56.claim
一匹の雄ネズミが、自分は雌だと言い張ってきかなかった。仲間達は、何とか彼――いや彼女か――を説得しようとしたが、雌ネズミとの交尾はおろか、アプローチさえ嫌だと言う。困った仲間達は、ボスに「彼女」のことを相談した。ボスはカンカンに怒り、
「そんな恥知らずは、全身の毛を抜いて赤裸にしてしまえ! 己の姿を見直せば反省して、もう馬鹿も言わなくなるだろう」
と早口に言った。仲間達はそこまで乱暴したくはなかったが、恥を掻かせるのはいい作戦だと思ったので、早速「彼女」に対する作戦を展開した。
まず、彼女の主張を認めてやった。「よろしい、君は雌だ」。そしてこうも言った。「君は見た目が雄だから、雌なら雌らしくしないといけない。しかも普通の身だしなみじゃ足りないんだ。そこで、人間の女の変身を見習おう」。
彼女は賛成した。
「ようし」
仲間達は言った。
「まずは白粉だ。肌を白く見せるのが女っぽいんだ」
「それから柄。一色だけの毛並みじゃ地味だろ」
「目は丸いのがいいらしい」
「ちょっと太ってる方が男好きがするって聞いたぜ」
「顔が骨張ってるのはよくないな。食べ物を詰め込んで丸くしよう」
こうして、すっかり見た目の変わった彼女を、仲間達は水溜まりに連れて行った。水に映った自分を見て、彼女は震えだした。
作戦成功だ! そう思った時だ。
「なんて素敵なの! まるでネズミじゃないみたい! みんな、ありがとう。これからは別の生き物の雌として生きるわね」
振り向いた彼女は、後ろも見ずに去っていった。
こうして、ハムスターが生まれたのである。
「~と主張する」、
「~と言い張る」、
「~を要求する」。