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22.エルトリンデとアスト

 エルトリンデは切なげに自分の体を抱きしめながら口を開く。


「魔王を倒した時、私は彼の最後の呪いを受けてしまったんです。この呪いは……私の命を少しずつ蝕んでいく。そして、近しいものにもそれは感染していくんです」

「だから、俺も体にもその呪いがあったのか……」


 彼女の近づくたびに痛むのは魔王の呪いのせいだったのか……だけど、俺はエルトリンデに問わねばならないことがある。



「なぜ俺に言わなかった?」

「申し訳ありません、ですが、ご安心ください。お兄様の呪いは本来の対象である私が、近づいているから活性化しているだけです。ずっと一緒にいれば話は別ですが、私が死ねばその呪いは無効になり、紋様も消えますので命に別状はありませんよ」

「そういうことを聞いてるんじゃないってわかるだろ!!」



 そう聞いた時の彼女の声は震えており、悲し気に顔をうつ向かせる。



「だって……お兄様は私のためなら自分の命を捨てるでしょう? 少し調べればこの呪いを軽減するには、他の者の命でわけあうことができることもわかってしまう。そうすればお兄様は……自分を犠牲にしてでも私を助けようとするでしょう」

「そんなの当たり前だろ!! 俺はお前の兄なんだぞ」

「それがつらかったのよ!! だって、お兄様は子供のころから私の面倒を見てくれた!! だけど、私はお兄様に何も返せていない!! お兄様のやさしさに何もお礼ができていないの。なのにこれ以上迷惑をかけるなんて私は耐えられなかったの!!」



 俺は愕然とした。俺はエルトリンデを救うことが転生した意味だと思っていた。だけど、一生懸命だったが、それを彼女に告げたことはあるだろうか? 一方的に助けれる彼女の気持ちを考えたことがあるだろうか



「だから、俺を追放したのか……自分から遠ざけるために……」

「そう……お兄様に嫌われれば、あなたは私を助けようとしないと思ったの」

「じゃあ、なんでリンドを派遣したんだ? 彼女はお前の関係者だろう? 俺のもとに派遣したのは監視するためか?」

「それは……」



 彼女の目が今度は驚きに見開かれ、一瞬何かを考えこむかのように押し黙った後に再び口を開いた。



「さすがですね、お兄様……リンドが私の手のものだといつ気づいたんですか?」

「気づいたのは最近だよ。クッキーの話とか怪しいところはたくさんあったからね……そして何より、あの目だ」

「目……ですか」

「時々見せる寂しそうな目。彼女はエルトリンデのことをはなすたびに切なそうな目をしていた。だから、確信したんだよ」



 驚きの表情をしている彼女に俺は畳みかける。もう、逃さないとばかりに……



「だから俺の本心はわかっているんだろう? 今でも幸せになってほしいって思っていると……」

「ええ……お兄様は事情を説明せずに追放したひどい私のことを想ってくれていた。それを知ったときうれしくなってあいたくなっちゃったの……」



 彼女はその瞳に涙が浮かばせながら笑う、エルトリンデを抱きしめると彼女は一瞬びくりとした後に黙って俺に体を預けた。懐かしい匂いにうれしくなる。



「エルトリンデは一つ勘違いしている。俺はお前を助けたくてがんばっていたんだ。迷惑なんて思ったことはないよ。だって、俺はエルトリンデが好きだから……それじゃあ、ダメか?」

「でも、私は何も返せないんです……この魔法だって戦うことにしか役に立たないですよ」

「それでいいんだよ、俺はお前が幸せそうに笑っているだけでいいんだ」

「お兄様……お兄様ぁぁぁぁぁ」



 どれだけ彼女は俺の胸で泣いていただろうか? ようやく落ち着いた彼女に俺は提案する。



「呪いを解く方法は他にもあるはずだ。俺たちで一生に解決法を見つけよう」

「でも……もう時間がないの。あと半年も……」

「大丈夫だよ」


 

 彼女の手を取って安心させるように微笑む。



「お前のためならばできないことはないさ。昔、お前を破滅から救ったようにね」

「うん……知っている。お兄様だけが私を手を差し伸べてくれたもの。お兄様がいなければ私は人類の敵になっていたかもしれないわ」



 俺の胸元で冗談っぽく微笑むエルトリンデ。まあ、本来は人間に絶望して、本当に人類の敵になるんだけどね…… 

 防げて本当に良かったと思う。



「ああ、だからこれからは隠し事はなしだ。一緒に解決策を探そう。だからつらいことは二人で背負おう」

「はい、お兄様……」

「とりあえず……ちょっと試したいことがあるんだ」



 エルトリンデは頷くのを確認した俺は彼女の呪いを対象にして時魔法をかける。すると彼女の左腕の黒い模様が光を放ち、抵抗されるも時をおそくすることに成功したと確信できた。



「これで……少しは楽になったか? 定期的に時魔法をかける必要があるけど、こっちには顔を出せるか?」



 彼女を延命し、一緒にいる機会が増えることにより、俺の呪いが活性化するのはいいとして、彼女は王女としての仕事もある、定期的にこんな辺境まで来て大丈夫かと思ったのだが……

 エルトリンデがおそるおそる問うてくる。



「もちろんです、お兄様……私とお兄様は呪いを通じて一蓮托生になるのですね……後悔はしていませんか? 」

「するはずがないだろ? そうだな……呪いならさっそくロザリー先生に相談を……」


 そこまで言いかけるとエルトリンデの抱きしめる力が強くなったかと思うと、冷たい目で見つめていることに気づく。


「どうしたの?」

「今はほかの女ことを話さないでください」

「ああ、ごめん……」

 

 今のって俺が悪いのか? そうおもいつつも俺は決意を新たにした。エルトリンデを救う方法を必ず見つける。それが俺の新たな使命だった。




 エルトリンデと別れ、学校へと戻るとアンビーが声をかけてくる。



「うちの主がご迷惑をかけましたね……アスト先輩」

「アンビーか……生徒たちは?」

「無事帰宅しています、余談ですが今回の件でアーノルド先生も復学が認められそうですよ」

「そうか、それはよかった」



 俺からすればあまり良い先輩ではないが一部の人からすればよい教師なのだろう。それよりもだ……



「アンビーのいうとおりにリンドの正体がエルトリンデとは気づいていないように話したが本当によかったのか?」

「当たり前です。無駄にプライドの高いエルトリンデ様のことです。リンドとしてあんなデレデレなことをしていたのがアスト先輩にばれたとなれば姿を隠してしまうでしょう」

「確かに……」



 彼女のあの行動はまるで想い人と接するような態度だった。あれが彼女の本心だとすると……おそらくだがエルトリンデは俺のことを異性として思ってくれているのだろう。そして、それは俺も同じだ。



「それにいつもわがままを言う仕返しです。うふふ」

「アンビーはエルトリンデの部下なんだよね?」



 下剋上を考えてそうな彼女に苦笑しつつも、俺は帰宅する。



「おかえりなさい、ご主人様、今日は課外授業はどうでしたか?」


 そういって出迎えてくれる彼女に俺に温かい気持ちになる。いまは偽りだけれど呪いが解けたらこの想いを伝えようと誓うのだった。


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