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15.アストVSアーノルド

 校庭には全校生徒が集まっているようでちょっとしたイベントのようになっていた。そんな中エルトリンデは特設された観覧席に座り、両手を組んで俺たちを見下ろしているようだ。そして、なぜかアンビーは彼女の後ろに立ち、鋭い目で周囲を警戒していた。

 あいつ……怪しいと思っていたがエルトリンデの関係者だったのか?

 

 驚いている俺に近づく存在があった。


「アスト先生、緊張されていますか? 当然ですよね。あなたの生徒たちを見れば、教師としての力量は明らかです。そのうえエルトリンデ様にも失望されるんですからね」

「アーノルド先生?」


 アーノルドは校庭に集まった生徒たちを見渡し、声を大きくした。



「アスト先生、前から思っていましたがあなたの生徒たちを見ていると本当に悲しくなりますよ。いまだあんな低レベルの魔法しか使えないなんて」



 俺の担当している初級クラスの生徒たちを見つめ笑った彼は校庭に集まった生徒たちを見渡し、声を大きくした。



「皆さん、こんな教師に付いていては、一生魔法使いとして成長できませんよ。特に君たち、初級クラスの生徒たち。君たちはまだ中級魔法すらできていないじゃないか」

「それはアスト先生が基礎を大事にしてくれているだけです!」



 テレサが反論してくれるがそれを無視して、アーノルドは生徒たちを指差しながら続けた。



「アスト先生の下では、君たちの才能は無駄になる。私の授業なら、もっと立派な魔法使いになれたのに。本当に残念だ」



 アーノルドの言葉に、生徒たちの間から悲しげなつぶやきが聞こえ始めた。俺は拳を握りしめた。

 別に俺を馬鹿にされるのはいい……だけど、テレサを筆頭に俺のクラスの生徒は俺を信じて努力してくれているのだ。



「それは違いますよ。彼らは俺の教えに従い基礎を大事にしているだけです。あなたのように分不相応に強力な魔法を使わせたりしていないだけです」

「……ほう、私のエリートな教育を方針がおかしいと……?



 にらみ合っていると校長が声をはりあげる。



「では、魔法勝負を始めます。まずは基本魔法の精度を競います」



 校長が宣言するとアーノルドが自信満々に前に出てくる。目が合うと彼にはにやりとこちらを馬鹿にするようにして笑った。


「私から始めさせていただきます。火炎魔法・紅蓮の舞」


 彼が複雑な魔法陣を描きながら詠唱すると、空中に美しい火の花が咲き、生徒たちから歓声が上がった。



「すごい……あんなに綺麗な花を……」

「複雑な構成なのに……流石はアーノルド先生だ」



 生徒たちの言葉に得意げに頷くと、アーノルドがエルトリンデに声をかける。が……



「どうですか、エルトリンデ様。これがエリートな魔法教育者の技です」



 エルトリンデは無表情で頷いただけだった。そして、こちらを睨みつけるように見つめてくる。

 まるで負けたら許さないぞとばかりに……


 わかってるよ、エルトリンデ……それなりの力を見せろということだろ? それに生徒を馬鹿にされた以上負ける気はない。



「アスト先生……」


 

 生徒たちに安心させるように微笑んでから前に出る。そして、俺は詠唱なしで手を軽く動かすと、空中に水の花が現れた。火の花と絡み合い、虹色の光を放ちながら踊るように動いた。



「無詠唱で二属性……?」

「しかも、あんな複雑な制御が……」

「初級魔法なのに……アーノルド先生の中級魔法より強力じゃない?」

「さすがはアスト先生です、かっこいい!!



 生徒たちの間でざわめきが起こった。アーノルドの顔が引きつった。



「このように初級魔法でも組み合わせれば強力になりますし、何度も唱えていけば魔法は無詠唱で使えるようになります。当然アーノルド先生もご存じだとは思いますが」

「ぐぬぬ……だが、私とて本気を出せば……」



 残念だながら俺は本気ではない。アーノルドより少しだけ上に見えるように調整していたのだ。無詠唱にしたのはうちの生徒たちには何度も有用性を伝えてあるから実戦しただけに過ぎない。


「アスト先生……ここまでとは……」

「当然のことでしょう。そんなことよりも次をお願いします」



 驚きの表情を浮かべてこちらを見つめていた校長がエルトリンデに視線で促される。



「次は、防御魔法の強度を競います!! それではアーノルド先生よいですね!!」

「はい。私は防御魔法こそが得意なのです。真のエリート魔法をお見せしましょう!!」

 


 アーノルドは再び複雑な魔法陣を描き、「鉄壁の守護」と叫ぶと彼の前に分厚い魔力の壁が現れた。

 そして、テスト用の魔法弾が放たれ、盾に当たって消えた。アーノルドは得意げに笑った。


「このエリートな魔力で作られた盾は、上級魔法でも簡単には破れません。この強度まさしくエリートな鉄壁です。あなたに教わる生徒は本当に残念ですね」



 俺は再び無詠唱で、淡い光の膜を作り出した。それは一見脆そうに見えたからかアーノルドが嘲笑する。



「それで防げるとでも?」

「まあ、見ていてくださいよ」



 テスト用の魔法弾が放たれ、光の膜に触れた瞬間、弾が消えるどころか、反射して逆方向に飛んでいった。



「反射…?」

「初級防御魔法で反射までできるなんて…」

「流石アスト先生!! でも、私の気持ちは反射しないでくださいね!!」



 再び生徒たちの驚きの声が広がった。テレサがよくわからないことを言うとエルトリンデの頬がピクリと動く。



 「無駄に魔力を使って厚い壁を作るよりも、最小限の魔力で作り相乗効果のある魔法を組み合わせる、その方が効率が良いと思いませんか、アーノルド先生?」

「ぐぬぬ……」



 悔しそうにうめき声を上げているアーノルド先生。そして、更に追撃があった。



「つまり、アルト先生の教え方の方が正しかったということではないでしょうか? 基礎を学び、極めるのが最強への近道ですからね」

「エルトリンデ……?」


 俺とアーノルドの争いを見ていたエルトリンデから出た言葉に驚きをかくせなかった。

 だって、それは俺が昔彼女に教えたことだったのだ。

 困惑の表情でエルトリンデを見つめるが彼女はいつものように無表情だ。



「最後は、実戦魔法の応用力を競います。アーノルド先生とアスト先生でお互いに戦っていただき、先に一撃当てた方の勝利です。それでは……」

「もちろん、私から行かせてもらいますよ!! 魔法は実戦が全てですからねぇ!!」

 


 アーノルドは焦りを隠せず、開始の合図も待たずに魔法を繰り出し始めた。しかし、その魔方陣はいつもとは違いどこか荒っぽい。



「あれは……上級召喚魔法炎の魔人イフリート!?」

「宮廷魔術師でも使えるかわからないって言う強力な魔法を……」

「我が名において命じる、炎の精霊よ、現れよ!火炎魔神召喚!」



 巨大な炎の精霊が現れ、校庭に熱波が広がった。アーノルドを荒げながらも勝ち誇った表情を浮かべた。



「どうだ!これが真のエリート魔法使いの力だ! 基礎だけではどうしょうもないんですよ!!」

『下賤なるものが我に命令をするな……!!』



 しかし、突然炎の精霊が暴走し始めアーノルドに火を放つ。彼は防御すらも忘れ慌てふためいた。



「ま、待て! なぜ私の命令に従わない? 私はエリートだぞ!?」

『自分よりも弱いものに従うものか、不快だ死ね』

「ぎゃぁぁぁぁぁ」



 炎の精霊の爆風が直撃してアーノルドが情けない声をあげながら吹き飛ばされていく。だが、今はそれどころではない。

 次はお前らだとばかりに炎の精霊が生徒たちをにらむ。


「く、制御を失っているのか?」

「きゃぁぁぁぁ!!」

「火の球がとんでくるぅぅぅ!!」



 炎の精霊は校舎に向かって火の玉を放ち始めた。生徒たちが悲鳴を上げる中、俺は前に飛び出して魔法を使う。



「時をつかさどる精霊よ、神の作り出した因果を逆らう力を!!」

「凍てつく冥界の川よ、我が呼びかけに応えよ。時を止め、命を凍らせ、全てを静寂へと導く。永遠の氷獄に堕とせ。極寒地獄コキュートス



 瞬間、炎の精霊と火の玉が空中で静止し、それを全てを凍らす氷魔法が貫いた。時を止めたのは俺で……氷を放ったのは……エルトリンデだ。

 目が合うと彼女がにやりと笑った気がしたのは気のせいだろうか? ちなみにアーノルドはいつの間にかこちらに来ていたアンビーが助けているのが見えた。



 そして、静まり返っていた生徒たちが騒ぎ出す。



「時間魔法…?」

「あれは失われた古代魔法のはず……」

「エルトリンデ様しか使えないはず……いえ、もう一人使える人がいました。それは彼女の兄である……」


 エルトリンデ様マニアのロザリーが俺を見つめるのを見て冷や汗を流す。正体がばれてしまったか……


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