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24.ロザリーへの相談

「ロザリー先生、ちょっとご相談があるんですが…」



 翌日の学校にて、職員室で俺はロザリー先生をそっと呼び止めた。

 彼女はいつものように自作しおりや自作便箋などのエルトリンデ様グッズを机に並べにやにやとしていたが、俺の声にぱっと顔を上げる。

 生のエルトリンデに会ってからより熱が増したようだ。



「どうされましたか?アスト先生!」

「実は……呪いについて色々と調べてまして……もしよかったら、今度の図書館で一緒に文献を調べるのに付き合ってはくれませんか?」



 すこし緊張しながら訊ねる。アンビーの報告書には彼女が独自で調査したエルトリンデの呪いを解除できる可能性のある人物が書いてあった。それは趣味ではなく宮廷魔術師や魔法研究者クラスの専門的な知識が必要であり、地方の教師には難しいレベルなのだが……俺はアンビーを信じることにしたのだ。



「まあ……呪いについてですか……」



 俺の言葉にロザリー先生の目が一気に輝き、両手を握りしめる。



「もちろんです! 呪い研究は私のライフワークですし、あまり人気があるとはいえないのにアスト先生が興味を持ってくださるなんて…!」

「いえいえ、こちらこそお忙しいのに相談にのってくださりありがとうございます」



 いきなり両手を握られてフリーズしてしまったが、優しく引き離す。彼女はそんなことをも気にせずにニコニコとしている。

 純粋に興味を持っているわけでないので正直心苦しい。しかも、エルトリンデが呪われていることに関しては隠さねばならないのである。

 今度エルトリンデにファンサするように頼んでおこう。



「それで、どんな呪いについて知りたいんですか? やはり復学してくるアーノルド先生に、誰にもばれないように水虫ができるとのろいとかでしょうか?」

「そんな陰湿な呪いがあるんです!?」

「当然です。ほかにも水を飲んだら下痢になる呪いとか、なんか口が臭くなる呪いとかもありますよ」

「地味な嫌がらせすぎる……」



 あまりにも多種多様な呪いの多さにちょっと驚いていると、ロザリー先生は満面の笑みのまま説明してくれる。



「まあ、実際に成功するにはそれなりの条件がありますけどね。強力な呪いになればなるほど、触媒や代償も必要になってくるんです」

「なるほど……」

「それで、アスト先生はどんな呪いに興味があるんですか?」



 どこまで話すか……迷った結果、俺は全てを話すことにした。さすがに自分の素性やエルトリンデの関係にに関しては隠すが……



「魔王の血の代償の呪いってご存じでしょうか?」

「ああ、魔族がその命を代償にする呪いですね。おとぎ話にちかいものなのによく知ってますね」

「あはは、英雄譚とか好きなんですよ」



 笑ってごまかすが、俺は心の中でガッツポーズをする。やはりロザリー先生はこの呪いに関しても知っているようだ。

 


「なるほど……では、よかったら今度の休日に図書館に行きましょう? 色々な資料があるので案内しますよ」

「ありがとうございます。あ、でもこの件は内緒でお願いします。生徒たちにおとぎ話を信じていると思われたら威厳がなくなってしまいますので」

「はいっ、秘密の共同研究ですね! やはり、アスト先生もエルトリンデ様のファンだったのですね。最近のエルトリンデ様は呪いに大変興味をお持ちでしたからね」

「はは、そんなところです」



 目を輝かしているロザリー先生に笑ってごまかす。まさか、エルトリンデが魔王の呪いを受けていてそれを解呪するために資料を探しているとは言えないからね。






「おかえりなさい、ご主人様。一週間お疲れ様です。明日はお休みと言うことで今日はちょっと奮発してみました」



 帰宅すると、お肉の焼けるよい匂いがしてくる。

 テーブルには色とりどりの料理を並べられていたメインはワイバーンのロースト、香ばしいハーブの香りが部屋中に広がっている。サラダやスープ、焼きたてのパンまで、どれも丁寧に盛り付けられていた。



「わぁ……すごいな、リンド。これ全部君が?」

「はい。ご主人様が最近お疲れのようでしたので、少しでも元気を出していただければと思いまして」


 リンドは恥ずかしそうに微笑みながら、俺の皿にワイバーンのローストを取り分けてくれる。その手つきは慣れていて、まるで長年家族の食卓を守ってきたかのようだ。

一緒にいたときは料理はできなかったエルトリンデだったが俺のために勉強してくれたのだろう。

 正体を知ってから彼女の努力がわかりとても愛おしい気持ちになる。



「いつも美味しい料理をありがとう」

「そんな……私はご主人さまの奴隷ですから……それに、美味そうに食べてくださるのでとっても嬉しいんです」



 感謝の言葉に満面の笑みを浮かべてくれるリンド。その姿が可愛らしくて頭をなでるとにへらと脱力したような幸せな表情を浮かべた。

 わがままかもしれないけど、ここにいる時くらいは彼女をいっぱい甘やかそうとそう思ったのだ。



「もう、恥ずかしいですよ。ご主人様……」

「ごめんごめん、嫌だったかな?」

「そんなことはないです……むしろもっと色々なところにさわってくださってもいいんですよ」



 からかうような……だけど、どこか期待した目で甘えてくるリンド。だが、俺はその誘いにのることはできない。少なくとも呪いのことを解決してからちゃんと話すと決めたのだ。



「俺をからかわないでくれ……そういうのには慣れてないんだよ」

「うふふ、ごめんなさい、ご主人様が動揺するのが可愛くてつい……それではご飯にしましょう」

「ありがとう、リンド。いただきます」



 一口頬張ると、肉汁がじゅわっと広がり、ハーブの香りが鼻に抜ける。思わずため息がこぼれた。



「うまい……本当においしいよ」



 リンドは嬉しそうに微笑む。



「そういえば明日はお休みですが、何か用事はありますか? もしも、お暇でしたら一緒にお買い物に付き合っていただきたいのですが……」

「あー、明日は……ごめんちょっと予定があって……」



 ちょっとしょぼんとしたリンドに胸が痛むがロザリーの元に行くことは言わない方がいいとだろう。

 呪いに関しての資料がなかったらぬか喜びをさせてしまうからね。



「気にしないでください。ご主人様がお忙しいのはわかっていますから。その代わり今日は私に付き合ってくださいね」


 気を取り直したように微笑んだリンドがワインボトルを手に取る。



「ご主人様、ワインもいかがですか? 今日は特別に、王都から取り寄せたものです」


 グラスに赤ワインを静かに注ぎながら、リンドは俺の隣にそっと座る。その仕草はどこか誇らしげで、同時に少しだけ照れているようだった。



「乾杯しましょうか」

「……ああ、乾杯」



 グラスを軽く合わせると、リンドは俺のグラスを見つめたまま、ほんのりと頬を染めて微笑んだ。




「ご主人様が毎日笑顔でいてくださることが、私の一番の幸せです」



その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。俺はグラスを傾け、リンドがよそってくれたごちそうをゆっくり味わった。


「ありがとう、リンド。君のおかげで、今日も最高の一日になったよ」

「……そう言っていただけて、私も幸せです」


リンドは静かに、でもとても満ちたりた表情で俺を見つめている。





★★★



「お兄様喜んでくれてうれしかったな……うふふ、今度あーんとかしたら食べてくれるかな? そのお礼にお兄さまもやってくれてりして……」


 自分で想像して恥ずかしくなってベッドの上に足をばたばたとさせるエルトリンデ。

 リンドの時は自分の身分もきにせずに甘えられる。それがこのうえもなくうれしいのである。


「だけど……明日一緒にお買い物をしたかったな……」

「それは無理ですよ。アスト様はロザリー先生とお会いするらしいですから。しかも周囲には秘密で」



 突然聞こえてきた無機質な声にきっと目つきが鋭くなる。



「アンビー、どういうこと?お兄様が女と二人で秘密のデートですって…?」



 エルトリンデはアンビーの言葉に拳を握りしめていた。銀髪がふるふると震えている。



「はい。アスト様はロザリー先生と一緒に図書館にうかがそうです。おそらく、呪いに関する本を借りるのでしょう」

「……呪いのことを調べてるのは嬉しい。でも、なぜロザリーと……」



 エルトリンデは机を軽く叩く。嫉妬と焦り、そしてほんの少しの期待が胸をかき乱す。


「もしかして、私の呪いを解くため……それとも、ただのデート……? いえ、そんなはず……でも呪いを解くためだったらなんで私にはおしえてくれないんですか?」

「エルトリンデ様、落ち着いてください。お二人は調べ物をするだけです。まあ、年頃の男女なので何がおきてもおかしくはありませんが」

「それが一番危険なのよ!本を通じて心を通わせるのは、恋の始まりって相場が決まってるのよ…! 最近読んだ恋愛小説でもあったわ!!」



 アンビーは無表情で首を縦に振って頷いた。



「私の故郷では、図書館での逢瀬は婚約の前段階とされています。共同作業と非日常の空間は人を積極的にさせます」

「やっぱりそうなのね……! あの女は胸元の余計な脂肪で誘惑するつもりかもしれないわ!!」



 エルトリンデは怒りに顔を真っ赤にして、自らの偽りの豊かさを持っている胸元をにらみつける。

 魔王と戦う時でも、パーティーの聖女の巨乳をちらちらとみていたことを思い出す。

 そう、エルトリンデの予想ではなんだかんだアストは巨乳が好きなのである。



「お兄様、どうか……私のことを忘れないで。呪いが解けたら、今度こそ本当の気持ちを伝えるんだから……!」

「でしたら……監視するのはどうでしょうか? 何か変なことをしそうだったら止めるのが良いかと……」

「そうね、これはストーカーじゃない。お兄様を守るためなの!!」



 自分に言い聞かせるようにしてエルトリンデはアストをつけることを決めた。アンビーが楽しそうに笑みを浮かべているのはここだけの話である。




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