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10.冒険者ガゼルの末路

 フリューゲルは冒険者ギルドの一室で、なぜかボロボロになっているガルムを呼び出し厳しく叱責していた。



「バカ者! なぜ民間人に手を出した! 我々終焉の宴は暴徒ではないのだぞ!!」

「すいません、あの奴隷があまりに美しかったもので……でも一緒いいたあいつは……」



 絡んだ相手の正体を告げようとして、なぜかガルムは押し黙る。その様子がよりフリューゲルをいらだたせる。



「何をぶつぶつほざいている? 魔法学園のインテリどもと我々冒険者が接点があるはずがないだろう」



 言い淀むガルムをフリューゲルは切り捨てるように言った。そして、じろりと睨みつける。



「それより、なぜおまえはそんなにボロボロな上に冒険者証も破壊されているのだ? まさか学園の教師ごときに負けたというのか?」



 フリューゲルがにらみつける先には貴重な金属であるオリハルコンで作られたバッチがあった。それはSランク冒険者の証明であり、誇りでもある。

 それを壊されたということは冒険者にとって最大の侮辱となるのだ。



「ち、違うんです。これは……夜道を歩いていたらローブを身にまとった女にやられて……」


 よほど恐ろしいものにあったのかがくがくと震えるガルム。そんな彼をフリューゲルは冷たい目でにらみつける。



「Sランク冒険者としての品位を汚した上に何者かにも負けただと? 救いがないな。出ていけ。もはや、お前に『終焉の獣』の名を名乗らせるわけにはいかん」

「ま、待ってください。あの女は本当に強く……」

「出て行かないならば私が殺すぞ?」

「ひぃぃぃ!!」



 睨まれ慌てて逃げ出すガルムが、部屋を出てからフリューゲルは窓の外を見つめた。その瞳は異様な輝きを放っていた。



「アスト……どこにいるんだ? なんで私に相談しないでどこかにいってしまったんだ……」



 彼女は壁に大切に飾ってある半分に割れた剣を撫でる。

 その剣は、かつて親友と交わした誓いの品であり、半分に割れた剣の欠片があった。



「あの日、お前が私を置いて行った時から……私はずっと探しているんだぞ、ようやく呪いを解くヒントを見つけたというのに……」



 フリューゲルはもう一方の手に古ぼけた羊皮紙を広げた。それは彼女がダンジョンで見つけた呪いを探知する魔道具である。そこには「血の契約」と書かれた魔法陣と、アストとエルトリンデの名前が記されていた。



「魔王の呪い……これを解けば、お前は自由になれる。そして……私のものになれる」


 彼女は狂気じみた笑みを浮かべた。



「今度こそ、お前を救ってみせる……そして、永遠に離さない」



 彼女は決意の表情で立ち上がった。





★★★


 フリューゲルに叱責されたガゼルはアストと、ローブの女への憎しみを胸にかかえつつ、気分転換にギルドハウスで酒でも飲みに行こうとしたが、なぜか見張りの冒険者は扉を開けずにこちらをにらみつけている。



「ガゼル……悪いがお前をいれることはできない。なぜならばすでにお前は追放されているからだ」

「な、俺をギルドから追放するって本気かよ!! 俺がどれくらい尽くしてきたと思っているんだ。フリューゲル様が感情的になるのはいつものことだろ!! 二、三日たてば忘れるっての!!」



 『終焉の獣』のギルドハウスにガゼルの怒鳴り声が響くが、見張りの冒険者は冷めた顔で答える。



「ああ、いつもならな……だが、今回の事でお前の評価は一気に下がったんだ。そのうえ、とある貴族からも圧力がかかってな。お前を雇っているとマイナスにしかならないんだよ。フリューゲル様だけじゃない。ほかの連中の総意だ。」

「な……おい!!」


 驚愕の声を漏らしているガゼルを無視して扉が閉まる。ありえないことだった。だって、自分はSランクの冒険者になったのだ。多少の乱暴も……それこそ、街中で奴隷をさらうくらいの特権はあってもいいはずなのだ。

 なのに……何がおきたというのだ? しかも、なぜあんな小競り合いに貴族が……? 

 考えても答えはない。絶望と失意のままガゼルは無職となったのだった。








「あいつのせいだ……」



 ギルドを追放されたガゼルは場末の酒場で憎しみに満ちた顔で、邪魔をした男の……アストの顔を思い出す。



「確かあの服は魔法学校の教師だったな……俺の人生を二度もむちゃくちゃにしやがったんだ。俺も無茶苦茶にしていいよなぁ、見てろよ、アストォォォォ!!」



 八つ当たりだとわかっていながらガゼルは自分の怒りを正当化する。あのメイドをさらって目の前で犯すのもいいかもしれない。もしくは生徒を人質にして呼び出してもいいかもしれない。

 一人でにやにやと計画とも言えない妄想をしていると一人の男がやってきた。



「今、アストといいましたか?」

「その服……お前も魔法学校の教師か!!」



 ガゼルが警戒心のこもった目で見上げると男はにやりとわらった。



「そんな目で見ないでください。私もアストを排除したいと思っているんです。正確にはその後ろにいるエルトリンデ様をですが……」

「エルトリンデだと? ならやっぱりあいつは追放されたはずのアスト=ブルグだったのか!!」


 問答無用で目の前の男を黙らせようとしていたガゼルだったが、その気が変わる。なぜならば、本当に憎んでいたのは魔王殺しの英雄であるアストだったからだ。

 数回遠目で見ただけなので顔はあいまいだったが、やはり本人だったのだと納得する。あいつが使ったのは時魔法だからだ。


「詳しい話を聞かせろ」

「もちろんです」



 そうして、ガゼルは目の前の男に詳しい話をきき深みへとはまっていくのだった。



★★★


「エルトリンデ様が視察に?!」



 職員室に入った俺は思わず驚愕の声をあげてしまった。その反応をどう勘違いしたのかロザリー先生は両手を胸の前で握りしめ、目を輝かせながら頷いている。



「すごいですよね! 明日、冷血姫エルトリンデ様がこの学園を視察されるんですよ!」

「なんで王族がこんな辺境に……」



 混乱している俺に興奮しているロザリー先生は気づかない。もしかして俺の監視だろうか? それとも、何か考えがあるのか……厄介なことになるのは間違いないと大きくため息をつくのだった。

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