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4.エルトリンデの思い出(エルトリンデ視点です)

「お前なんて化け物だ!」


 幼い頃のエルトリンデは、魔力が高すぎるがゆえに周囲から疎まれていた。その力は制御不能で、暴走するたびに周囲に被害をもたらした。その結果遠縁の貴族の元をと預けられてしまったのだ。しかし、その貴族の元ですら、彼女を恐れる者たちは多く、冷たい視線や言葉が彼女の日常だった。

 だが、そんな彼女にも一人だけ味方がいた。



「エルトリンデはすごい魔力を持っている。それは誰にも真似できない特別な力だよ。でも、その力をどう使うかは君次第なんだ」



 義理の兄のアストだ。彼の言葉は温かくて優しかった。



「でも……私には制御できないんです。みんな私のことを怖がって……嫌っているんです」

「そんなことないよ。俺はエルトリンデのこと、大好きだよ」



 アストが微笑みながら言ってくれた言葉を思い出すたびに。エルトリンデの胸がじんわりと温かくなるのだ。

 そして、彼は忙しいというのにいつも自分のために時間を作ってくれて魔法の練習に付き合ってくれるのだ。



「俺が教えてあげるよ。魔力の使い方も、制御する方法も。一緒に練習しよう。基礎を学び、極めるのが最強への近道だ」

「はい、私頑張ります!!」



 兄の教え方は独特だったが、その言葉に従って徐々にだがエルトリンデは魔法の制御をできるようになっていた。



 そして、ある日の午後、エルトリンデは王宮の廊下を歩いていた。手にはアストに教わった魔法の練習用ノートを持ち、嬉しそうに鼻歌を歌っていた。これからアストと魔法の練習会である。

 その時、角を曲がった先からメイドたちの話し声が聞こえてきた。



「ねえ、聞いた?またエルトリンデ様が魔法を使ったんですって」

「ええ、本当に迷惑な話よね。あんな化け物みたいな魔力、普通じゃないわ」

「しかも、お兄様のアスト様にまで迷惑をかけてるんですって。いい加減、自分がどれだけ周りに迷惑をかけているか気づけばいいのに」



 その言葉が耳に入った瞬間、エルトリンデは足を止めた。心臓がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。



「……私が迷惑をかけている……?」

「エルトリンデ様がいるから、アスト様の婚約話もふいになったらしいわよ。本当はあんな化物嫌っているでしょうね」



 彼女は手に持っていたノートをぎゅっと握りしめた。胸の奥から湧き上がる感情が抑えきれなくなり、次第に魔力が漏れ出していく。



「お兄様も私を愛していないんだ……」



 エルトリンデが嗚咽を漏らすと同時に、彼女の周囲に強烈な魔力の波動が広がった。廊下の壁や装飾品が揺れ始め、メイドたちは悲鳴を上げて後ずさった。



「ひっ……!」

「やっぱり化け物だわ!」



 その言葉がさらにエルトリンデを追い詰める。彼女の目には涙が浮かび、魔力はますます暴走していく。



「もう……嫌だ……!」



 廊下全体が崩壊しそうになったその瞬間……



「エルトリンデ大丈夫か!!」



 アストの声が響いた。彼は駆け寄り、エルトリンデとメイドたちの間に立ちはだかると、暴走した魔力をものともせずに彼女を抱きしめる。



「お兄様……?」



 エルトリンデは驚きと混乱で震える声を上げた。しかし、アストは彼女を真っ直ぐ見つめながら優しい声で語りかけた。



「エルトリンデ一体どうしたんだい?」



 彼はそっと彼女の肩に手を置き、その手から温かな魔力を流し込んだ。それはまるで暴走する彼女の魔力を包み込むようだった。



「お兄様……私がいて迷惑じゃないの……?」

「何を言っているんだ? 可愛い妹と一緒にいること以上に幸せなことはないよ」



 アストの言葉に、エルトリンデの目から涙が溢れ出した。そして次第に彼女の魔力は収まり、廊下に静寂が戻った。

 メイドたちは怯えながらもその場から逃げ出そうとした。それでアストはすべてを察した表情で冷静な声で言った。



「君たちが俺の可愛い妹の陰口を言っているのは知っているよ」



 その声には普段とは違う鋭さがあった。メイドたちは震えながら答えた。



「そ、それは……私たちはただ……」

「エルトリンデは俺の妹だ。そして王国でもっとも大切な存在だ。その彼女を傷つけるようなことを言うなら、それ相応の覚悟を持つってことでいいね」

「す、すいません!!」



 アストの言葉にメイドたちは顔を青ざめさせ、その場から慌てて去っていった。



 その後、エルトリンデとアストは庭園へ向かった。二人きりになった場所で、アストは優しく微笑みながら言った。



「エルトリンデ、大丈夫か?」



 彼女は小さく頷いた後、ぽつりと呟いた。



「お兄様……私は本当に迷惑ばかりかけているんじゃないですか? 」



 アストは首を横に振りながら答えた。


「そんなことないよ。君は特別なんだ。その特別さを理解できない人もいるけど、それでも俺だけは君の味方だから」



その言葉にエルトリンデは胸が温かくなるのを感じた。そして、小さな声で呟いた。



「ありがとう……お兄様」



 それ以来、エルトリンデにとってアストは絶対的な存在となった。どんな時でも自分を守ってくれる人——それが彼だった。




 ★★★



 窓辺でその記憶を思い出していたエルトリンデ。銀髪だった幼い頃の自分と、それを優しく包み込んでくれたアストとの日々。


「あの日、お兄様がいてくれなかったら……私はどうなっていたんだろう」


 左腕には今も黒い模様……呪いの証が刻まれている。それを見るたび、自分自身への誓いを思い出す。


「今度は私があなたを守る番です」


 彼女は静かに呟きながら、自分自身へ決意を新たにした。そして窓越しに夜空を見上げると、その瞳には愛と決意の光が宿っていた。







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