第18話 賭けの時間
目覚めた古代兵器『墓守』。
燃料切れのサクヤたちに、レールガンの閃光が襲いかかります。
「GRRRRRRRR……!!」
地獄の底から響くような咆哮。
重機動兵器『墓守』の右腕――太い杭を装填した削岩アームが、爆発的な速度で突き出された。
「散れッ!!」
サクヤの叫びと同時に、三人は左右へ飛びのく。
ドゴォォォォン!!
一瞬前まで彼らが立っていた実験室の床が、紙屑のように粉砕された。舞い上がるコンクリート片と鉄粉。その衝撃波だけで、ヴィグナの体が木の葉のように吹き飛ばされる。
「くぅッ……!」
「大丈夫かヴィグナ!」
「な、なんという威力……!」
ヴィグナは受け身を取って立ち上がるが、ヘッドギアの下の瞳には戦慄が走っていた。
今まで相手にしてきた野良機械とは次元が違う。これは徘徊するゴミではない。戦争のための「兵器」だ。
「ガガ……侵入者……排除……」
墓守の六本の脚が、不気味な駆動音を立てて前進する。実験室と格納庫を隔てていたガラス壁は完全に天井へ収納され、二つの部屋は一つの巨大な処刑場と化していた。
「来るぞ! ヴィグナ、正面に立つな! リベットは物陰へ走れ!」
サクヤは指示を出しながら、自身のブーツを起動させる。跳躍して敵の背後を取るつもりだった。
だが。
プスッ……ガフッ……。
スラスターから黒い煙が漏れ、体が重い鉛のように床に縛り付けられる。燃料切れ寸前だ。
「チッ、こんな時に……!」
「キシャァッ!」
墓守の左腕、高速回転するチェーンソーがサクヤを襲う。
キィィィン!!
サクヤは『双嘴』で受け止めるが、重さが違う。火花が顔を焦がし、ブーツのソールが床を削りながら後退させられる。
「ぐぅ……ッ! 重てぇな、デカブツ!」
サクヤは強引にピッケルを捻り、敵の刃を逸らして横へ転がった。息が切れる。普段なら斥力ジャンプで頭上を越えていた攻撃が、燃料不足による機動力低下のせいで、ギリギリの防御に変わっていた。
回避できない恐怖。一撃でも貰えば即死するプレッシャーが、サクヤの体力を削っていく。
「サクヤ殿、援護します!」
ヴィグナが側面から切り込む。騎士の誇りをかけた、渾身の一撃。
星導剣が青い光を帯びて唸る。
「はぁぁぁッ!!」
ガギィィン!!
硬質な音が響き渡った。だが、墓守の装甲には浅い傷一つつかない。
複合装甲。物理攻撃と熱エネルギーを拡散させる、古代の鉄壁だ。
「な……弾かれた!?」
「下がるんだ、馬鹿!」
墓守が鬱陶しそうにヴィグナへ向き直り、背中のレールガンを展開する。砲口に青白い雷光が収束していく。
「ヤバい! 伏せろッ!」
ズドンッ!!
閃光。放たれた超高速弾が、ヴィグナのすぐ横を通り抜け、後方の実験装置を直撃した。
轟音と共に装置が爆散し、部屋全体が揺れる。
「ひぃぃッ! あんなの食らったら消し飛んじまう!」
物陰に隠れていたリベットが悲鳴を上げる。
逃げ場はない。入り口の扉は閉ざされ、部屋の奥は墓守が陣取っている。完全な袋の鼠。
「旦那! 石だ!」
リベットが叫んだ。
「こいつが起きたのは、旦那がその虹色の石を抜いたからだろ!? それを元のカプセルに戻せば、またスリープモードに入るんじゃないのか!?」
理にかなった提案だった。この石は「鍵」であり、動力源だ。返せば、この番犬は眠りにつくかもしれない。
ヴィグナも期待の眼差しを向ける。
「サクヤ殿、一度引くべきです! 今の装備では勝ち目がありません!」
だが。
サクヤは懐の石を握りしめ、首を横に振った。
「断る」
「はぁ!? 死ぬ気かよ!」
「俺はスカベンジャーだ。一度懐に入れた獲物は、死んでも返さねえ」
サクヤはニヤリと笑ったが、その目は笑っていなかった。
金のため? 違う。この石の「鼓動」が、俺に訴えているからだ。
『ここで手放せば、お前は一生、ただの偽物で終わる』
一族の因縁。祖父の記憶。そして、何より技術屋としての意地。この最高級の素材をみすみす手放して、命乞いをするなどあり得ない。それは自分の生き方を否定することだ。
「それに……あいつはもう、俺たちを『エサ』としか見てねえよ」
墓守のモノアイが、石を持つサクヤに固定された。
盗人を逃がすつもりはない。石を返そうが砕こうが、こいつは侵入者を殲滅するまで止まらないプログラムだ。
「……じゃあどうすんだよ! アンタの装備じゃ歯が立たないだろ!」
「ああ。今の出力じゃな」
サクヤは『双嘴』を構え直し、深く息を吐いた。
通常の燃料は底をついた。ブーツのインジケーターは赤く点滅している。
だが、手元には「極上の原石」がある。
本来、精製もせずに使うのは自殺行為だ。エネルギー密度が高すぎて、エンジンどころかサクヤ自身が爆発しかねない。
だが、このまま座して死ぬよりはマシだ。
「……賭けの時間だ」
サクヤは敵の巨体を見据え、懐から虹色の石を取り出した。
その輝きに、墓守が反応して咆哮を上げる。
「欲しいか? だったら力ずくで取りに来な!」
サクヤは挑発し、あえて真正面から突っ込んだ。
残りの燃料を全てスラスターに叩き込む。最後の特攻。
だが、その手には、ピッケルではなく「石」が握られていた。
お読みいただきありがとうございます!
「盗んだ石を返せば助かるかもしれない」。
合理的に考えればリベットの提案が正しいです。
でも、サクヤは返さない。
「一度掴んだ獲物は離さない」というスカベンジャーの意地と、自分のルーツへの執着。
こういう頑固で合理性を欠いた瞬間にこそ、男のカッコよさは宿る……と信じています。
しかし、状況は最悪です。
燃料切れ。武器も通じない。
サクヤに残された手札は、盗んだばかりの「未精製の石」だけ。
本日、【3話連続更新】の2本目!
夕方18:00に第19話「虹色の弾頭」を投稿します。
サクヤが打って出る、イチかバチかの賭けとは?
【読者の皆様へ】
「サクヤの意地、見届けたい!」「3話更新頑張れ!」と思っていただけましたら、
ブックマーク登録と、下にある【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると嬉しいです!
それでは、また夕方の更新でお会いしましょう。




