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【続編執筆中!】銀灰の掠夜彗星(ナイトグレイザー)~「夜」に追いつかれたら即死する世界で、深窓の姫君を拾いました~  作者: 吉良織彦
第3章:錆びた止まり木の攻防

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第25話 開戦の狼煙

空を覆う「赤」の軍勢。 対するは、スラムの住人と、片翼の黒い鳥。 「私たちの街を焼く気か!」 レイファの号令と共に、ルースト防衛戦の幕が上がります。


 ウゥゥゥゥゥ――ッ!!

 不快なサイレンの音が、錆びついた鉄の街を揺らしていた。空を見上げれば、そこはもう「赤」に染まっていた。夕焼けではない。上空から降下してくる無数の無人攻撃機(ドローン)と、それを指揮する傭兵部隊のスラスター光が、灰色の雲海を焼き尽くすように輝いているのだ。

 ズドドドドンッ!最初の爆撃が、ルーストの第三甲板に着弾した。  違法増築されたバラック小屋が吹き飛び、炎と黒煙が舞い上がる。中立条約など紙屑同然。警告もなしに、彼らはこの街を地図から消そうとしている。


「――ひっ、ひぃぃぃ! 戦争だ! 『赤道』の連中が攻めてきたぞ!」

「逃げろ! ここはもうおしまいだ!」


 通りはパニックに陥っていた。逃げ惑う人々、商品を放り出してシャッターを下ろす商人たち。恐怖という名の伝染病が、瞬く間にスラムを覆い尽くそうとしていた。

 だが。その混乱を切り裂くように、街中のスピーカーから凛とした声が響き渡った。


『――お黙りなさい、この負け犬ども!』


 キーーーン!  ハウリングと共に響いたその怒声に、人々は足を止めた。誰もが知っている声だ。このルーストの裏社会を牛耳る女帝、レイファの声だ。


『いい? よく聞きなさい。空から降ってくるあの礼儀知らずな連中は、私たちの街を焼くつもりよ。あんたたちの店も、隠し持ってるヘソクリも、今夜抱くつもりだった女も、全部灰にする気よ』


 大型ビジョンの画面が切り替わり、ハンガーで仁王立ちするレイファの姿が映し出された。彼女は優雅に、しかし鬼気迫る表情で扇子を突きつけた。


『逃げれば助かると思ってる? 甘いわ。奴らは目撃者を一人も残さない。逃げても背中を撃たれるだけよ』


 ごくり、と街全体が息を呑む音が聞こえるようだった。


『なら、どうするの? 座って死ぬのを待つ? ……違うわよね?』


 レイファがニヤリと笑った。それは、凶暴で、美しく、そして頼もしい「ボス」の笑みだった。


『ここは私たちの庭よ! 法律も警察もないけれど、ここには「意地」があるはずよ! 店子ども! 家賃分働きなさい! 銃を取りなさい! 持てる者は武器を、持たざる者は石を! 私たちのシマを荒らす馬鹿どもに、ルースト流の「最高のおもてなし」をしてやるのよ!!』


 一瞬の静寂。  そして――。


「……おおおおおおおおおおおッ!!」


 爆発したのは、爆弾ではなく「怒号」だった。逃げ惑っていた男が、懐から拳銃を抜き放つ。シャッターを下ろそうとしていたジャンク屋の親父が、店の奥から違法改造品の対空機関砲を引きずり出してくる。娼館の窓が開き、派手な化粧をした女たちが火炎瓶を投げつける準備を始める。

 彼らは善良な市民ではない。犯罪者、脱走兵、密輸業者。いわば「クズ」の集まりだ。だが、クズにはクズなりのプライドがある。自分たちの巣を荒らされることを何よりも嫌う、野良犬の獰猛さが目覚めたのだ。

 ダダダダダダッ!!

 街のあちこちから、対空砲火が上がり始めた。ネオンサインの裏からガトリングが火を吹き、屋上からはロケットランチャーが放たれる。  降下してきたドローンの一機が撃ち落とされ、花火のように爆散した。



 †



 地下ハンガー。  地上の熱狂を肌で感じながら、サクヤは愛機『黒鳶(ブラックカイト)』のコクピットへと滑り込んだ。


「……へっ。あの女、いい演説しやがる」


 サクヤは口元を緩め、メインコンソールのスイッチを次々と弾いた。火器管制システム、オンライン。ジェネレーター出力、安定。だが、モニターの左側には、赤い警告灯(エラー)が点滅している。


「旦那! 聞こえるか!?」


 通信回線からリベットの声が飛び込んでくる。


「左腕の接続、無理やりバイパスしたから動作保証はないよ! アタシが徹夜で組んだプログラムで動かしてるけど、繊細な操作は期待しないでくれ!」


「上等だ。動けばいい」


 サクヤは左側の操縦桿を握りしめた。いつものパイルバンカーの重みはない。代わりに、ずっしりとした「質量」を感じる。モニター越しに左腕を見る。そこに装着されていたのは、土木作業用の大型重機を無理やり戦闘用に転用した、無骨な三本爪のアームだった。『圧砕鉄顎(アイアン・バイス)』。  レイファがどこかの解体現場から横流しさせた、パワーだけが取り柄の代物だ。


「本来は戦艦の装甲板を引き剥がすためのモンだ。握力は馬鹿みたいにあるけど、リーチは短いからね!」

「十分だ。……抱きしめてやるさ」


 サクヤはエンジンペダルを踏み込んだ。キュイィィィン……ドォォォォォッ!!  古代の心臓『ヴァルカン・プライム』が咆哮を上げる。

 その時、コクピットのハッチが叩かれた。外部カメラを向けると、リフトの上にレイファが立っていた。彼女は爆風で乱れる髪も気にせず、キャノピー越しにサクヤを見つめていた。


「サクヤ!」


 彼女の声が、直接装甲を通して響いてくるようだ。


「……言わなくても分かってる。必ず守る」

「違うわ。守らなくていい」


 レイファは首を横に振り、不敵な笑みを浮かべた。そして、ガラス越しにキスを投げた。


「勝ちなさい。 ……私の『黒鳶(ブラックカイト)』に傷一つつけることなく、あの目障りな虫どもを全部叩き落としてきなさい。それが『第一夫人』の命令よ」

「……はっ。無茶苦茶言いやがる」


 サクヤは苦笑し、サムズアップで応えた。守るための戦い? そんな殊勝なガラじゃない。これは「縄張り争い」だ。売られた喧嘩は、高く買って叩き返すのが流儀だ。


「行くぞ、相棒! 食い散らかす時間だ!」


 プシュゥゥゥッ!  カタパルトのロックが解除される。サクヤはスロットルを全開まで押し込んだ。


「――黒鳶(ブラックカイト)、翔べッ!!」


 轟音。  黒い機影が、地下から地上へと解き放たれた。



 †



 ルースト上空、高度五〇〇メートル。そこは、鉄と炎が入り乱れる死の領域となっていた。無数のドローンが蜂の群れのように飛び交い、地上へレーザーの雨を降らせている。住民たちの必死の抵抗も、物量差の前には徐々に押され始めていた。


「GAGAGA……目標、制圧……」


 ドローンの一機が、逃げ遅れた子供たちが隠れる倉庫へ照準を合わせる。発射シークエンス、承認。トリガーが引かれる直前。

 ズドォォォォォォンッ!!

 ドローンの胴体が、横合いから「何か」に激突され、ひしゃげた。


「GA……!?」


 カメラアイが捉えたのは、噴射炎を纏って突っ込んできた、黒い人型兵器。その左腕――巨大な鉄の顎が、ドローンのボディを鷲掴みにしていた。


「――よう。道に迷ったのか? 案内してやるよ」


 サクヤの声と共に、油圧シリンダーが唸りを上げた。ギギギギギッ! バキンッ!  圧倒的な圧縮力が、ドローンの装甲をアルミ缶のように押し潰した。内部の動力炉が圧壊し、爆発する。


「一丁あがりッ!」


 サクヤは爆炎の中から飛び出し、次なる獲物へと躍りかかった。パイルバンカーのような「点」の貫通力はない。だが、この『圧砕鉄顎(アイアン・バイス)』には「面」の制圧力がある。


「邪魔だッ!」


 迫りくる二機目のドローンを、左腕で裏拳のように殴り飛ばす。三機目のレーザーを、右手の装甲で弾きながら肉薄し、その頭部を掴んで引きちぎる。殴る、掴む、投げる。それは洗練された騎士の剣術ではない。路地裏の喧嘩殺法。泥臭く、暴力的で、それゆえに予測不能な野獣の動きだ。


『おっほー! やるじゃねえか旦那! その左腕、意外と似合ってるぜ!』


 リベットの歓声が届く。


「悪くない使い心地だ! これなら何でも掴めそうだぜ!」


 サクヤはスラスターを噴かし、ビルの谷間を縫うように急上昇した。  背後から複数のドローンが追ってくる。  彼は空中で急停止し、ワイヤーアンカーを近くの看板に撃ち込んだ。遠心力を利用して一気に旋回(ドリフト)する。


「こいつはオマケだ!」


 すれ違いざま、握り潰したドローンの残骸を、追っ手に向かって投げつけた。ドガァァァン!  残骸に激突した追跡機が連鎖爆発を起こす。


『サクヤ! 九時の方向、大型が来る!』


 ジンの警告。左側から、通常のドローンよりも一回り大きい、有人仕様の重装甲機(ヘビィ・アームズ)が接近していた。  両肩にガトリング砲を装備した、火力特化型だ。


『死ねぇぇッ! 薄汚いスカベンジャーが!』


 敵パイロットの罵声と共に、ガトリングの暴風雨が襲いかかる。だが、サクヤは退かない。シールドを構え、真正面から弾幕の中を突っ切った。


「誰が薄汚いって? ……あいにく、風呂に入ったばかりなんでな!」


 装甲が削れ、火花が散る。だが、『黒鳶(ブラックカイト)』の突進力は衰えない。距離ゼロ。


「捕まえたぜッ!」


 ガシィィィィン!!  左腕の『(アイアン・バイス)』が、敵機のコクピットブロックを万力のように挟み込んだ。  逃げようとする敵機。だが、産業用重機のトルクは伊達ではない。一度噛みついたら、鉄骨ごと噛み砕くまで離さない。


「は、離せ! バケモノめ!」

「断る。……これがルースト流の『握手』だ。覚えとけ!」


 サクヤは操縦桿をねじ込んだ。  左腕の出力全開。

 メキメキメキ……バキャァァァッ!!

 コクピットの装甲が悲鳴を上げ、ひしゃげていく。  敵機は制御を失い、そのままキリモミ回転しながら墜落していった。地上で上がる火柱を見下ろし、サクヤは荒い息を吐いた。


「……ふぅ。まずは小手調べってとこか」


 周囲を見渡す。サクヤの乱入によって、ドローン部隊の連携は崩壊していた。地上のレイファたちの対空砲火も勢いを増している。


 ――勝てる。  このまま押し切れば、撃退できる。


 そう確信した、その時だった。

 ピリリ……。サクヤの脳裏に、微かな電流が走った。レーダーには反応がない。聴覚センサーも異常を拾っていない。だが、肌が粟立つような悪寒が、背筋を駆け上がった。


(……なんだ? この感覚は……)


 戦場の喧騒が、ふっと遠のくような静寂。雲の切れ間から、一筋の光が差し込む。

 その光の中から、ソレは現れた。音もなく。優雅に。戦場の汚れなど一切寄せ付けない、純白の翼を持つ機体が。


「……綺麗な機体だなおい。天使のお出迎えか?」


 サクヤは軽口を叩いたが、握る手には脂汗が滲んでいた。本能が告げている。あれは、今までの有象無象とは違う。次元の違う「死」そのものだと。

お読みいただきありがとうございます!


 ルースト防衛戦、開幕! 正規軍の綺麗な戦争ではありません。 ガトリング、火炎瓶、違法改造兵器……スラムの住人たちが総出で抵抗する、泥臭くも熱い戦いです。 そしてレイファ様の演説、痺れましたね。「家賃分働け」は名言です。


 復活した『黒鳶』の新装備は『圧砕鉄顎』。 繊細なパイルバンカーとは真逆の、握って潰すパワー系武装。 「掴む」「投げる」「引きちぎる」という野蛮な戦い方が、サクヤの荒っぽい操縦にマッチしています。

 しかし。 雑魚を蹴散らしたサクヤの前に、ついに「本命」が現れました。 純白の機体。音のない飛翔。 次回、第26話「舞い降りる死神」。

最強のライバル・フェリオンと、機体『シルフィード』が降臨します。 サクヤは「本物の空」を知ることになります。


【読者の皆様へ】

「アクションシーン、熱い!」「ついにライバル登場か!?」とワクワクしていただけましたら、 ブックマーク登録と、下にある【☆☆☆☆☆】から評価をポチッとお願いします!


それでは、また次回の更新でお会いしましょう。

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