53.destroy
――小学生の時なんですが。母の時計に、石を落として割ってしまったんです。癇癖の強い母が、その時は黙って悲しそうにしててね…今でもハッキリ覚えてますよ。
――家かなあ。いや、俺は解体業者だからさ。でも嫌なのが、バラす時にさ、長年住んでた年寄りなんかがジイ〜ッと見てるわけよ。まあ、こっちは頼まれ仕事だからね。仕方ないんだよホントに。
――ガッコの窓とか? 更衣室の屋根? 塀ンとこにこう付いてる、入れないようにするヤツ? あーとーはー…あ、ババアの眼鏡とか。糞壊しまくってるけど。何、あんたの眼鏡も壊したげょっか。
――うーむ、一口には言えませんなあ。人間生きてれば、 何かしら壊すでしょう。印象的なものと言われたら…婆さんかな。儂のために死んだようなもんでね、悪いことをした…。
――変な質問だな。何を調べてるんです?…まあいいか。俺はね、少し前に人の命を壊してきましたよ。何、合意の上だったんだから、外野にとやかく言われる筋合いはないんだ。
――おや。久し振りじゃないか、元気でやってたかい? 何だって? ハハハ、心理学でもやってるのかい? そうさな…俺か。俺がやっちまったのはな、お前だよ。お前はもう壊れちまってるんだ。随分昔にな。何、昨日一緒に遊びにいった?…そこから先をよ。思い出したら…いや、何でもない。
――どうしたの、そんな顔して。え、僕? 僕はそんな悪いことしないもん。クラスの健ちゃんはいっつも怒られてるけど、僕は上手く気をつけてるんだ。…嘘じゃないもん! ふん、僕おじさんのこと嫌いだな!
――あらまあ、やっと来る気になったのかい。で? 何か言いたいことがあるんだろう。……はい、よくできました。さ、母さんと一緒に帰ろうね。ほら、泣かないの。ほんとに弱虫なんだから。
「~を破壊する」、
「~を殺す」、
「~を滅ぼす」。