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21.エルトリンデの人生

私は幸せな人間だと思う。自分の人生を振り返ってそう言い切れる。


 そりゃあ、王族でありながら異常なまでの魔力を持っていたため遠縁の貴族に預けられた時は目の前が真っ暗になったものだ。

 しかも、そこの嫡男は評判が悪く、暴力だってふるわれると覚悟していた。だけど、あの人は……アストお兄様は噂とは別人のようだった。


 忌み嫌われている私にも優しくしてくれて……むしろ、私を悪く言う使用人たちをしかりつけてくれたりもした。しかも、あの人は自分の勉強時間を削ってまで私に魔法を教えてくれたのだ。

 そんな彼に恋をするなというのが無理だろう。


 そう、私の初恋はアストお兄様である。実のところ魔法だって別に好きなわけじゃない。この魔力のせいで追放されたのだし……


 だけど、一つ魔法を覚えると嬉しそうに笑ってくれるお兄様の笑顔が好きだった。次はどんな魔法を教えてほしい? と優しく聞いてくれるお兄様が好きだった。古文書を読み解いて古い魔法を復活させると「すごいね、エルトリンデは自慢の妹だよ」と驚いた顔をした後に優しく頭を撫でてくれる優しい手が好きだった。


 それだけだった。だから……兄に褒めてもらうためだけに魔法を極めていったら私はいつの間にか王国きっての天才魔法使い何て呼ばれるようになっていた。

 すると……



「エルトリンデ様……よかったら我が学校で教鞭をとっては頂けませんか?」

「あなたの研究は魔法学の歴史を変えます!! 研究所で共に研究しませんか? どのような要望も受けさせていただきます!!」



 そんな風に声をかけてくる連中も現れた。私が困っていた時は無視したくせに、実力を示したら態度を変える彼らが大っ嫌いだった。私はお兄さまがいる場所で、お兄様が淹れてくれるコーヒーを飲みながら研究をするのが一番の幸せなのだ。

 そして、私が社会的地位を得て、我ながら美しく育ったからだろう。こういう輩も増えてきた。



「エルトリンデ様、よかったら今度いっしょにダンスを踊っては頂けませんか?」

「ぜひとも私の息子と会食を……」



 貴族のパーティーとはいえ、お兄様の前でそんな風に言われるものだからついにらみつけ冷たい態度をとっていたらいつの間にか『冷血姫』などというあだ名をつけられてしまった。

 だけど、どうでもよかった。私はお兄さまがいるのだから……それに妹とはいえ義理だし……いつかそ……お兄さまに告白してデートとかするのだ。

 だけど、今の関係が変わってしまうのがこわくてなかなか踏み出せないでいた。


 そんなある日私はメイドたちが話しているのを聞いてしまう。



「アスト様ったらまた婚約話を断ったんですってね」



 何それ聞いていない!! しかも、またということは複数回あったのだろう。断ったって言うことはもしかして好きな人が? でも、普段は関わっている異性は把握しているが世話をするメイドと一緒に冒険者ごっこをしている男女のフリューゲルくらいで……

 あとは……私である!! そう、私である!! もしかして……そう思ってメイドたちの会話にききみみを立てるが……



「なんでもエルトリンデ様が独り立ちするまでは自分の事は後回しにするんですって、偉いわよねえ」

「しかも、それを子供の頃からやっているんですもの……でも、そんな人生で楽しいのかしらね」


 頭をハンマーでたたかれたような気分だった。さすがにじゃあ、私が独り立ちしなければずっといられるーー♡ というほど能天気ではない。

 


「私がお兄様を拘束していたというの……?」



 今思えば、子供の頃からずっとつきっきりでいてくれた。魔法を教えてくれた時もパーティーの時だって心配してかそばに付き添ってくれていた

 愛してくれているよとは言ってくれた。可愛いねとは言ってくれた。だけど好きだとは言われたことはない。

 お兄様は優しい人だ。両親に見捨てられ皆に見放された可哀そうな妹が放っておけなかっただけではないだろうか?

 

 そんなことが頭をよぎってしまい、私は家を出て研究室に出向いて、魔法の研究をすることにした。

 お兄様に会えないのは寂しいけれど、お兄様に少しでも安心してほしかったのである。毎日手紙は送っているし、お兄様に近づく女がいないかは使用人に頼んでみてもらっているのはここだけの秘密だけど……

 そして、結果を出していくうちに私にとある案件がきた。



「……魔王討伐の旅か」



 何人もの有力な人間にすでに声をかけているらしく、そのうちの一人が私だった。だから、交渉し報酬として魔王を倒せば私は王女の一人として返り咲くをことを許可させた。

 そうすれば私はお兄さまにどんなことでもお礼をできるだけの権力を手に入れることができる。



 私はあの人に恩返しをしたかった。あの人に少しでもお礼をしたかった。あの人が喜ぶことは何でもしてあげたかった。

 あ、ごめんなさい、嘘です。他の女の人を紹介してとか、夜のお店とかダメです。そういうことは私としてください。

 そう、ちゃんと独り立ちをして、自信をもったら告白するのだ。初めての実戦は怖いけど兄に嫌われることに比べたら怖くない。そう思っていたのに……



「エルトリンデがいくって言うから俺もいくことにしたよ」



 いざパーティーメンバを見て、いつものように温厚そうな兄の笑顔があったときに泣きそうになってしまった。



「もう……そんなに私が心配なんですか?」

「当たり前だろ、可愛い妹なんだから」



 驚きと嬉しさを隠そうとしてついいつもよりきつめになってしまったがいつものように優しく微笑んでくれた。

 彼がいるということで不安は吹き飛んだ。元々兄は剣も魔法もかなりの腕前だった。それは別に才能があったわけではない。兄曰く知識チートという誰も知らない特訓方法と、特訓量だった。

 そして、圧倒的な力で私たちは魔王の軍勢を倒していく。



「やはりエルトリンデがいれば魔族なんて楽勝だね。流石は裏ボスだ」

「違いますよ、お兄様と私がいれば最強なんです」

「何二人で倒したみたいなことを言ってんだ!! このシスコン、ブラコン!! 私たちもいただろうが!!」

「落ち着いてください、フリューゲルさん!! あなたは重傷をおっているんです。素直に治療をうけてくださいーーー」



 裏ボスという言葉はよくわからなかったけれど、兄が褒めてくれるのが嬉しかった。後ろでフリューゲルが騒いでいるが無視する。彼女の相手は聖女であるテレジアに任せておけばいいだろう。

 そして、ついに魔王を倒した。これでお兄様に恩返しができる……そう思った時だった。



『ああ、お前の魔力知ってるぞ……我らをかつて殺した者の血だ。そして、我らはかつて貴様らを呪う術を知っている』



 目が合うと魔王はにやりと笑い……私に何かを放つ。それが呪いだとわかったのは帰還した後の話だった。

 そして、王女の特権をつかって研究した結果、魔王を倒しこの国を作った初代王が受けたものと同じ呪いで、この呪いはいずれに私を殺すということがわかった。



「この呪いは何者かに移せば一時的に延命できるみたいね……だけど……」



 誰に移すというのか……しかも、この呪いは近しいものにも感染するらしい。だから、最近はお兄さまと会うのは何かと用事をつけて断っている。

 むしろ……私が死んでも悲しまないようにと冷たい対応をしている。



「だって、お兄様がこれを知ったら代わりに受けようとしちゃうもの……」



 それだけは絶対嫌だった。これ以上兄を縛るのは嫌だった。何も兄に返せていないのに兄からまたもらうのは嫌だった。そんなの私のプライドと心が許さなかった。

 だから決意する。



「アスト=ベルグ、貴方をこの国の法に従い、領地と称号を剥奪し、追放の刑に処す」


 助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、お兄ちゃん助けて



「なんで……俺は……この国のために……」

「黙りなさい。誰が顔をあげていいと言いました? それに、これは決定事項です」



 心の悲鳴を押さえつけて必死に追放を命じる。こうすればさすがに嫌ってくれるよね? 今度こそ自分の人生を生きてください、私の大切な人……



「エルトリンデ!! せめて事情を説明してくれ!!」


 兄の言葉に振り返らない。振り返るわけにはいかなかった。だって、今の泣き顔をみられたら演技だとばれてしまうから……

 あなたに会えて私は幸せでした。だから私の分も幸せになってください。それだけが私の願いです。




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