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【続編執筆中!】銀灰の掠夜彗星(ナイトグレイザー)~「夜」に追いつかれたら即死する世界で、深窓の姫君を拾いました~  作者: 吉良織彦
第1章:空の底の契約者

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第4話 銀灰の舞踏

第3話からの続きです。

路地裏でチンピラに絡まれたアリア。

そこに、あの男が舞い降ります。


「……あ?」


 顔面に空き缶を食らった男が、白目を剥いて石畳に沈む。残った二人のチンピラ――義手の大男と、ナイフ使いの小柄な男が、驚愕に目を見開き、頭上の瓦礫の山を見上げた。

 そこには、薄汚れた黒いコートを羽織った青年が、気怠げに座り込んでいた。フードの下から覗く瞳は、夜明け前の空のような深い紫色。手には、奇妙な形状の登山道具――二本一対の『星導鶴嘴ピッケル』が握られている。


「テ、テメェは……!」

「あーあ。せっかく拾った缶だったのに、ひしゃげちまった」


 青年――サクヤは、倒れた男には目もくれず、大袈裟に肩をすくめた。


「おい、三流ども。ここは俺の(シマ)だ。弱いものいじめがしたけりゃ、他所でやんな」

「あんだとオラァ!スカベンジャー風情が調子に乗るんじゃねえぞ!」


 大男が激昂し、蒸気を噴き出す機械義手の拳を構える。小柄な男もナイフを逆手に持ち替え、殺気立った目で睨みつけた。


「殺せ!身包み剥いで、その女もいただくぞ!」


 二人が同時に駆け出す。アリアは悲鳴を上げそうになり、口元を押さえた。だが、サクヤは動じない。彼はゆっくりと立ち上がると、足元の瓦礫を爪先でトン、と蹴った。


キィィィン……。


 耳鳴りのような高周波音。サクヤが履く厚底の軍靴――『重力制御ブーツ』の踵に埋め込まれたコンデンサが、急速充電される音だ。


「――どいつもこいつも、騒がしいんだよ」


 カッ!

 ブーツの底から、青白い光の波紋が弾けた。爆発的な「斥力リパルション」が、サクヤの身体を弾丸のように射出する。


ヒュンッ!


 黒い影が空を裂いた。大男が拳を振り上げた時には、もう目の前にサクヤはいなかった。彼は重力を無視した軌道で大男の頭上を飛び越え、空中で身を捻っていたのだ。


「遅い」


 サクヤが空中で『双嘴ツイン・ビーク』を振るう。刃は使わない。金属製の柄で、大男の後頭部を強烈に殴打スマッシュ

 ドゴッ!巨体が前のめりに崩れ落ちる。

 着地と同時、サクヤは流れるようにスライディングへ移行した。ブーツの斥力をブレーキではなく、加速に使う。氷の上を滑るような、慣性を無視した機動。


「ひ、ヒィッ!?」


 残されたナイフ男が、あまりの速さに腰を抜かす。サクヤはその目前でピタリと停止すると、右手のピッケルを男の鼻先に突きつけた。赤熱した刃先が、ジリジリと空気を焦がす。


「……失せろ。次は解体バラすぞ」


 低く、冷徹な宣告。男は「ひぃぃぃ!」と情けない声を上げ、仲間を見捨てて脱兎のごとく逃げ出した。

 あたりに静寂が戻る。サクヤはピッケルの熱伝導スイッチを切ると、腰のホルスターにカチャリと収めた。そして、へたり込んでいるアリアの方へ、ゆっくりと歩み寄る。

 アリアは息を呑んでその姿を見つめていた。ボロボロのコート。油の匂い。無精髭の生えた顎。どこからどう見ても、薄汚れた労働者だ。けれど、その身のこなしは、アリアが知るどの近衛騎士よりも洗練されていた。銀灰色の月光と、硝子の花園の淡い光を背負った彼は、まるで夜そのものだった。


「……たく。不用心な散歩だな」


 サクヤが、呆れたように呟く。その声。低く、ハスキーで、けれど芯のある響き。アリアの心臓が大きく跳ねた。


 ――間違いない。


 あの時。

 『黒鳶』の狭いコクピットの中で聞いた声だ。

 凍えるような「夜」から逃げる最中、自分のすぐ隣で、的確に機体を操りながら響いていた、あのぶっきらぼうな声。

 サクヤはアリアの前に膝をつき、乱暴に、しかしどこか気遣わしげに手を差し伸べた。


「怪我はねえか、お姫様?」


 紫水晶アメジストのような瞳が、至近距離でアリアを覗き込む。時間が止まったようだった。スラムの悪臭も、寒さも、全てが遠のく。


「あ……」


 アリアは震える手で、その大きな手を握り返した。

 革手袋越しに伝わる、確かな熱と硬さ。


「あなたは……あの時の……」


 アリアが問いかけようとした、その時だった。


「――そこまでだ、悪党!」

「姫様ーッ! ご無事ですかーッ!!」


 路地の向こうから、鋭い制止の声と、慌ただしい足音が響いてきた。サクヤの眉が、わずかにピクリと動く。


「……チッ。お巡りさんのお出ましだ」


 彼はアリアの手を離し、素早く立ち上がろうとした。だが、それより早く、白い影が疾風のように現れた。

お読みいただきありがとうございます!


サクヤの戦闘スタイルは、重力制御ブーツを使った「三次元機動」と、ピッケルによる「打撃」です。

銃火器を使わない、職人らしい喧嘩の仕方を書いていてとても楽しかったです。


そしてラストに現れたのは、オリエンス公国の近衛騎士団長、ヴィグナ。

サクヤとは正反対の「堅物騎士」ですが、彼女もまた重要な仲間の一人です。


次回、第5話「契約と境界線」。

本日19時に更新予定です!

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