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5話 初恋


ノヴァは会食中、懸命にソフィア女王と話していた。

止めた方がいいのかと思ったが、楽しそうだったので

見守る程度にした。


「貴様はああいう女性は好みではないのか?」


王がからかうように話しかけてきた。


「……好き嫌い以前に、裏切られた経験があるせいで

 人をあまり信用できないんです。また裏切られるん

 じゃないかと思ってしまって」


「裏切られたから何だと言うのだ」


王は魚をナイフで切りながら淡々と言った。


「裏切られたならば、その者は所詮そういう者

 だったのだと思えばいい。気にする必要はない」


「……裏切られることは怖くないのですか」


「怖い?ククッ、私に怖いものなどない。

 ……と、普通の王は言うだろうな」


王は何か含みがある言い方をした。


「どういうことですか」


「王が怖がっていては国民に不信感と不満が募って

 しまうだろう?そうなれば逆に反乱が起きて

 しまう。だから怖くないと言わざるを得ないのだ」


「王は実際に何か怖いものはあるんですか?」


「さあどうだろうな。今の所は思いつかんが、今後

 できるかもしれん」


「……年齢はどうでしょうか」


「老い、か」


王はナイフとフォークを置き、何かを思い出すように

遠くを見つめた。


「少し前に、不老不死になろうとした男が居た。

 ただ、その男は不老不死にはなれたものの、なぜか

 若返ってしまったそうだ」


「へえ…若返って不老不死ですか。良いですね」


「フッ、そうだな。他人事であればそうかもしれん。

 だが自分事として考えればそうとは言えんぞ」


セトはポカンとした顔をしてアンゴルキア王を

見上げた。


理解(わか)らんか?ククッ…そうだな。なって

 みなければ理解(わか)らんかもしれん。

 確かに、若返るのは良いことだろう。しかしだ。

 家族に自分だと言っても子供の戯言だと言われ、

 信じてもらえない……周りの人間も信じてくれ

 ない。そうなればどうだ?若返るのは良いこと

 ばかりではないと思えんか」


俺はなるほど、確かにそうだと思って頷いた。


「セト。不老不死にならんか?」


「……え?」


俺は動揺して、思わずフォークを皿の上に落として

しまった。この人は突然何を言っているんだ?


「貴様が望むのなら叶えてやろう。どうだ?」


アンゴルキア王が光のない紫色の瞳でじっと

見てくる。なぜか王から目が離せない。俺は恐怖を

感じ、少しずつ手足が痺れて動かなくなっていった。


「…さあ、答えてくれセト」


「俺は……俺は、そんなものに興味はありません」


俺がそう答えた途端、王はまるでその答えを待って

いたかのように、真意の読めない笑みを浮かべた。


「そうこなくては。貴様ならそう答えてくれると

 思ったぞセト・エスニック」


一瞬、王が”人の形をした別のモノ”に見えた気が

した。


(…いや、そんなはずはない。きっと疲れているんだ)


「さて。もう少しここに居たいが、生憎今日は違う

 予定が入っていてな……」


「あら、もうそんな時間なのですね…外までお送り

 します」


「すまんな私の都合で」


「いえ、今日は貴重な時間をいただきありがとう

 ございました」


「その……」


「はい。何でしょうかノヴァさん」


「ま、また会えますか……?」


彼女は少し驚いたような顔をしたが、すぐに

嬉しそうな声色で答えた。


「もちろん。いつでもお待ちしております」


「わあっ…!あ、ありがとうございます!」


俺達はソフィア女王達に見送られ、キース王国を後に

した。ノヴァは彼女が見えなくなるまで手を振り

続けていた。


「ククッ、そんなに彼女が気に入ったのか?」


「そ、そういうわけじゃ…何ていうか……ちょっと

 気になるだけです!」


ノヴァが何か言いたそうに俺を見てきた。いや、俺に

どうしろと言うんだ。


「フッ、素直に好きと言えばいいものを。彼女を手に

 入れたいのならばアプローチは早めにしておいた

 方がいい。でなければ、他の男に取られるぞ?」


「と、取られる……」


「そうだ。女王である彼女は男を紹介される機会も

 多いだろうからな」


王はニヤニヤしながらノヴァの反応を楽しんでいる。

ノヴァの奴、からかわれているのに気づいていない

のか……


「兄さん。あ、のさ………好きな人を振り向かせる

 にはどうしたらいいのかな」


「そうだな、プレゼントを贈ったりたくさん話したり

 することぐらいしか思いつかないが……」


「プレゼントってお花とか?」


「ああ、そんな所だろうな。俺はイマイチ恋愛は

 分からない」


「うーん……」


僕はちらっと王の方を見た。王は話を振って欲し

そうに、頬杖をついて僕達を眺めている。


(あんまりアンゴルキア王に頼りたくないな…頑張って

自分の力でソフィア女王を振り向かせたい)


初めて誰かを好きになれたんだ。何としてでも絶対に

振り向かせる。好きだって言ってもらえるように

頑張らないと。

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