1,緊急依頼
「おいラッド!」
俺は机の上で眠気に負け、首をカクカクさせているとランドムが叫んで起こしてきた。
「...」
「おい!」
「...ん」
「おいちゃんと話聞けよ」
「あぁ」
眠い中目を開けると、パーティーのみんなが集まってる。
「まぁまぁまだ朝の5時だし」
「みんなも同じ時間に起きてるんだから、こいつだけ眠いって言っていいわけないだろ」
「私朝型だから眠くないよ」
「ローラは黙ってて」
「それで、話したいことってのは」
俺は1人だけ立ってる立っているマルセルに問いかけた。
「ゴブリンキングのことだろ」
ゴブリンキング。ゴブリンキングはゴブリンの王で体長はホブゴブリンの倍ぐらい。大きな大剣を持って、ゴブリンを引き連れて街を襲うと言われている。だけど、実際個数数が少ないから、事例があまりなくて詳しいことはよくわかってないらしい。
「なんでランドムが知ってるんだ」
「昨日酒場にいたら、他の冒険者たちが話してたぞ。なんかゴブリンキングが出たらしいか ら、この街の冒険者ギルドと隣街の冒険者ギルドが共同で倒しに行くんだろう」
「まぁそうなんだけど」
マルセルは言おうとしていたことが、先に言われてやるせなさそうな感じの顔をしてた。
「それで、報酬はどのくらいなの」
「少なかったら断ってもいいと思うんだけど」
「それにゴブリン退治なんて何があるか分からないじゃない。みんなが死ぬ可能性だって」
「それが、C級冒険者は強制参加らしいんだ」
そう言うとマルセルは緊急依頼と大きく書かれた紙を机の上にのせた。
「そうなの」
「ごめんな」
「なんでマルセルが謝るの」
「いやそれは…いや、やっぱ何でもない」
マルセルは少し考えたような様子を見せた後、机においた紙を手に持って
「それで報酬のことなんだけど、参加してくれたら銀貨50枚がでて、それにプラスしてゴブリン一匹につき銅貨50枚、ホブゴブリンだと一匹銀貨5枚、ゴブリンキングは金貨1枚だそうだ」
「普通より安すぎない」
「大方参加する冒険者が多いからそこまで高くできないんだろう」
「まぁ文句ばっか言うな」
「たくさん殺したらいいだけだろ」
「それにゴブリンキングを倒せばそこそこ稼げるんだから俺等でやれば」
「おいおいそれは聞き捨てならないな」
そんな感じで話してると、隣の机にいた冒険者が席を立ってこっちに歩いて来る。
「なんだ、ワーテルか」
こいつはワーテル。俺達と同じくらいのときに冒険者になり始めたから、ライバルとか言って何かと競争したがるやつだ。これでも俺と同じC級で、同じ盗賊だ。なので、こいつの戦いで参考になるところとかもある。
「なんだとはなんだ。ゴブリンキングを倒すのは俺等だ」
「そうだろ」
そう言うとワーテルは後ろを向いて仲間の方に訴えかけてた。
「えぇー、マルセルたちと協力したらいいじゃん」
「それだったら俺等の取り分が減っちゃうだろリーナ」
リーナは椅子を斜めにして座って、めちゃくちゃだるそうな感じだった。
「てことで競争だからな、マルセル」
「わかったよ、だけど先にそこらのゴブリンにやられるんじゃないぞ」
「そっちもな」
「よし、お前ら行くぞ」
「早くない」
「もう無理だ。あの状態のリーダーは何言っても聞かないぞ」
「それもそうね」
「おいお前ら、歩くの遅いぞ」
「はーい」
俺達はワーテルやリーナがドアから外に出ていくのを眺めて、ボーとしてた。
「ワーテルはいつもどおり元気だったな」
「私達も行く準備をしましょ」
「そうだな」
「それに、ワーテルに負けるのもしゃくだからな」
「それもそうだな。あいつは競争で勝ったら、1ヶ月ぐらいは自慢してくるからな」
「それじゃあ6時に街の門の前でな」
「わかった」
「夜の6時?」
「朝の6時だよ」
ローラはいつもどおり。
「あ、それとローラ」
「ん」
「念の為いつもより多めに回復のポーション持っといてくれるか」
マルセルがそう言うと、ローラはきょとんとした顔をしてマルセルの顔を見てしゃべっ た。
「なんで?」
「なんとなく?」
確かに冒険者がたくさん集まるとしても、相手はゴブリンキングだ。どれだけの数を引き連れてくるかわからないから、備えはしといたほうがいいだろう。
「なんで疑問形なのよ」
「…わかった」
「それじゃ1時間後にな」
「てマルセルが言ってたのになんでローラとラッドはまだ集まってないんだ」
「いつものことでしょ」
1時間後、街の門の前で遅れたことに怒ってるランドムとすでに諦めてるリーチェの2人が立っていた。
「だけど大事な時ぐらいは早く来いよ」
「そんなこと言っている間にマルセルがラッドたち連れてきたわよ」
「おいラッド」
「ごめんて」
「おい、まだ何も言ってないぞ」
「なんで遅れたかだろ。寝てたら遅くなった」
「ローラはどうして遅れたの」
「お菓子食べてた」
「そのお菓子はどうしたの」
「宿屋のおじさんにもらった」
「はぁ」
「ローラはいいとしてなんでこうここのある男子はちょっとだめなのかしら」
と俺の方を冷たい目で見ながら、話していた。
「おい、目線が俺の方を向いてるぞ」
「誰もあなたとは言ってないでしょ」
「おい俺は違うからな」
「あなたじゃないから」
「でも考えてみたらそうね」
「あなたって脳筋ぽいけどけっこうまともよね」
「おい脳筋は失礼だろ」
「それで、みんな集まったけど行かないの」
「そうだな」
「少し出遅れたからペース早めで行くぞ」
「わかった」
俺達はもともと6時に出るはずだったが、とある理由で7時出発になってしまった。ゴブリンキングが出たという森は、この街から2日ほど離れた場所だった。隣町の奴らは俺等の街よりさらに離れてるので、目的地の近くにある村までで2日かかり、目的地は更に1日かかる。俺等は遅れたとしても1時間しか変わらないから、ほぼ誤差だが、ゴブリンキングの報酬がほしいので、急いで向かうことになった。
「にしてもほんと誰とも出会わないわね」
「そりゃあ遅れて出発したからな」
「それでも、同じ目的地を目指しているんだから、合いそうなものだけど」
「確かに、道中いたものは魔物の死体ばっかだったからな」
「私達まだ今日1回も戦ってないわよ」
「戦わないならそれでいいだろ」
「体力も温存できるし」
「だけど1回ぐらい動いとかないと、ゴブリンと戦う時動けないわよ」
「確かにそれは困るな」
「でしょ」
「リーチェ、今日はもう進まないぞ」
「なんで」
マルセルは太陽を指さして
「日がおちかけてる」
「今日はここで野営するぞ」
「薪集めてくるから、テント張りお願い」
「じゃあ俺も木集めてくるは」
「じゃあ私達でテント張りしますか」
それから手頃な大きさの木を集めた。ていってもちょうどいいのがそんなにたくさんあるわけないから、結構時間がかかってしまい、遅れてみんながいるところに戻った。
「おい、遅いぞ」
「すまん」
「もう晩飯できてるぞ」
「はい」
リーチェが鍋からシチューを器に入れて、俺に渡してくれた。うん、おいしい。寒い中食べるシチューは、体が温まるな。だけどいつもより少し味が濃い気がする。いつも晩飯を作っているマルセルは薄めの味付けだから、たぶんこのシチューを作ったのはリーチェだな。
「リーチェ、このシチューおいしいよ」
「なんで私にそんなこと言うのよ」
「だってリーチェだろ。このシチュー作ったの」
「そうだけど」
リーチェは少し顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
「ごちそうさま」
「それじゃあ明日も早いしもう寝るか」
「おい、見張りはどうするんだ」
ランドムは俺とリーチェの方を見て少し考えてから
「見張りはラッドとリーチェの2人でしてくれ」
「途中で俺とランドムが交代するから起こしてくれ」
「わかった」
「じゃあ先に休憩させてもらうよ」
「おやすみなさい」
ローラが大きくあくびをしながらテントに入り、俺とリーチェの2人だけになった。そこから数分無言の時間が続いた。みんながテントに入ってから少ししてリーチェが話てきた。
「ねえラッド」
「ん?」
「あのさ」
「うん」
「今回の戦いどう思う」
「絶対なにかあるな」
「それはどうして」
リーチェの方を向くと不安そうな目でこっちを見つめていた。
「まず他の冒険者が見当たらないし静かすぎる」
「だけどそれは私達が遅れて出発したからでしょ」
「そうなんだけど、俺等も急ぎながらきたから、どこかの冒険者と合う可能性のほうが高いのにあってないんだよ」
「まぁたしかに」
「だから自分の予想だとゴブリンキングより強い何かがゴブリンを率いてると思う」
「それで他の冒険者はもう壊滅してると思う」
「…」
体育座りをしながら真剣そうな顔で焚き火をリーチェは眺めてた。
「まぁ俺の予想だけどな」
「そうだよね」
「ありがとね」
「ほらちゃんと見張りの仕事しよ」
「そうだな」
そのあと俺とリーチェは見張り交代のためマルセルたちを起こして、寝ることにした。
「おはよう」
俺が起きたときには、みんなすでに起きていた。ローラはまだ眠そうにしてるが、ほかはみんな出発の準備か朝食の準備をしていた。今日の朝食はパンと昨日の残りのシチューだった。朝食を食べたあとはまた目的地に向かって歩き始めた。道中グリーンウルフが出てきたが、1回出たきりで他の魔物は出てこなかった。
「けっこう目的地の近くまでこれたな」
「そうだな、日もくれそうだし一旦ここで野営して、明るくなったらゴブリンキングが出た場所にいこう」
「わかった」
「じゃあ俺はローラと枝を集めてくるよ」
「ランドム」
「どうした。枝集め交代するか」
「いやそれはいいがいちよ武器を持っててくれ」
「またなんとなくか」
「そうだ」
「わかった」
「リーダーが言うなら言う通りにするよ」
ランドムは渋々納得したような顔で大きな斧を背負い、ローラと2人で森の中に入っていた。
「じゃあ俺等はテント張りか」
「そうだな」
「俺テント張り苦手何だよな」
「こんなけ冒険者やってて?」
「どんだけやってもできないもんはできないんだよ」
「リーチェも何かしらあるだろ」
「ないわよ」
「じゃあ、アスパラ料理は」
「それは」
「前夜ご飯に出た時食べてなかったよな」
「しょうがないじゃない。あれは人の食べれるようなものじゃないは」
「ほらあるだろ」
「あれはなんと言われようと無理なのよ」
「そんなにか」
「まず匂いが無理なのよ。それを口に入れたら口の中で匂いが広がって」
「そんな匂いするか」
「なんなら今日の晩飯にアスパラ入れるか」
「まじでやめて」
こいつって、いつもはツンツンしてるけどいじるとすぐ顔を赤くするし、反応面白いんだよな。
「ラッド、リーチェをいじるのもそこまでにしとけよ」
「そうだな」
「…」
「そういえば、お前ってロリコンだったよな」
「え、は…え」
「違うよ。ラッドが好きなのはポニーテールのメガネのお姉さんでしょ」
「え」
「そうか?それは結構前に言ってたやつじゃなかったか」
「最近はロリがいいとか」
「そうだったの」
「え」
こいつらなんで知ってんの。
「おいマルセル!ラッド!リーチェ!来てくれ!」
その声はいつものランドムの声より少し震えたような声だった。
「ランドムの声だ」
「早く行くぞ」
「え」
「リーチェ。ローラの杖と回復ポーションも持っててくれ」
「わかった」
なぜか俺の好みが暴露されたが、俺達は声が聞こえた方を目指し、できるかぎり全速力で向かった。
「ランドムどうした」
「これ見てくれ」
「こいつは、」
それはお腹から大量の血が出ている男の死体だった。手や足は変な方向を向いてるし、この傷の感じから多分小さい斧かなにかでつけられた傷だった。光を失っていた目が俺と目があった気がする。