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 一匹の獏が居た。

 夢を喰うことに飽きたその獏は、知識を喰うことにした。人間の頭の中を覗き、そいつの知っている文字列だの感情だの「もの」を全部喰ってしまう。これを繰り返すと、夢とは比べものにならないくらい膨大な、体系立った物事を知ることが出来た。

 時たま、喰われたものを丸ごと失って人形みたいになってしまう人間もいたが、知ったことではない。獏は、なんだか頭の中がスッキリハッキリしていくので、楽しくなってどんどん知識を喰った。人間だけでなく、そのうち犬だの虫だの、本だのからも喰うようになると、見える世界が何十にも色を変えた。

 喰うに従って、獏は考える時間が多くなった。脳味噌がいつも高速回転して、すると不思議に体が軽く、けれど大きくなって辺りを覆うような気分になっていく。広がった体で、獏はますます早く、ますます多く、あらゆるものを喰らった。

 とうとう獏は世界中の知識を喰らい、あらゆることがわかるようになった。まるで星をすっぽりくるんでいるかのように、何もかもが手に取るようにわかる。水の流れを見るごとくに、未来のことまでも大体わかる。それこそ、一匹の蟻の死から国家戦争の行方まで。神様というのはこんな気分ではないか、と獏は思った。

 しばらく神の視点を楽しんでいた獏だが、そのうち妙な気分になった。

――はて、俺は誰だったかな?

 あまりに突飛な感覚だったので、獏は驚き慌てて、いつもの知識更新作業に入ろうとした。ところが、それすらも今や何の苦労も無しに出来るようになっている。久々に人間の夢でも喰おうと思ったが、目新しいものは何もない。困り果てた獏は、地球の外へ手を伸ばした。尤も、月や、火星や、太陽のことは殆ど見てきたようにわかっている。もっと遠く、もっともっと遠くへ。

 

 こうして一匹の獏は、その姿を完全に消してしまった。


 

「~を広げる」、

「広がる」。

 


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