第19話 虹色の弾頭(ウォーヘッド)
石を返すか、死ぬか。
サクヤが選んだのは、そのどちらでもない「三つ目の選択肢」でした。
「オォォォォォッ!!」
サクヤの咆哮が、轟音にかき消される。
彼は正面から突っ込んだ。燃料切れ寸前のスラスターが、断末魔のような黒煙を吐き出しながら、最後の加速を絞り出す。
「GAGAGA……排除……!」
『墓守』が迎撃体勢に入る。
右腕の巨大パイルバンカーが唸りを上げ、左腕のチェーンソーが空気を切り裂く。
真正面からの激突。質量差は歴然。まともにぶつかれば、サクヤなど潰れたトマトのように弾け飛ぶ。
「サクヤ殿ッ! 避けて!」
ヴィグナの悲鳴。
だが、サクヤは避けなかった。
衝突の寸前、彼は右手の『双嘴』をパージし、空いた手で、懐から取り出した「虹色の石」を握りしめた。
(石を返す? 馬鹿言え!)
この石はエネルギーの塊だ。エンジンに入れて燃やす暇はない。
だったら―― 弾頭にするまでだ!
サクヤは左手に残った『双嘴』の、パイル射出機構を強引に展開した。
通常は鉄の杭を装填するその穴へ、虹色の石を叩き込む。
ガキンッ! サイズが合わない。
サクヤはハンマーのように拳で石を殴りつけ、無理やり薬室へ押し込み、安全装置を強制解除した。
「食らいな、特製の一撃だッ!!」
サクヤは左腕を突き出し、墓守の懐へと滑り込んだ。
頭上をチェーンソーが掠め、髪の数本が散る。
だが、その踏み込みで、サクヤの左腕は敵の胸部装甲――動力炉の真上に密着していた。
「――貫通!!」
トリガーを引く。
撃鉄が虹色の石を叩いた瞬間。
カッッッ!!!!
世界が白に染まった。圧縮された高純度エネルギーが、行き場を失って暴発的な指向性エネルギーへと変換される。
『双嘴』の超硬度パイルが、虹色の光を纏ったレーザーのように射出された。
ズドォォォォォォォン!!!
凄まじい衝撃波が、サクヤの左腕ごと敵の装甲を貫く。物理攻撃を無効化するはずの複合装甲が、未知のエネルギー干渉によって飴細工のように溶解し、その奥にある墓守のコアを一瞬で蒸発させた。
「G……GA……ア、ア……」
墓守の巨体が、内側から膨張するように痙攣する。
背中の排気口から、七色の光が噴き出した。オーバーロード。
「……ッ、ぐぅあッ!」
サクヤは反動で吹き飛ばされ、壁に激突した。
左手に握っていた『双嘴』は、高熱でドロドロに溶け、原型を留めていない。それどころか、防護服の左腕部分も黒焦げになり、けたたましい警報音が鳴り響いている。
ズゥゥゥ……ン。
墓守の巨体が膝をつき、そしてゆっくりと前へ倒れた。巨大な質量が床を揺らし、赤いカメラアイの光がフツリと消える。
沈黙。
舞い上がる粉塵の中、荒い呼吸音だけが響いた。
「や……やった……?」
物陰から顔を出したリベットが、信じられないものを見る目で呟く。
古代の殺戮兵器が、たった一人の人間によって、しかもあんなデタラメな方法で沈められたのだ。
「サクヤ殿!」
ヴィグナが駆け寄る。サクヤは瓦礫の中で咳き込みながら、上半身を起こした。
「……ゲホッ、ハァ……ハァ……。ざまぁみろ、鉄クズが」
強がりを言ってみせたが、ダメージは深刻だった。
左腕が痺れて感覚がない。愛用の武器も一本失った。
そして何より――あの「虹色の石」は、一撃で消滅してしまった。
(……チッ。大赤字だ)
本来なら、一生遊んで暮らせるほどの価値がある石だった。それを、ただ生き残るためだけに使ってしまった。サクヤは悔しそうに顔を歪めたが、不思議と後悔はなかった。
自分の技術で、死の運命をねじ伏せた高揚感。それが、スカベンジャーとしての血を熱くさせていた。
「無茶苦茶です! あんな至近距離で爆発させるなんて!」
「勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ……」
サクヤはヴィグナの手を借りて立ち上がり、墓守の残骸の向こうへ目を向けた。
開いたままの壁の向こう。資材格納庫に、静かに積まれている鉄の板。
「……あったぞ。目的のブツだ」
オリエンス号の修理に必要な『超硬度レアメタル』――戦艦の予備装甲板。
これさえあれば、依頼は達成だ。
「リベット、運搬用ドローンを呼べ。……俺は少し休む」
サクヤはその場に座り込み、壊れた左腕の装備を乱暴にパージした。
――ザザッ……ザ……。
その時。墓守が停止し、磁気嵐が弱まったのか、イヤーモニターから微かなノイズが戻ってきた。
『……クヤ……さん……! サクヤ……さん!』
泣きそうな、アリアの声だ。
サクヤは煤けた顔で、少しだけ優しく笑った。
「……うるせえな。聞こえてるよ」
『ああっ! よかった……! 反応が消えて、もうダメかと……!』
「勝手に殺すな。……仕事は終わった。迎えを寄越せ」
サクヤは天井を見上げた。
石は失った。武器も壊れた。体もボロボロだ。
だが、約束は守った。それだけで、悪くない気分だった。
「……帰るぞ。地上へ」
サクヤの言葉に、ヴィグナとリベットが力強く頷く。
深く、冷たい墓場の底から、彼らは生還への一歩を踏み出した。
お読みいただきありがとうございます!
「石をエネルギー弾頭にして撃ち込む」。
正規の武器に、規格外の弾薬(虹色の石)をハンマーで無理やり押し込む。
技術屋としては最低の扱いですが、スカベンジャーの戦い方としては最高の一撃だったと思います。
何億という価値がある石を一瞬で使い捨てる……サクヤの財布は泣いていますが、彼のプライドは守られました。
さて、次で墓場編完結です。
第20話「生還、そして迫る夜」。激闘の後は……少しだけ「役得」なシーンもあります(笑)。




