだろう。


「ヴィグナ、そんな言い方はしないで。彼は私の命の恩人よ」


 アリアが毅然と言い放つと、ヴィグナはバツが悪そうに口をつぐんだ。

 彼女は剣を収めると、アリアの前に片膝をつき、悲痛な面持ちで頭を垂れた。


「……申し訳ありません、姫様。ご無事で何よりです」

「顔を上げて、ヴィグナ。貴女が謝ることではないわ」

「いいえ。エンジンの臨界事故とはいえ、姫様お一人をポッドで射出するなど……騎士として万死に値する失態。あのままポッドの信号が途絶えた時は、生きた心地がしませんでした」


 ヴィグナの声が微かに震えている。船を守るか、姫を守るか。究極の選択の末にアリアを逃がし、そして行方不明にさせてしまった自責の念。

 彼女がサクヤに対して過剰に攻撃的だったのも、その焦りの裏返しだったのだろう。


「でも、私はこうして生きています。サクヤさんが拾ってくれたおかげで」

「……左様でございますか」


 ヴィグナはチラリとサクヤを見た。感謝と警戒が入り混じった複雑な視線だ。アリアはヴィグナの肩に手を置き、表情を引き締めて尋ねた。


「それより、船の状況はどうなの? 無事なの?」

「……芳しくありません」


 ヴィグナの表情が曇る。騎士としての強気が、焦燥に塗り替えられていく。

「メインエンジンの燃焼室が破損し、出力が低下しています。予備パーツもなく、騙し騙し飛んでいますが……このままでは数日中に墜落します」


 墜落。

 それは空に住む者にとって、死と同義だ。ましてや、後ろからは「夜」が迫っている。足を止めれば、国ごと氷漬けだ。


「修理できる技師はいないのか? この街には修理工もいるだろう」

「雇った整備班はいますが、お手上げ状態です。古代の規格に合う交換パーツがありません。……貴様」

 ヴィグナが再びサクヤを睨んだ。

 藁にもすがる思いと、プライドの高さが混ざり合った視線。

「ハイエナならば、ガラクタのありかには詳しいのだろう? 心当たりはないか?」

 サクヤは頭をかいた。

 面倒ごとは御免だ。沈みかけの船に関わるのは、スカベンジャーとして一番やってはいけない自殺行為だ。

「悪いが、人助けは趣味じゃねえ。俺はここで失礼する。あとは警察にでも頼みな」

「待ってください! 報酬ならお支払いします!」

 アリアが、着ている古着のポケットから、小さな皮袋を取り出した。

 彼女はためらうことなくその紐を解き、中身をサクヤに見せた。

「……おいおい」

 サクヤの目が釘付けになる。

 中に入っていたのは、透き通るような群青色の輝き。

 市場には滅多に出回らない、王室品質ロイヤル・グレードの高純度星導石だった。これ一粒で、家が一軒建つどころか、一生遊んで暮らせる。

(こいつがあれば、『黒鳶』に極上の『酒』を飲ませてやれる……)

 サクヤの喉がゴクリと鳴る。

 アリアの瞳、ヴィグナの切羽詰まった表情、そして目の前の宝石。

 何より、古代のエンジンを直せるのは自分しかいないという、技術屋としての自負が疼く。

「パーツねぇ……。あるとすりゃあ、西の『墓場』くらいだな」

 サクヤはため息交じりに呟いた。

 石の誘惑には勝てなかった。

「墓場……?」

「五〇〇年前の大戦の激戦区跡地だ。そこなら、あんたの船と同じ時代の戦艦が山のように眠ってる。……ただし、幽霊と野良機械ストレイの巣窟だがな」

 サクヤは試すように二人を見た。

 常人なら尻込みする場所だ。死にに行くようなものだと言外に告げる。

「案内しろ。報酬は弾む」

 ヴィグナは即答した。迷いはない。

 アリアもまた、強い瞳で頷いている。その双眸に、恐怖による揺らぎは見えなかった。

「……へっ。上から目線だな。ま、いいぜ。商談成立だ」

 サクヤはニヤリと笑った。

 こうして、奇妙な契約が結ばれた。

 向かう先は、地図にない死の空域。鉄屑の機士と、二人の姫君の旅が始まる。

ご覧いただきありがとうございます。

これで一旦、役者は揃いました。

次回からはいよいよ、危険地帯『墓場空域』への冒険が始まります!


【読者の皆様へお願い】

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

もし「サクヤがかっこよかった!」「続きが楽しみ!」と思っていただけましたら、

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(評価は★1つからでも大歓迎です!)


明日の更新も楽しみにお待ちください!6話12時、7話19時予定です!

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