52.gain
働くことが人生だった。沢山の仲間達と、毎日毎日利益をかき集めて、トップを始め自分たちの巣を肥やし、組織を次代へ繋ぐためにひたすら邁進した。休む時間などある筈がない。勿体なくてそんなものは採れない。自分たちの代が終われば、組織に尽くした一生に満足しながら死んでいくだろう。築いた財産が、自らの人生とまだ見ぬ息子等の未来を豊かにしてくれる。
それでよかった。
*
着のみ着のままがスタイルで、ポリシーだ。生来、どこかに落ち着くということが出来ない性分で、あちらこちらを気ままに飛び回っている。荷物はいつも鞄ひとつで、生活に必要なものが少々と楽器がひとつ入っている。立ち寄った先で奏でると、そこらを歩いてるひとが足を止めて笑顔になってくれる。時々ご馳走になれることもある。が、大抵一度きりの出会いだ。要するにふらふらしているだけなのだが、自分じゃ自由人のつもりでいる。死にかけることもあるが、毎日楽しくやっている。
しかし本当に、ものを生まなかったし持たなかったなぁ。
*
「俺の番、みたいだわ…じゃあな。女王万歳…!」
「あっ、ああ…」
「うう寒い、俺は死ぬのか? 俺は…うう」
「あは、天使様だ…お迎えが来た…」
「嫌だっ!俺はまだ生きるっ!助け…て…」
「さようなら…」
「組織に栄光あれ…」
「あああ、みんな死んでいく…何だよ。何なんだ、この気分は? うっ…目が霞む…い、嫌だ。俺は何も、何もしてない。まだ何もしてない! こんな所で…寂しい、苦しいっ…助けてくれえっ」
「どうしたんだい、黒いの。騒がしいな」
「あ…?」
「静かにしてくれ。歌が聞こえない」
「何だてめえ、爺…最近ここらで弾き語りなんかしてた迷惑野郎じゃねえか…へっ、とうとうクタバるのか。ざまあ…ううっ」
「おや。アンタも死ぬのか」
「ぐ…黙れっ! お前なんかに何がわかる! 社会不適合の、非生産の、何も持たない屑に何がわかる…。俺はなあ、うっ。俺はな、働いて働いて、稼いで貯め込んで…なのに何で今、全部捨てなきゃならん? 死ななきゃならんのだ!?」
「……」
「無一文のお前にはわからんかも知れんがな! 俺は…い、嫌だ。まだ、死にたくないんだっ…」
「……往生際が悪い兄さんだ。ちょいと黙りなよ」
「…?」
「ほら、歌だ」
「…聞こえねえよ、そんなもん。てめえの幻覚だ」
「まあ、なんでもいいさ。アンタにゃ聞こえないだろうしな…」
「……」
「賑やかな歌だ…いっぱいのひとが歌ってるんだ」
「…なあ。俺…お、俺を、助けてくれよ…」
「アンタは何も持っちゃいない。死ぬときは誰も、何も持ってないもんだ。独りで、裸一貫…そうだろ」
「…!」
「だけど、まあいいさ。…掌がな、なんだか温ったかいんだ。俺は幸せだよ」
「…………」
「……ああ、いい歌だ…」
「…蟋蟀さん」
「なんだい、蟻さん」
「…手…握ってても、いいかな」
「いいとも。ほら」
「…ありがとう。」
「~を得る」、
「~をもうける」、
「~を増す」、
「利益」、
「増加」。