表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

既に戦争は始まっている

 「アルマハには人型と異形型がある。で、形としてはそれぞれに独立してる。けど思考回路はおんなじ。つまり自分の身体が二つあるみたいな感じ。」

 「二重人格ならぬ二重肉体みたいな?」

 「?」

 「ごめん。」

 僕らは今、道無きを道を歩いている。そこは瓦礫の山であったり家の中であったり。全てはシェクバに見つからないようにするためだ。

 シェクバは各アルマハの統率化の下で情報を共有している。つまり一体のシェクバにでも見つかると、その他のシェクバにも僕らの居場所がバレるということ。だからできるだけ見つからないように行動している。

 「基本的には異形型の方が本体になってる。で、人型はあくまでも本体から切り離された一部ってことらしい。」

 「らいし?」

 「みんながそう言ってた。僕はよく知らない。」

 「みんな?」

 「松柏とかウルルとか。」

 「ウルルってウルル・アハマのこと?」

 「うん。」

 「仲良かったの?」

 レイは沈黙した。

 今、僕らが向かっているのは、第三研究施設。そこには、三番統制機であるウルル・アハマの本体が安置してある。だから恐らく、人型のウルルも此処にいると推測される。

 そしてレイから教えて貰った情報曰く、人型のウルバとウルフも第三研究施設にやってきている可能性があるとのことらしい。つまり三人を同時に相手取る可能性があるのだ。もしそうなったら正直言って勝ち目は無い。だがしかし・・・。

 「・・・あの話は本当でいい?」

 あの話。それは松柏さんが残していた用紙に記されている内容の一部の事。

 その用紙には、主にレイの今後の行動についてとか、全アルマハの移動経路の予測とか、アルマハに関する推測情報とかが記されていた。

 そんな、絶対に無くさないほうがいい用紙の一部に書かれていた内容。

 『ウルバ、ウルル、ウルフが合流して、尚且つ研究施設内に居座っていた場合。この時、特にウルバなら異形型との同期を断ち切っている可能性が高い。もしそうであったなら説得しろ。』というものだった。

 つまり同期を切った"人型の"アルマハはイルマ・アハマの支配下に非ず。更に上手く行けば、レイの手伝いをしてくれる可能性もあるという話だ。

 アルマハは、異形型と人型で一人の存在だ。しかし同時に、独立した二者が意識を同期した状態とも言える。即ち、この同期を切りされすれば一人だったそれの意識は二つに分かれ、各々が独自に思考を始める状態へ移行するというもの。

 そしてイルマ・アハマは、アルマハ本体を介して人型のアルマハと全シェクバとを掌握している。ここで仮にウルバが同期を断ち切ったとしたならば、まずウルバは自身の統制下にあったシェクバの支配権を失う。併せ本体からのエネルギー供給も断たれる。つまり、普通の人間に近づく、と考えられる。これはアルマハからしてみれば相当のデバフだ。ただしその代わりとして、イルマ・アハマからの強制的な支配を無視・・つまり個人としての権利を確立できる状態となる。

 「イルマが人間に宣戦布告した日以降、異形型はみんなイロハニ国方面・・つまりイルマ・アハマの下に向かって移動を始めた。で、『これに伴い人型は07型の生物型シェクバを引き連れて、"各々"に各国代表や軍のトップ、またその周辺の暗殺に動き出すだろう。』っていうのが松柏の予測。だからつまり、何もしないで研究施設でグータラしてたらそれはもうイルマの言う事突っぱねてるって考えて良いと思う。」

 「それは三人とも?」

 「・・・ウルフには気をつけろって言ってた。」

 「じゃあ研究施設に三人いた場合、まずはウルバに話しかける。で、ウルフとは一番距離を開けておく。これでいい?」

 「いいと思う。後、ヒサは僕の後ろに。そうじゃないと守れないから。」

 「いいよ気にしなくて。レイは自分に集中しておいて。」

 「死ぬよ?」

 「まぁそれならそれで。こんなところでくたばるようじゃ今後の展開についていけないだろうしね。」

 「そっか。わかった。じゃあ自分のことは自分でしてね。」

 「もちろん。」

 ちょっと怖気づくヒサであったが、こんな風に宣言しておかないと自身の心がまた揺れる気がした。だから・・・。

 しかし、やっぱりレイは僕に興味無しか。まぁ僕もそんな感じだし。・・・とは言え命の恩人でもあるからできることは最大限頑張ろう。

 

 小一時間程歩いたか。少々・・・うん。足が痛む。

 小学時代では少年クラブに、中学時代では運動部に所属していたヒサ。故にこれくらいの道のり普段であればわけない筈だが、しかし凹凸が多く、また地面も酷く不安定な慣れない道のせいで、だいぶ足に疲労が溜まっていた。

 それに対してレイは・・・あまり疲れた様子を見せていない。

 僕は・・やっぱりダメなのか・・・。

 実を言うと、イルマの攻撃を防いだことで少しだけ傲っていたヒサ。実際松柏にも「君は常人よりも強くなっている」と言われた。だからこその無意識の過信が、しかしいざこうして目の前を歩く少女との差を見せつけられて消失してしまった。失墜して気分とでも言うべきか。それも相まって肉体の疲労がどっと伸し掛かる。

 「大丈夫?」

 「え?あ、ああ。ごめん。」

 意外だった。まさかレイが僕の心配をするなんて。いや、心配は小一時間前もしてくれたじゃないか。「死なないように僕の後ろにいて」と。

 「少し休もう。」

 胸が痛む。また、蝕まれていく。酷く惨めだ。だけど・・・。

 「ごめん。ありがとう。」

 素直に受け入れる。ここで無理をして余計に迷惑をかけない為にも。

 ・・・・だからといって罪悪感が消えるなんてことは無いんどけどね。

 「・・はは。空、綺麗だね。」

 「そう?」

 「綺麗だよ。うん。凄く澄み切っている。」僕の心と違って。

 「へ〜。あ、そういえば松柏もよく空見てた。」

 「そっか。・・・あの人も何か悩んでたのかな。」

 「松柏は・・・たぶんいつも悩んでると思う。」

 「あはは確かに。研究者だもんね。」

 「それもあるけど・・・でもそれ以上に・・・・。」

 レイはそれっきり空を見上げていた。何かしら物思いにふけっているのかもしれない。仕方がない。松柏さんとレイはそれなりに仲が深かったと見て取れた。そんな人が目の前で殺されて、挙げ句そこからまだ時間が全然経っていないんだ。だから心の整理なんてまだまだ追いついていないはず。それなのにこうして歩みを止めずに此処まで来て・・・休むと同時にふとあの人のことを思い出して・・・。

 僕も僕で、いい加減嫌いな自分から立ち直らないと。だけど・・・いくら自分の為に生きようと努力しても、結局この痛みからは逃げられない。・・・いや、まだこれからだろう、ヒサ。

 また、胸が痛んだ。

 今は受け入れて進むしかない。そしたらその果てできっと、僕はこの痛みから解放される筈だから。

 それが、人生経験の浅いヒサが出した唯一の結論だった。浅い人生の中で自分自身を変えることができなかった以上、全て受け入れられるようになって塗り潰す方法しか、ヒサの頭には思い浮かばなかった。

 

 「ヒサ。立って。」

 レイが、出した荷物をリュックにしまい立ち上がる。

 「何か・・・シェクバ?」

 言って、気づいた。

 「うん。5体。西の路地・・たぶんそこの隙間から2体と、南の屋根上から3体。」

 レイはどうやら、シェクバの気配がわかるらしい。でもそれよりも・・・。

 「なんでここが・・・。」

 「わからない。けど今は。・・・相手はたぶん5体とも02型。」

 「汎用型ってやつ?」

 「そう。でも西の2体の方が体重重いのかも。進むスピード遅い。」

 ヒサは荷物をしまうと、瓦礫の隅の方へリュックを投げた。

 「そこまでわかるものなの?」

 「重さと型番は推測。分かるのは数と大体の位置だけ。それよりも早く武器持って。」

 「大丈夫。もう持ってる。」

 レイが振り向く。

 「よし。もう少しで南の3体と接敵するから、そっこーで片付ける。ヒサは後ろで構えてて。」

 「・・・一体譲って欲しい。」

 ヒサがレイの横に立ち言い放った。

 「やれるの?」

 「わからない。けど自分の実力を知る為にも。」

 「2体の方じゃダメ?そっちの方が直ぐ助けれる。」

 成る程。正論だ。しかもそっちは動きが遅いらしい、初の実戦・・・イルマとの一戦はほぼ無意識の反応だったしノーカウントとして、初の実戦相手は遅い方がやりやすいだろうとも思うから・・・。

 「ああーーーうん。わかった。」

 「おっけ。ありがと。」

 なんか一気に気が抜けた。ダメだな。ちゃんと引き締めておかないと。

 少しして、南側屋根越しに3体のシェクバがやってきた。

 それをレイは、物騒な小手を着けた拳でボコボコに殴り飛ばす。

 因みにレイが拳で殴るのは、そっちの方がやりやすかったからしい。とは言え一応その他の武器も、僕が治療を受けた個人研究所から拝借してきた。

 まず最大火力武器にして、対アルマハ用の最終兵器、『アブラティオン』。これは着弾地点から球状の半径1メートル以内にあるものを無条件で全て消し去る事ができる銃らしい。もちろんこんな架空銃はオーパーツから生み出された一品。そのおかげで弾数が8発だけ。だから滅茶苦茶慎重に使わないといけない。

 次に、レイが二本、僕が一本腰掛けしている刀。正確には打刀で、一般的な太刀よりも短めの刀らしい。そしてこれに関してはカッコいい名前とかは無く、ただ『神経接続型裏世界オブジェクト・刀』とだけ記されていた。前半は物騒で後半は意味不能な名前だ。だが実際手に取って握ってみても、それは普通の刀でしかなかった。何か条件でもあるのか・・・。

 因みに形状が刀の物しか置いてなかったのは、松柏さんが刀の形状が好きだったかららしい。一応アルマハ専用の研究施設には他の形状をした『神経接続型裏世界オブジェクト』が置いてあるのだとかなんだとか。まだ見たことがないから確定はしていない。

 3つ目の武器は今、レイが着けているレイ専用の物騒な小手。レイはそれを『物騒な小手』と呼んでいた。それは硬度が高くトゲトゲしている。特に握り拳を作った時に前方に来る部分・・・丁度相手に当てる部分と言うべきか。そこには一際大きなトゲが付いていた。要は殴ると言うより刺すイメージ。打撃を加えながらシェクバの装甲を歪ませるか貫くかする事に特化しているのかな?

 4つ目。散弾銃。言葉そのままの銃器。弾数もある程度確保できた。が、僕はまだ使ったことがない。レイもないらしい。そもそもこれは法律違反にならないのだろうか。一応規定はあるらしいけど、でも僕もレイもそこら辺をよく理解していない。だって銃にも法律にも詳しくないし。というわけで人前では使うことが躊躇われる、たぶん使いやすいけどだいぶ使いにくい、全く使ったことのない武器となっている。

 「ヒサ、準備は?」

 「大丈夫。」

 「じゃあ一体残すから、それまで待ってて。」

 「ありがとう。」

 そんなわけで、僕が今から使うのは『神経接続型裏世界オブジェクト・刀』。呼称、『花車はなくるま』名親、ヒサ・イマルク。

 行くぜ!・・と、少し気分を上げてみたり。というか上がっていた。

 それは怖さや心の揺れを紛らわせる為であり、併せ同時に興奮した少年心への重なりであり。

 誰だって本当は子供心を持っている。大人に為ってしまったとしても、それは心の奥底にしまい込んだままずっと眠っているだけ。だから、いざって時についつい溢れてしまったりする。それを我慢する必要は無いと思う。

 そしてヒサも、我慢したくないと思った。若干恥ずかしいが、しかし興奮冷めやらぬ心はさらなる熱に浮かされて・・・。

 落ち着け。それで冷静さを失ったら本末転倒だ。自制心は持ったまま、状況判断はしっかり。楽しむのはその上で、だ。

 「ヒサ!」

 「大丈夫!やれる!僕なら!!僕は弱くない!!!決して!!!!」

 ようやく、此処までこれたんだ。最初の一歩を、僕はようやく踏み出せたんだ。もし此処で立ち止まるような事ことがあれば、僕はもっと深い深みに嵌って抜け出せなくなってしまう。それだけは無しだ。何が何でも僕は・・僕は・・・僕は!!!

 心を奮い立たせたからと言って力が強まることは無かった。だけどオーパーツをその身に宿したヒサの肉体には、人間の域を超えられるだけの可能性が秘められていた。そう、秘められていた。

 あの時は無意識だったけど、今ならわかる。自分がどう動けばいいのか、分かる。分かる。分かる!

 「世界が見える!世界が応えてくれる!すごいや!」

 体はまだ完全に追いついては来ないし、反射神経自体もまだまだ未熟。それでもシェクバ相手であれば、ヒサは問題なく戦えた。接戦だった状況が、一気に覆る。

 「ヒサ!トドメ!」

 シェクバの人工脳は多種の現生生物同様、頭部に存在する。よって人工脳を破壊するか首を根本から刎ねるかすれば、"周辺環境と現在状況を完全に把握しての行動"を阻害できる。

 ただしシェクバはタコに似たその構造故、人工脳を失っても暫くは動くことができる。とは言え監督者を失った時点でそのシェクバはゾンビのような状態になり、反射的な動きは残るが目的を持った行動や状況への対応がほぼ不可能になる。

 しかしそれでも現存するシェクバは、アルマハからの命令・・「人類の抹殺」遂行の為、手当たり次第に周囲を破壊し続ける機械へと成り代わってしまった。これを防ぐ為、シェクバ処理はまず手足から、というのがセオリーとなっていた。

 「頭も体もぶった斬れ!」

 レイが叫ぶ。その声は至って平坦だが、しかしどこか楽しそうでもあるような気がする。

 「ふぅ・・・。」

 腕を叩き胴を叩き首を叩きそれらを叩き続けて、ようやく刃が通った。だいぶ刃毀れしてしまったんじゃ無いかと思うくらいに叩き続けた。それでようやく、ボコボコのボロボロのバラバラになったシェクバが地面に倒れた。

 「下手くそだな。」

 自分でもそう思えるくらいに下手くそだった。いくら達人級の動きが見えても、僕の技量じゃそれを真似するなど百年早いと言うことなのだろう。しかし・・・。

 刀を空に映し、自身を映す。

 刃毀れは・・・思ったよりだった。もっとボロボロになっててもいいくらいには下手くそな扱いだったんだけどな・・・。

 「よかった。」

 いろいろと混ざった安堵の声が漏れる。心もすこぶる穏やかだ。なんて気持ちの良いことか。

 「ハイタッチでもする?」

 レイから意外な言葉が飛んできたような・・・いや普通?ま、けどどちらにしろ・・・

 「いいね!はい!」

 「タッチ!」

 またもや喜んでいるのか分からない声と顔。それでも何となくで、たぶん喜んでいるんじゃないかなと思えてくる。

 「よし、行こうか。ここはもう危険だ。」

 「そうだね。」

 何故僕らの居場所がバレたのかは不明のままだが、しかしシェクバと相対した以上ここにはゾロゾロと集まってくるかもしれない。だから今は兎に角遠くて。ただ居場所がバレた問題を甘く見てはいけないのも事実。だから・・・

 「遠くまで行ったらもう一回休もう。」

 「見つかった理由を探るのが先?」

 「そういうこと。このままだとまた襲われるかもしれないし、それが睡眠中ってなればヤバいから。」

 「確かにそうだね。ヒサの言う通りだ。ならついでに周りが囲まれててバレにくい隠れ場所も探しておこう。」

 「了解。それじゃ、」

 「うん。急ごう。」

 そして僕らは再び歩き出した。

 懐かしきあの頃。旅行先で木刀を即購入。そして刀なんて手にした日にゃぁそりゃぁもういっぱい振り回したくなるってもんよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ