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【続編執筆中!】銀灰の掠夜彗星(ナイトグレイザー)~「夜」に追いつかれたら即死する世界で、深窓の姫君を拾いました~  作者: 吉良織彦
第3章:錆びた止まり木の攻防

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第24話 忍び寄る赤

穏やかな時間は、銃声と共に終わりを告げました。

スラムの路地裏で交錯する殺意。

そして、空を埋め尽くす「赤」の侵略者たち。

 錆びついた鉄扉の向こうから、重苦しい殺気が滲み出してくる。

 地下ハンガーの空気は、一瞬にして穏やかなティータイムから戦場へと切り替わった。


「……アリア、ヴィグナ。お前らは絶対に俺のそばを離れるな」


 サクヤは壁に掛けてあったホルスターを腰に巻き、大型の自動拳銃をチェックした。スライドを引く金属音が、凍りついた空気に響く。

 本来なら『双嘴(ツイン・ビーク)』を振るいたいところだが、あれは対・重機動兵器用の装備だ。狭い市街地での対人戦闘には向かない。ここは原始的な鉛の弾丸が物を言う。


「承知しました。……ですがサクヤ殿、貴殿は負傷しているはず。無理は……」

「俺が倒れたら、お前がアリアを守って逃げろ。……今はそれだけ考えろ」


 サクヤは短く告げ、ハンガーの入り口へ向かった。

 その隣に、深紫のドレスを翻し、レイファが並ぶ。

 彼女の手には、優美な装飾が施された大口径のリボルバーが握られていた。グリップには象牙が使われている特注品だ。


「私の(シマ)で暴れようなんて、いい度胸ね。……掃除の時間よ」

「派手に撃ちすぎるなよ、レイファ。壁に穴が開く」

「あら、リフォームのいい機会じゃない?」


 軽口を叩き合う二人。だが、その瞳は笑っていない。獲物を狩る捕食者の目だ。


「行くぞ。……ジン、外の状況は?」

『最悪だぜ。路地裏はもう包囲されてる。数は一〇……いや、増えた。一五だ』


 イヤーモニターから、ジンの緊迫した声が届く。

 サクヤは舌打ちをし、鉄扉のロックを解除した。

 ガゴンッ……!

 扉が開いた瞬間、乾いた発砲音が轟いた。

 ヒュンッ!

 サクヤの頬を掠め、背後のドラム缶が火花を散らす。


「挨拶なしかよッ!」


 サクヤは即座に応射した。タンッ、タンッ! 正確な二連射。

 通路の陰に潜んでいた男が、肩を押さえて崩れ落ちる。

 だが、それはただのチンピラではなかった。崩れ落ちながらも、男は無言で通信機に何かを囁き、即座に予備の武器へと手を伸ばしたのだ。


「……動きが違う。プロだ」


 サクヤはヴィグナたちを庇いながら、コンクリートの柱の陰へと滑り込む。

 襲撃者たちの装備は、ルーストの住民が使うような粗悪品ではない。統一された黒いタクティカル・スーツに、消音器付きのアサルトライフル。そして何より、その連携には一切の無駄がない。


「目標確認。……金髪の女を確保。抵抗するなら四肢を切断しても構わん」

「了解」


 無機質な無線音声が漏れ聞こえる。

 彼らの狙いは明確だ。アリア・セレス・オリエンス。この国の正統なる後継者。


「くっ……! やはり狙いはアリア様か!」


 ヴィグナが隠し持っていた短剣を構える。だが、彼女はドレス姿のアリアを庇いながらでは、思うように動けない。

 敵の包囲網が狭まる。十字砲火がサクヤたちを柱の裏に釘付けにする。


「チッ、数が多いな……!」


 サクヤがリロードしようとした、その時。

 ズドンッ!!

 頭上の吹き抜けから、腹に響くような轟音が響いた。

 直後、敵の一人の頭部が弾け飛ぶ。


「――お待たせ。風向きの計算に手間取ってな」


 ジンの声だ。

 遥か上空、廃ビルの屋上からの超長距離狙撃。

 敵の部隊が一瞬動揺する。

 その隙を、女帝は見逃さない。


「隙だらけよ、坊やたち!」


 レイファが柱の陰から飛び出し、踊るように引き金を引いた。

 ズガンッ! ズガンッ!

 マグナム弾の破壊力は凄まじい。強化繊維のボディアーマーごと敵の胸板を粉砕し、後方の壁まで吹き飛ばす。

 彼女の射撃は、ただの攻撃ではない。敵の恐怖心を煽る「演出」だ。


「ひ、怯むな! たかがジャンク屋風情が!」

「ジャンク屋? 言葉を慎みなさい。……私はこの街の『法律』よ」


 レイファは冷酷に微笑み、次弾を装填する。

 その圧倒的な制圧力に、敵の足が止まる。

 今だ。


「走れッ! リベット、アリアを連れて裏口へ!」

「分かってるよ! こっちだ姫様!」

「ヴィグナ、殿は任せる! 死ぬなよ!」

「愚問です! サクヤ殿こそ!」


 一行は二手に分かれた。

 アリアとリベットを先に逃し、サクヤ、レイファ、ヴィグナがその場に踏み留まる。

 狭い通路での乱戦。

 ヴィグナの短剣が閃き、懐に入り込んだ敵の腕を斬り飛ばす。サクヤは落ちていた敵のライフルを拾い上げ、フルオートで牽制射撃をばら撒く。


「はぁ……はぁ……。しつけぇな、ゴキブリ共が!」


 サクヤは荒い息を吐いた。

 怪我の影響か、視界が少し霞む。左腕の感覚も鈍い。

 だが、不思議と体は軽かった。

 背中にはレイファがいる。上にはジンがいる。そして横には、頼れる騎士がいる。

 孤独な戦いではない。背中を預けられる仲間がいるという事実が、サクヤの反応速度を極限まで高めていた。


「サクヤ! 右!」

「分かってる!」


 レイファの警告より早く、サクヤは右へ体を倒した。そこを銃弾が通過する。

 彼はそのまま一回転し、カウンターの一撃を敵の喉元へ叩き込んだ。

 数分の交戦の末。

 最後の一人がヴィグナの蹴りで壁に叩きつけられ、沈黙した。


「……ふぅ。片付いたか?」


 サクヤが銃を下ろし、汗を拭う。

 ハンガー前の通路には、一〇人以上の黒服が転がっていた。


「見事な腕前ですね。……サクヤ殿も、レイファ殿も」


 ヴィグナが息を整えながら、敬意を込めて言った。

 レイファは髪をかき上げ、ツンとすました顔で答える。


「あら、お褒めに預かり光栄ね。騎士団長様に認められるなんて」

「嫌味ですか?」

「まさか。本心よ」


 二人の間に、戦友のような奇妙な連帯感が生まれていた。

 だが、サクヤの表情は晴れない。

 彼は倒れている敵の一人の胸ぐらを掴み、その襟元を引き裂いた。

 そこに刻まれていたのは、太陽を模した赤い紋章――『赤道(グランド・アーク)』の正規軍章だった。


「……やっぱりだ。こいつら、ただの暗殺部隊じゃねえ」

「どういうこと?」

「装備が良すぎる。それに、この紋章……『太陽圏・第七特務師団』だ。要人の誘拐や、破壊工作を専門にする連中だ」


 サクヤの声が低くなる。

 彼らが動いているということは、これは単なる小競り合いでは済まない。

 その予感を裏付けるように、頭上の空気が震えた。

 ウゥゥゥゥゥ――ッ!!

 不気味なサイレンの音が、ルースト全体に鳴り響いたのだ。


『ッ! サクヤ! 上だ!』


 ジンの切迫した叫び。

 サクヤたちが顔を上げると、ハンガーの吹き抜けから見える灰色の空が、無数の「赤い光」で埋め尽くされていた。

 それは星ではない。

 降下してくる数百の無人攻撃機(ドローン)と、それを指揮する数機の重機動兵器のブースター光だった。


「な……なんだ、あれは……!」


 ヴィグナが絶句する。

 中立都市への武力侵攻。条約違反などというレベルではない。これは「戦争」だ。


「……本気かよ。たかが一隻の船と、一人の王女を消すために、ここまでやるか」


 サクヤが呻く。

 敵の目的は、アリアの確保だけではない。

 『オリエンス号』という存在そのもの、そしてそれに関わる全ての人間――この『ルースト』ごと抹消するつもりなのだ。


「……許さない」


 低く、冷たい声が響いた。

 レイファだ。

 彼女は空を見上げ、その美しい顔を怒りで歪ませていた。

 彼女にとって、この街は庭であり、家族であり、自分の体の一部だ。それを土足で踏み荒らそうとする行為は、彼女の逆鱗に触れる最大の禁忌。


「私の街で……私のシマで、好き勝手やってくれるじゃない……!」


 彼女は通信機を取り出し、全チャンネルに向けて叫んだ。


「総員、戦闘用意! 店子ども! 家賃分働きなさい! 銃だろうが鉄パイプだろうが、持てるものは全部持ってきなさい! 私たちの街を焼こうとする馬鹿どもに、ルースト流の『おもてなし』をしてやるのよ!!」


 その号令に呼応するように、街のあちこちから怒号と銃声が上がり始めた。

 スラムのクズたち、無法者、傭兵。

 普段はいがみ合っている彼らが、「共通の敵」を前に一つになる。


「……やるしかねえな」


 サクヤは振り返り、ハンガーの奥を見た。

 そこには、応急処置を終えたばかりの『黒鳶(ブラックカイト)』が、主の帰還を待っていた。


「ヴィグナ! お前はアリアを連れて、最短ルートでオリエンス号へ戻れ! あそこが一番安全だ!」

「ですが! 貴殿はどうするのです!」

「俺は空へ出る。……このままじゃ、街ごと蒸し焼きだ」


 サクヤはニヤリと笑い、ヴィグナの肩を叩いた。


「安心しろ。……ここは俺たちの庭だ。上等な軍隊様が相手でも、そう簡単には負けねえよ」


 サクヤは駆け出した。

 目指すは愛機のコクピット。

 地上での小競り合いは終わりだ。ここからは、鉄と炎が支配する、空の戦いが始まる。

お読みいただきありがとうございます!


ついに戦闘開始です。

今回は「生身での銃撃戦」。

サクヤ、レイファ、ジン、そしてヴィグナ。

それぞれのプロフェッショナルが、それぞれの武器で敵を排除するシーンは書いていて熱くなります。

特にレイファ様、マグナムぶっ放す姿が似合いすぎます。さすが女帝。

しかし、敵も本気です。

暗殺部隊の失敗を補うように投入されたのは、空を覆うほどの大部隊。

中立都市への無差別攻撃という暴挙に対し、サクヤたちの怒りが爆発します。

次回、第25話「開戦の狼煙」。

ルースト防衛戦、開幕!

街の住人総出の抵抗、そして蘇った『黒鳶』が空を舞います。

レイファが用意した「新装備」のお披露目もお楽しみに!


【読者の皆様へ】

「レイファ様かっこいい!」「ここから戦争だ!」とテンションが上がりましたら、

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それでは、また次回の更新でお会いしましょう。

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