6.develop
昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが今しも斧を振りかぶって、一抱え程もある巨大桃を真っ二つにしようとしていました。
そう、その中に何が潜んでいるかも知らずに―…
そして、十五年後。
「百七!百八!百九!百…十!」
体の下に汗溜まりを作りながら、延々と腕立て伏せをする男が一人。
桃太郎である。
親の農作業などを手伝った後、疲れた体に鞭打って過酷なトレーニングに励む理由は只一つ。鬼ヶ島に巣くう鬼共を退治するためだ。
磨き抜かれた筋肉、鋼のような皮膚。桃太郎は天下無双と言っても過言でない肉体を手に入れるべく、日々奮闘していた。
老いた両親が彼の食費を捻出するため、働き詰めの食いつめで痩せ細っていくのもお構いなしだ。人々が鬼に脅かされず暮らすためには、多少の犠牲はやむを得ないのだ。
そしていつしか、桃太郎の体は一点の曇りもなく、ボディービルダーのように膨れ上がったのだった。
「ダッド、マム!僕は鬼共を倒しに行くよ。帰ったらゴージャスなお家と料理をプレゼントしてあげるぜ」
意気揚々と白い歯を光らせ、脂ぎった二の腕を掲げる桃太郎。対照的に、疲れた溜息を吐きながら陣羽織を用意する老母。
「おまえ…」
「なんだいマム」
日光を反射してきらめく健康的な額を見て、老母は口を噤んだ。
「…何でもないさ。これを持ってお行き、吉備団子だ」
「Oh!ありがとうマム、これで勝てるぜ。じゃあね!」
意気揚々と歩き出した桃太郎。だが、その行く手には次々と難敵が立ちはだかることとなる。
狼の血を引く犬戦士との戦いで学んだ、発達しすぎた筋肉の弊害。知能の発達した改造猿との、決死の駆け引き。そして、恐ろしいスピードを持った孤高の雉との死闘と絆―。
冒険の果て、暗雲に煙る水平線の向こうに現れる鬼ヶ島。一人と三匹は、互いに無言の決意を交わした。
俺たちは死しても仲間、さあ、決戦の地へ―!
「あれまあ、楽しそうに笑うとる」
「ほんまじゃ。何ぞ面白いもん、見えとるんかのう」
粗末な板敷きに、日の光が細い柱となって注ぎ込む一点がある。その光に指を絡ませ、幼児のように座り込んで笑う、痩せた白い少年が一人。
顔の左側は、耳近くの無惨な傷跡にひきつっている。誕生の日、親の斧に頭を割られた痕だ。
「不憫なのう…今年十五になるちゅうに」
「それは言わん約束だ、爺さんや」
「そうじゃの…」
老夫婦は目を細め、いつまでも光線と戯れ続ける少年を、切なげに見つめ続けていた。
「発達する」、
「~を発達させる」、
「~を開発する」。