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【続編執筆中!】銀灰の掠夜彗星(ナイトグレイザー)~「夜」に追いつかれたら即死する世界で、深窓の姫君を拾いました~  作者: 吉良織彦
第2章:深層空域『船の墓場』

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第10話 侵入者たち

第9話からの連続更新です。

音も光も許されない死の回廊。

そこで生き残る術を知っているのは、騎士ではなく「野良犬」だけでした。

 ゴゴゴゴゴ……。重苦しい金属音と共に、巨大な円形のエアロックが開いた。五〇〇年ぶりに解かれた封印。そこから噴き出したのは、鼻が曲がりそうなほど濃密な「死」の匂いだった。腐った機械油、カビ、そして凍りついた鉄の臭気。


「……うッ」


 ヴィグナが思わず防護マスクの上から口元を押さえる。サクヤは顔色一つ変えず、ハンドライトの光量を最低に絞って、暗闇の回廊へと足を踏み入れた。


「ついて来い。……足元に気をつけろよ」


 艦内は、予想通り酷い有様だった。かつての通路は崩落し、天井からは千切れた配線が蔦のようにぶら下がっている。床には、霜に覆われた何かの残骸――おそらくは人間だったものや、警備用機械のパーツが散乱していた。


「ひどい……。これが、かつて『空の要塞』と呼ばれた船の末路ですか」


 ヴィグナが星導灯(ランタン)を掲げようとする。


「おい、明かりをつけるなと言ったはずだ」

「で、ですが!こんな暗闇では足元も見えません!」

「見なくていい。『感じる』んだよ」


 サクヤは冷たく言い放ち、自分の足元を指差した。


「床のパネルを見ろ。端がわずかに浮いてるのが分かるか?」

「え……?」

「圧力センサーだ。五〇〇年前の代物だが、生きてれば自動銃座(タレット)が起動して、お前の綺麗な顔に風穴が開くぞ」


 ヴィグナがヒッと息を呑み、慌てて足を引っ込める。サクヤは溜息をつき、先頭を進み始めた。


「いいか、騎士団長。お前らの剣術や作法は、ここでは何の役にも立たない。ここは戦場じゃねえ、『消化器官』だ。入ってきた異物を排除するためのシステムが、まだ生きてる」


 サクヤの歩き方は独特だった。踵をつけず、足の裏全体で床の感触を確かめるように、滑るように進む。それは音を立てず、かつ罠を察知するためのスカベンジャーの歩法だ。


「すげぇなぁ……。旦那、この配管の配置だけで、動力炉の位置が分かるのか?」


 背負った巨大リュックが歩くたびにカチャカチャと鳴るリベットが、感心したように尋ねる。


「匂いだ。高純度なエネルギーが流れるパイプは、微かにオゾンの臭いがする。……それに」


 サクヤは足を止め、壁に耳を当てた。コン、コン。ピッケルの柄で軽く叩く。


「反響音だ。右の壁は詰まってるが、左の壁の奥は空洞だ。近道がある」

「へへっ、さすが『空拾い』のプロだねぇ!頼りにしてるぜ!」


 リベットは無邪気に笑うが、ヴィグナだけがその不可解な技術に困惑していた。魔法でも、騎士の勘でもない。徹底的な経験と知識、そして異常なまでの五感への集中。


(この男……ただの金目当てのゴロツキではなかったのですか……?)


 彼女の中で、サクヤへの認識が少しずつ、だが確実に揺らぎ始めていた。


 †


 探索を開始して三〇分。一行は、かつての居住区画と思われるエリアに到達していた。ここは比較的損傷が少なく、当時の生活用品がそのまま凍りついている。


「……何も出ませんね」


 ヴィグナが緊張の糸を少し緩め、呟いた。確かに、野良機械(ストレイ)の姿はない。ただ不気味なほどの静寂があるだけだ。


「油断するな。静かなのが一番ヤバいんだ」


 サクヤは足を止めず、視線を左右に配る。彼の狙いは、修理パーツだけではない。


(……あるな。この区画、妙に放射線量が高い)


 彼の「鼻」が、特有の金属臭を捉えていた。それは、通常の燃料には使われない、極めて純度の高い星導石の原石――『純血』の精製に必要な触媒石の匂いだ。


 もしそれを手に入れられれば、あのボロエンジンを一度だけ、本来のスペックで回せるかもしれない。サクヤの瞳に、ギラリと欲の色が宿る。


『……サクヤさん。聞こえますか?』


 その時、イヤーモニターからアリアの声が届いた。ノイズが酷い。深度が深くなるにつれ、通信状態が悪化している。


『進路、合っています。その先の十字路を右へ……そこから資材エレベーターシャフトに……出られるはず……ザザッ……』

「了解だ。……おい、聞こえたか?右だぞ」


 サクヤが振り返ると、ヴィグナが十字路の角にある、端末のようなものに手を伸ばしていた。


「これがエレベーターの制御盤でしょうか?電源が入っていないようですが……」

「触るなッ!!」


 サクヤの怒号が響いた。だが、遅かった。ヴィグナの手がコンソールに触れた瞬間。

 カチッ。

 乾いたスイッチ音が、静寂の回廊に響き渡った。


「あ……」


 ヴィグナが硬直する。直後。ブォン……ブォン……ブォン……。廊下の天井に並んでいた非常灯が、次々と赤く点灯し始めた。

 ウゥゥゥゥゥ……!!

 低く、腹に響くようなサイレンが唸りを上げる。


「馬鹿野郎!それはセキュリティロックだ!」

「も、申し訳ありません!私はただ……!」

「謝罪は後だ!来るぞ!」


 ガシャーン!!通ってきた背後の隔壁が落下し、退路が断たれる。そして、進行方向の暗闇から、無数の赤い光が灯った。カシャカシャカシャ……。金属の脚が床を叩く音。五〇〇年の眠りから覚めた「掃除屋」たちが、侵入者を排除するために動き出したのだ。


「数は……二〇、いや三〇か!」

「くっ……!私の不手際です、ここは私が!」


 ヴィグナが星導剣星導剣(ステラ・ブレード)を抜こうとする。だが、サクヤはその肩を強引に掴んで引き戻した。


「下がってろ、素人!この狭さで剣なんか振り回したら、俺たちまで肉微塵だ!」


 サクヤは腰のホルスターから『双嘴(ツイン・ビーク)』を引き抜き、連結させた。加速スラスターの安全装置を解除する。


「リベット!ヴィグナを連れてエレベーターシャフトへ走れ!扉を焼き切ってでも開けるんだ!」

「了解!旦那はどうするんだ!?」


 サクヤは迫りくる赤い光の群れを見据え、凶暴に笑った。


「少しばかり『教育』してやる。……ここは俺の庭だとな」


 キィィィン……。重力制御ブーツが蒼い光を放ち、サクヤの体が弾丸のように跳ねた。

お読みいただきありがとうございます!


「触るな!」→(カチッ)→「警報作動」。

お約束とはいえ、ヴィグナがやってくれました(笑)。でも、こういう極限状況でこそ、サクヤのような現場叩き上げのスカベンジャーが輝きます。


騎士の剣術も作法も通じない、鉄屑とオイルの迷宮。

次回、第11話「錆びた牙」。

狭い通路、迫る機械の群れ。

サクヤが魅せる「教育」という名の蹂躙劇にご期待ください。


【読者の皆様へ】

「サクヤの頼もしさに惚れた!」「続きが早く読みたい!」と思っていただけましたら、

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(★でサクヤの武器の出力が上がる……かもしれません!)


それでは、また次回の更新でお会いしましょう。

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