表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【続編執筆中!】銀灰の掠夜彗星(ナイトグレイザー)~「夜」に追いつかれたら即死する世界で、深窓の姫君を拾いました~  作者: 吉良織彦
第4章:追走の翼、夜を越えて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/38

第35話 堕ちる天使、翔ける鳶

サクヤとフェリオン。

空を「自由な場所」と見るか、「管理する場所」と見るか。

二つの信念が、嵐の中で激突します。

 バリバリバリバリッ!!

 世界が紫色の閃光に包まれた。

 『嵐の壁(ストーム・ウォール)』の内部。そこは、大気が物理的な暴力となって吹き荒れる、混沌の坩堝だった。

 無数の稲妻が龍のようにのたうち回り、風速二〇〇メートルの乱気流が、侵入者を粉々に砕こうと襲いかかる。


『ぐぅぅぅッ……! きっついなおいッ!』


 サクヤは歯を食いしばり、暴れる操縦桿を両手で抑え込んだ。

 『黒鳶(ブラックカイト)』の機体フレームが悲鳴を上げている。装甲の継ぎ目から火花が散り、警報音が絶え間なく鳴り響く。

 だが、今のサクヤにとって、この嵐は敵ではない。

 「武器」だ。


「貴様ァァァッ!! 放せ! この薄汚い屑鉄がッ!」


 通信機から、フェリオンの絶叫が聞こえてくる。

 鋼鉄のアンカーワイヤーで『黒鳶』に繋がれたまま引きずり回されている『風の妖精(シルフィード)』は、まさに地獄を見ていた。

 人型であるがゆえの関節の多さが、この乱気流の中では仇となっている。手足があらぬ方向へねじ曲げられそうになり、姿勢制御システムが完全に暴走しているのだ。


『暴れんなよ、エリート様! お前さんの頑丈な機体が、一番いい「盾」になるんだよ!』


 サクヤはスロットルを操作し、わざと乱気流の激しい方向へ機首を向けた。

 巨大な雹の塊や、雷撃が襲ってくるルートだ。


『オラァッ! 右舷、障害物あり! 頼んだぞ相棒!』


 サクヤは機体を急旋回させ、遠心力でフェリオンを振り回した。


「なっ……やめろォッ!!」


 ドゴォォォォォン!!

 迫りくる巨大な氷塊に、『シルフィード』が叩きつけられる。

 美しい流線型の白い装甲が砕け、内部メカが露出する。

 フェリオンの悲鳴にも似た怒号が響くが、サクヤは意に介さない。


「貴様……! 私の『妖精』を、デブリ除けに使っているというのか!?」

『スカベンジャーは使えるもんは何でも使うんだよ! 感謝しな、お前のおかげで道が開ける!』


 サクヤの言う通り、二機のエネルギー干渉と、フェリオンを盾にした強行突破によって、分厚い積乱雲の中に一本の「トンネル」が穿たれつつあった。



   †



 嵐の外縁部。

 開いていく風穴へ向かって、都市艦オリエンス号が全速前進していた。


「シールド出力最大! 総員、衝撃に備えろ! あの穴へ突っ込むぞ!」


 バラスト艦長の号令が飛ぶ。

 その直上を、深紅の戦闘艇『緋蜂(カーディナル)』が並走していた。


『姫様! 私が殿を務めます! 追ってくる無人機は一機も通しません!』


 ヴィグナの声は決意に満ちていた。

 彼女の機体は右翼を失い、ボロボロだ。それでも、残った左舷スラスターと姿勢制御バーニアを駆使し、オリエンス号に群がろうとする敵ドローンを次々と撃ち落としていく。


「ヴィグナ……無理はしないで!」


 ブリッジのアリアが祈るように叫ぶ。

 前方を見れば、黒い雲の中に、青白いエンジン光と、爆発の光が明滅しているのが見える。

 サクヤが戦っている。

 あの中には、理不尽な死と、それをねじ伏せる生の輝きがある。


「……信じましょう。彼が切り開いてくれた道を」


 オリエンス号の巨体が、嵐の壁へと突入した。

 轟音。振動。

 だが、船は進む。

 その先導をするように、遥か前方で黒い機体が雷光を切り裂いて飛んでいる。



   †



 嵐の中心部。

 フェリオンの怒りは頂点に達していた。


「認めん……認めんぞ! このような戦い方など!」


 彼は『感応者レゾネーター』としての能力を全開にした。

 脳波で機体と完全同調し、ねじ切れそうな関節を強制的に制御する。


「私は選ばれた人間だ! 世界を管理し、秩序をもたらす者だ! 貴様のようなゴミに、振り回されてたまるかァァッ!」


 『シルフィード』のカメラアイが赤く発光した。

 拘束されている右腕ではなく、自由な左腕でビームサーベルを引き抜く。

 狙うはサクヤではない。

 自分たちを繋ぐ、この忌々しいワイヤーだ。


『おっ、やっと本気か?』


 サクヤは背後の殺気を感じ取った。

 ワイヤーを切られれば、盾を失うことになる。だが、ここまで来れば十分だ。

 嵐の出口は、もう目の前に見えている。


「消えろォォォッ!!」


 フェリオンがサーベルを一閃させた。

 バチィィィンッ!!

 鋼鉄のワイヤーが切断される。

 物理的な繋がりが絶たれた瞬間、『シルフィード』は自由を取り戻し――そして、乱気流によって後方へと吹き飛ばされた。


『あばよ、エリート様! お前さんのダンス、悪くなかったぜ!』


 サクヤは解放された機体の推力を、すべて前進力へと変えた。

 軽くなった機体が、弾丸のように加速する。


「逃がすかッ! 貴様だけは……貴様だけは絶対に許さんッ!」


 フェリオンは体勢を立て直し、スラスターを吹かした。

 執念の追撃。

 嵐の中で、黒と白の機体が再び交錯しようとした、その瞬間だった。

 バリバリバリバリドォォォンッ!!

 『ストーム・ウォール』最大級の落雷が、二機の間を直撃した。

 自然の猛威。

 数億ボルトのエネルギーが空間を焼き尽くす。


『うおっ!?』


 サクヤは紙一重で回避したが、衝撃波で大きく揺さぶられた。

 一方、フェリオンの『シルフィード』は、運悪く雷撃の直撃コースにいた。

 白い装甲が焼け焦げ、センサー類がショートする。


「ぐああああああッ!?」


 フェリオンの絶叫と共に、白き機体はコントロールを失い、嵐の渦の中へと飲み込まれていった。

 それは、空を汚した者への、星からのしっぺ返しのようにも見えた。


『……へっ。日頃の行いが悪いからだ』


 サクヤは吐き捨てるように言い、前方の光を目指した。

 雲が薄れていく。

 紫色の雷光が遠ざかり、代わりに眩しい陽光が差し込んでくる。

 ズボォォォォォッ!!

 『黒鳶』が雲海を突き破り、静寂の成層圏へと飛び出した。

 その直後。

 巨大な白い影――オリエンス号もまた、サクヤが開けた風穴を通って、嵐の向こう側へと躍り出てきた。


『こちら『緋蜂』! オリエンス号、全艦離脱成功! 敵影、なし!』


 ヴィグナの歓喜の声が響く。

 抜け出したのだ。

 死の包囲網を、夜を、そして嵐を。

 サクヤはコクピットの中で深く息を吐き、震える手で煙草を取り出した。

 まだ火をつける余裕はないが、口にくわえるだけで心が落ち着く。

 キャノピー越しに見える空は、いつもの黄昏色ではなかった。

 遥か高高度、『赤道航路』に近い場所から見る空は、目が痛くなるほど鮮やかな青色をしていた。


『……よう、お姫様。無事か?』


 サクヤが通信を開くと、モニターには涙と煤で汚れた、けれど最高に美しい笑顔のアリアが映っていた。


『はい……! はい、サクヤさん! 無事です……! 本当に、本当に……!』


 言葉にならない彼女の声を聞きながら、サクヤは小さく笑った。

 帰ってきた。

 金にもならない、命がけの戦場へ。

 だが、この胸の奥にある充足感は、どんな高額報酬よりも悪くなかった。

 しかし、戦いはまだ終わっていない。

 フェリオンは落ちたが、死んではいないだろう。あのしぶとい男のことだ、必ず這い上がってくる。

 そして何より、オリエンス号は傷ついている。

 完全に安全な場所まで、送り届けなければならない。


『感傷に浸るのは後だ。……行くぞ、次の空へ』


 『黒鳶』が翼を翻す。

 その先には、見たこともない新しい地平線が広がっていた。

敵を盾にして嵐に突っ込む。

最後までサクヤらしい、無茶苦茶な突破方法でした。

これにて、長い戦闘は決着です。

嵐を抜けた先には、どんな空が待っているのか。

次回、いよいよ最終話となります。

二人の旅路の「一区切り」を、どうか見届けてやってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ