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【続編執筆中!】銀灰の掠夜彗星(ナイトグレイザー)~「夜」に追いつかれたら即死する世界で、深窓の姫君を拾いました~  作者: 吉良織彦
第2章:深層空域『船の墓場』

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第20話 生還、そして迫る夜

地獄からの生還。

緊張の糸が切れた時、そこには別の意味で刺激的な光景が……?

 地獄の釜の底から這い上がるように、運搬用ドローンと共に一行は帰還した。

 オリエンス号、第三外部甲板。分厚いエアロックが閉じられ、消毒用のミストが噴射される。


「……ぷはっ! 生き返ったぁ!」


 安全圏に戻ったリベットが、真っ先に防護ヘルメットを脱ぎ捨てた。

 栗色のショートヘアが汗でぺたりと張り付いている。彼女は重たい防護服のジッパーを一気に引き下ろした。


「あー、重かった! 肩凝るぜ、これ」


 ガサリと脱ぎ捨てられたツナギの下から現れたのは、油染みのついたタンクトップだ。

 少年のようなスレンダーな肢体。鎖骨が浮き出る華奢な体つきで、胸元のふくらみは……悲しいほどに慎ましい。リベットは自分の胸をポンと叩き、「身軽が一番だね!」と強がって見せたが、その視線は隣のヴィグナへと吸い寄せられていた。


「……んぐっ。苦しい……」


 ヴィグナもまた、防護服を脱ごうと悪戦苦闘していた。ヘッドギアを外し、シュッ……という音と共に、胸元のファスナーが開放される。

 その瞬間。

 ボロンッ。

 圧縮されていた「暴力的な質量」が、解放の喜びを叫ぶかのように弾け出た。

 白い騎士団のインナーシャツが、限界まで生地を伸ばしてその双丘を包んでいる。動くたびにたぷん、と重々しく揺れるそれは、真面目で堅物な彼女の顔立ちとは裏腹に、あまりにも扇情的だった。汗で透けた布地が、豊かな谷間をいやらしく強調している。


「ふぅ……。サイズが合わず、胸が潰れるかと思いました」

「……ケッ。肉の無駄遣いしやがって」


 リベットが羨ましそうに、そして少し恨めしそうにボヤく。サクヤは男として目のやり場に困りつつも、努めて無関心を装い、自身の装備を点検するフリをした。


(……いいモノ見れたから、装備の修理代はチャラにするか)


 そんな軽口を心の中で叩きながら。


「……お喋りは終わりだ。ブツは確保した。これで契約完了だな」


 サクヤが指差す先には、ドローンによって運び込まれた『超硬度レアメタル』の山があった。

 これでオリエンス号のエンジンは修理できる。


「はい。……サクヤ殿」


 ヴィグナが姿勢を正し、豊かな胸を揺らしながら、深々と頭を下げた。


「貴殿がいなければ、我々は全滅していました。その技術と勇気に、騎士として最大の敬意を表します」

「よせ。俺は金のためにやっただけだ」


 サクヤは素っ気なく手を振った。

 本当だ。結果として船は助かるが、サクヤ自身は大赤字だ。虎の子の「虹色の石」を失い、左腕の装備も大破。手元に残ったのは、途中の雑魚から回収した小粒な石ころ数個だけ。


(……あーあ。割に合わねえ仕事だったな)



 †



 数十分後。

 サクヤは早々に甲板へ戻り、愛機『黒鳶(ブラックカイト)』のコクピットに潜り込んでいた。暖房の効いた船内には留まらない。あくまで「外」の住人としての線引きだ。

 ピピッ。コンソールで通信回線を開く。相手は、この仕事を紹介した仲介人だ。


『おう、サクヤか。生きてたか』


 モニターに映し出されたのは、無精髭を生やした老人の顔だった。右目が無機質な赤いカメラアイに置換されている。

 ジャンクショップ『鉄眼商会』の店主、鉄眼てつめだ。葉巻を噛み締め、煙たい店内でニヤリと笑っている。


「……ああ、なんとかな。だが大損だ。装備がイカれた」

『へっ。お前がヘマするとは珍しいな。で、戦果は?』

「『中』くらいの石が一つ。あとはガラクタだ。……ツケの足しにしてくれ」


 サクヤは回収した石のデータを送信した。虹色の石のことは伏せた。あれは報告するには危険すぎる。


『シケてやがるな。ま、いいさ。修理パーツは手に入ったんだろ? お姫様も喜んでるぜ』

「……知るかよ」


 通話を切ると、ドッと疲れが出た。シートに深く沈み込む。その時、別の回線が開いた。直通回線。アリアからだ。


『サクヤさん……』


 モニターには彼女の姿はない。音声だけだ。

 だが、その声だけで、彼女がどんな表情をしているか想像できた。

 きっと、窓際で胸に手を当て、祈るように空を見上げているのだろう。


「よう、お姫様。レアメタルは届いたか?」

『はい。今、リベットたちが修理に取り掛かっています。……本当に、ありがとうございました』

「礼には及ばねえ。契約通りだ」

『いいえ。契約以上のものを、あなたはくれました』


 アリアの声が、少し熱を帯びる。


『暗闇の中で、あなたの声だけが光でした。……また、お話ししてもいいですか?』

「……修理が終わるまでな。俺は逃げねえよ」


 サクヤはぶっきらぼうに答えたが、口元はわずかに緩んでいた。

 失ったものは大きい。だが、この心地よい疲労感は、金では買えないものだった。

 ――しかし。

 彼らはまだ知らなかった。

 墓場空域での時間のロスが、致命的な遅れを生んでいたことを。

 窓の外。

 雲海の彼方から、世界を凍らせる「夜」の闇が、音もなく、だが確実にオリエンス号の背後に迫っていた。

 そして、その闇の中には、サクヤたちを狙う「赤道」からの刺客の影も潜んでいることを。

お読みいただきありがとうございます!


無事生還!

そして、防護服の下のお約束(笑)。

リベットの慎ましさと、ヴィグナの豊かさ。

命がけの戦いを乗り越えたからこそ、こういう「生」を感じるシーンが映えますね。

サクヤも男として目のやり場に困りつつ、しっかりチェックはしていたようです。

これにて「墓場空域・探索編」は終了!

次回からは、持ち帰ったパーツを使った「オリエンス号修理編」が始まります。

そして……サクヤにベタ惚れな「あの女」も動き出す予感?


【第1章も折り返し地点!】

ここから物語は、迫りくる「夜」との競争、そして謎の刺客との戦いへ加速していきます。

続きが気になる方は、ぜひブックマークと【☆☆☆☆☆】の評価をお願いします!

それでは、また次回の更新でお会いしましょう。

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