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7.provide

 その日も博士は、自転車を漕ぎに行った。と言っても外に運動に出ているわけではなく、地下に設置した発電器を回しに行っているのだ。

 何のためにそんな原始的労働力を使うのかというと、「アレ」の為に使う電気を電力会社から頂いていると出費が馬鹿にならないからである。

「アレ」とは、博士が地下で飼っている生物のことだ。一日一度、一定量の電力を供給してやらないといけないのだそうだ。現在、いわゆる植物状態である「アレ」は、生命維持を完全に他者に依存している。そんなわけで、いつか「アレ」の自立行動を実現するため、博士は日々研究に勤しんでいるのだった。

 

 ある時、博士がぎっくり腰をやったことがあった。床についてうんうん唸り、到底自転車のペダルなど踏める状態ではなかったので、代わりを申し出た。

 が、博士は断った。のみならず激怒した。布団をはねのけ無理に体を起こそうとして、案の定具合を悪化させた。

 いわんこっちゃない、大人しくして、任せておいてくれ。

 そう言うと、博士は痛い体で無理に寝返りを打って壁の方を向いてしまった。

 誰にも分からん。

 誰にも渡さん。

 そう言って、拗ねたように顔を背け続けた。まるで泣いているようだったから、それ以上話しかけまいとそっと離れた。

 地下に降りて久々に「アレ」を見る。依然見たときと殆ど変わらず眠っていた。

 顔は見えない。見たことがない。ヒトのオスの形をしているが、実際の所どういった由来の生命体なのか、博士からは聞いた事がなかった。

 おそらく話す気もないのだろう。博士はもう四半世紀も、殆ど一人でこの生物の世話をしてきたのだ。まるで、何かに責められるように、いつも難しい顔をして。

 自転車のサドルに乗り、一定値を保ちながら慎重に電力を送る。なかなかの重労働だ。これに毎日乗り続けるには、節電などという生温い理由の他にも動機が必要なのではないか。

 ものぐさな博士が、握り続けて買い換えないハンドルのゴムは、酷く汚れてすり減っていた。

 

 博士は間もなく復帰した。そして毎日決まった時間に自転車を漕ぎにゆく。まるでそれ自体が、彼の目的であるかのように。


 

「~を供給する」、

「~を与える」。

 


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