第17話 断絶の音
通信途絶。孤立無援。
そして、サクヤが手を伸ばした「禁断の石」が、眠れる守護者を目覚めさせます。
『……ザザッ……』
イヤーモニターからは、乾いた砂嵐の音しか聞こえない。サクヤは数回通信機を叩いたが、アリアの声は戻らなかった。
「……通信途絶)。完全に圏外だ」
「そ、そんな……。アリア様の誘導なしで、どうやって帰るのですか?」
ヴィグナが青ざめた顔で詰め寄る。この深海のような地下迷宮で、唯一の命綱だった「声」が途切れた不安は計り知れない。
「帰りの心配は後だ。まずは仕事を済ませるぞ」
サクヤは努めて冷静に振る舞い、周囲をライトで照らした。
彼らがたどり着いたのは、ドーム状の広大な空間だった。だが、そこは当初の目的地である「資材搬入デッキ」ではなかった。壁一面に並ぶ謎の計器類。床に刻まれた幾何学模様の溝。ここは――『実験室』だ。
「旦那、あそこ!ガラスの向こう!」
リベットが指差す先。部屋の奥にある分厚い強化ガラスの向こう側に、広大な格納庫が見えた。そこには、オリエンス号が必要としている「戦艦用予備装甲板」の山が、埃を被って眠っている。
「ありました!あそこが資材置き場ですね!」
「……ああ。だが、ここからは入れねえな」
サクヤはガラス壁の手前にある、堅牢な隔壁扉をコンコンと叩いた。電子ロックではない。物理的な封印が施されている。
「道が繋がっていません。……サクヤ殿、まさか道を間違えたのでは?」
「間違えてねえよ。正規ルートは崩落してたろ?こっちから裏口を開けるしかなかったんだ」
サクヤは平然と嘘を重ね、部屋の中央にある「装置」へと歩み寄った。円筒形のカプセル。その中に、拳大の結晶が浮いている。七色に光を変化させる、見たこともないほど美しい星導石。
あの「ト、ト、ト、ツ、ト……」という脈打つ音の発生源は、間違いなくこれだ。
「……きれいな石。でも、なんかヤバい感じがするぜ」
リベットが本能的な忌避感を露わにする。サクヤも同感だった。この石は、ただの燃料じゃない。もっと根源的な、この戦艦の心臓そのものだ。だが、今のサクヤにはこれが必要だった。燃料は尽きかけ、帰りの保証はない。この石があれば、一発逆転のエネルギーが得られる。
「この石が『鍵』だ」
サクヤは二人に向かって説明した。
「こいつがこの区画の動力を握ってる。これを引き抜いて再接続すれば、奥の格納庫への扉が開くはずだ」
「本当ですか?重要な封印に見えますが……」
「やらなきゃレアメタルは手に入らねえ。やるぞ」
ヴィグナの懸念を無視し、サクヤはカプセルの制御パネルに手をかけた。懐中時計と同じ紋章が刻まれたパネル。操作方法は分からない。だが、指が勝手に動く気がした。
(……来い。俺の血よ)
カシュッ。パネルがスライドし、カプセルが開放された。虹色の光が溢れ出し、部屋全体を幻想的に染め上げる。サクヤは震える手で、その石を掴み取った。
ズシッ。重い。物理的な重さ以上に、莫大なエネルギーの質量を感じる。
「……捕った」
サクヤが口角を吊り上げた、その瞬間だった。
ドクンッ!!
石が激しく脈打ち、強烈な衝撃波が放たれた。
「うわっ!?」
「キャッ!」
三人は弾き飛ばされ、床に転がる。同時に、部屋の照明が赤く明滅し始めた。
ウゥゥゥゥゥ……!!低周波の警報音が、腹の底に響く。
「な、何をしたんですか!?」
「チッ、罠かよ!」
サクヤは石を懐にねじ込み、『双嘴』を構えた。部屋の奥。ガラス壁の向こうにある資材格納庫の床が、轟音と共に割れた。そこからせり上がってきたのは、巨大な「影」だった。
ズゥゥゥン……!
全長一〇メートルを超える巨体。分厚い複合装甲に覆われた六脚。背中には長大なレールガンを背負い、右腕には削岩用の巨大パイル、左腕にはチェーンソーを装備している。五〇〇年前の重機動兵器――通称『墓守』。
「嘘だろ……。あんなのがまだ動くのかよ」
「サクヤ殿!こっちです!壁が!」
ヴィグナの叫び声。サクヤたちがいる実験室と、格納庫を隔てていた強化ガラスの壁が、墓守の起動に呼応してゆっくりと上昇し始めたのだ。障害物がなくなる。つまり、あの化け物と同じリングに立たされるということだ。
「ギギ……ガガガ……侵入者……排除……」
墓守の頭部にある三つのカメラアイが、不気味に回転し、サクヤたちを捕捉した。殺意の赤色が灯る。
「……クソッ。石を抜いたのが目覚ましになっちまったか」
サクヤは舌打ちをした。燃料は残りわずか。通信途絶。逃げ場なし。そして目の前には、古代の殺戮兵器。
「構えろ!来るぞッ!」
サクヤの絶叫と共に、墓守の巨大パイルが火を噴いた。
お読みいただきありがとうございます!
「正規ルートが崩落してた」――また嘘をつきましたね、この男は(笑)。
自分のルーツ(一族の石)に惹かれ、強引に進んだ結果が、この特大のペナルティ(ボス戦)です。
通信も切れ、燃料も残りわずか。逃げ場なし。
最強の古代兵器『墓守』相手に、サクヤはどう立ち向かうのか。
さて、ここからが正念場です。
明日12/27(金)も、気合を入れて【3話連続更新】します!
12:00 第18話『覚醒する守護者』
VS墓守! 燃料切れのブースターでどう戦う!?
18:00 第19話『銀灰の火花』
死闘の果てに掴むもの。
19:00 第20話『帰還と報酬』
墓場からの脱出、そして……。
この「墓場攻略編」、クライマックスまで一気に駆け抜けます。
年末の忙しい時期ですが、ぜひ彼らの死闘を見届けてやってください!
【読者の皆様へ】
「出た、巨大ボス!」「サクヤ、絶体絶命すぎない?」とハラハラしていただけましたら、
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(★の数だけ、墓守の装甲が柔らかくなる……といいなぁ!)
それでは、また明日の決戦でお会いしましょう。




