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【続編執筆中!】銀灰の掠夜彗星(ナイトグレイザー)~「夜」に追いつかれたら即死する世界で、深窓の姫君を拾いました~  作者: 吉良織彦
第4章:追走の翼、夜を越えて

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間話 白き断罪者の憂鬱

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は少し視点を変えて、敵側――『白き断罪者』フェリオンの幕間です。 なぜ彼らが執拗にオリエンス号を追うのか、その「理由」が明かされます。

 上空一万メートル。地上の泥も鉄錆も届かない、清浄なる成層圏。『赤道(グランド・アーク)』正規軍、第七特務師団旗機――『風の妖精(シルフィード)』。その純白のコクピットは、無機質な静寂に包まれていた。


「……汚れている」


 フェリオンは、モニターに映る自機のメインカメラ周辺を指でなぞった。そこには、ルーストでの戦闘でつけられた黒いオイルの染みが、拭いきれずに残っていた。あの薄汚れたドブネズミ――『黒鳶(ブラックカイト)』が最後に放った、鉄骨の一撃による傷跡だ。完璧であるべき『妖精』の顔に泥を塗られた屈辱。フェリオンの完璧主義的な美学が、静かに、しかし激しく軋んでいた。


『――こちら司令部。フェリオン特務隊長、応答せよ』


 その時、暗号化された極超短波通信が入った。フェリオンは表情を能面のようになくし、回線を開いた。


「こちらフェリオン。……報告なら済ませてあるはずですが」


『ルーストでの作戦失敗について、元老院がお冠だ。「たかが一隻の難民船ごときに、なぜ精鋭部隊が手こずるのか」とな』


 通信の向こうの傲慢な声に、フェリオンは鼻で笑った。


「作戦中止は私の判断です。都市艦のシールド展開を確認した以上、無駄な消耗を避けたまで。……それに、元老院の方々こそ、焦りすぎではありませんか?」


『口を慎め。貴官も知っての通り、本国のエネルギー事情は逼迫している』


 司令部の声が、一段低くなった。


『我々の人工炉は限界だ。出力を維持するためには、オリジナルの「触媒(キー)」が要る。……オリエンスの姫、アリア・セレス・オリエンスという「生きた部品」がな』


 それこそが、この執拗な追跡の理由だった。赤道航路(グランド・アーク)。太陽の恵みを独占するその楽園は、実は緩やかな死を迎えている。彼らの技術では、惑星から効率よくエネルギーを吸い上げることができなくなっているのだ。対して、辺境のオリエンス公国は、古くさい「感応者」の血統を守り続けてきた。エンジンと対話し、同調し、極限の効率を引き出すことのできる、生きた制御中枢。彼らにとってアリアは人間ではない。枯渇しつつある楽園を救うための、ただの稀少な「交換パーツ」なのだ。


「……人間をエンジンの生贄にするなど、前時代的な野蛮人の風習だと思っていましたが。我々も地に落ちたものですね」


 フェリオンが冷ややかに皮肉を言う。彼は潔癖だ。人間を部品扱いするオリエンスの風習も、それを欲しがる本国の浅ましさも、等しく「不潔」だと感じていた。


『これは「保存」だ、フェリオン。優れた機能だけを抽出し、管理する。……だが、あの船に乗っている薄汚い難民どもは別だ』

「ええ、分かっています」


 フェリオンは、目の前のホログラムマップを展開した。そこには、逃走を続ける都市艦『オリエンス号』の予想進路が表示されている。


『奴らは「エンジン教」とでも呼ぶべき狂信者だ。機械と人が交わることを神聖視する、不快な連中だ。アークの秩序には不要なゴミだ』

「つまり、姫の身柄だけを確保し、残りのゴミは焼却処分……ですね?」

『その通りだ。……失敗は許されんぞ、断罪者』


 通信が切れる。 フェリオンは深いため息をついた。結局のところ、これは「掃除」なのだ。世界を美しく保つために、役立つ部品だけを回収し、残りの汚物を消毒する。


「……さて。ネズミ狩りの計画を確認しようか」


 オリエンス号は現在、極地に近い『白夜航路(グレイ・レーン)』を西へ向かっている。だが、このまま白夜航路を進み続けることは不可能だ。なぜなら、この先の空域には、巨大な「磁気嵐の壁(ストーム・ウォール)」が存在するからだ。老朽化したオリエンス号のエンジンでは、正面突破は不可能。迂回すれば、後ろから迫る「夜」に追いつかれて凍りつく。


「彼らに残された道は一つしかない」


 フェリオンの細い指が、マップ上の一点を指し示した。白夜航路から、赤道航路へと合流するための唯一の連結空域。通称『天の梯子(ジェイコブス・ラダー)』。上昇気流を利用して高度を上げ、嵐の壁を飛び越えて、安全な赤道航路へと逃げ込むためのルートだ。


「ここだ。彼らは必ずここを通る」


 そこは、道幅が狭く、身を隠す場所もない一本道。待ち伏せには絶好の狩り場だ。そこで姫を確保し、あの船を沈める。そして、あの目障りな黒い機体――『黒鳶(ブラックカイト)』もろとも、永遠の闇へ葬り去る。


「……来るがいい、オリエンス。そして黒いドブネズミ」


 フェリオンは、モニターの黒い染みをもう一度睨みつけた。個人的な恨みと、任務としての義務。その二つが重なり合い、彼の中に冷たい殺意の炎を灯していた。


「ここが貴様らの墓場だ。……僕が直々に、引導を渡してやる」


 白き断罪者は静かに目を閉じた。その脳裏には、炎上するオリエンス号と、バラバラに砕け散る『黒鳶』の姿が、鮮明な予知夢のように描かれていた。

フェリオン、ただのキザな敵役かと思いきや、彼なりの(歪んだ)美学と、国を背負う事情があるようです。 しかし「人間を部品扱い」は許せませんね……。


次回はオリエンス号サイド。アリアたちの絶体絶命の状況をお届けします。

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