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45.treat

「お嬢さん、どうしたの?待ち合わせ?こんな時間に独りじゃ、お店追い出されちゃうよ」

 親切顔に声を掛けてきた女性を、少女は思いきり睨んで席の隅へ縮こまった。女性が苦笑する。

「やだなぁ、誘拐とかじゃないって。ずっと一人だから気になっただけ。ねぇ、お父さんとかお母さんは?」

 長い沈黙の後、やっと聞き取れるような微かな声が呟いた。

「……お母さん、トイレからすぐ戻るの……約束したもん」

「お母さん、いつおトイレ行ったの?」

「お昼御飯のあと……。でもお母さんは食べてない」

「そっか」

 女性はにっこり笑うと、少女の向かいに腰を下ろした。少女が警戒の色を濃くしてますます睨んだが、一向に怯まない。

「ねえ、友達にならない?私が店員さんと話して置いてもらって、あなたはここでお母さんを待つの。大丈夫、私ご飯おごるし、夜はここのソファで寝ればいいじゃない。毛布なら持ってるし。どう?」

 

 

 一日二日は、少女は口もきかなかった。女性がいつの間にか注文し、運ばれてくる料理を恐る恐る口にしてはいたが、その間も警戒心は剥き出しだった。それが一週間も経つと次第にほぐれてきて、自分から話すようになり、笑顔も少しだが見せるようになっていた。そのうち店員にも可愛がられるようになり、すべては問題なく進んでいた。

 ただ一つ、母親がいつまで待っても現れないことを除いては。

「もう、いいんじゃない…?一旦お家に帰って待つとかさ」

 何度か女性がそういって促したが、少女は頑として首を縦に振らなかった。

 ひと月経ち、ふた月が経ち、半年経っても母親は来ない。少女は待ち続け、女性は見守り続け、そうして一年が経った頃、一人の男性が少女の前に現れた。

「今まで、悪かった。待たせてしまったね。言えた義理じゃないが、俺は君の父さんだ」

 女性が無言で席を立つ。

「どこ行くの?」

 少女が問うた。

「お手洗い。…大丈夫だよ」

 女性が振り向き、笑顔で答える。男性が少女の視線を追い、不思議そうな顔をした。

「…一体、誰と話してるんだい?」

 少女は驚いて男性を見、また女性を見直した…と思ったが、彼女の姿は既にない。消えてしまったのだ、まるで煙のように。

 先程まで女性が立っていた場所には、大量のレシートが山と積み上げられていた。

 

 

 それから月日は流れ、少女はいつしか大人になった。大学を卒業し、この春、就職することも決まっている。

「新しいスーツ買えって、お父さんがくれたの。これ、お小遣い」

 いつかのファミレスで、少女は一人、誰もいない場所に話し掛ける。もちろん彼女にも、何も見えてはいない。

 注文した料理が運ばれてきた。少女が対面の席を示すと、店員が不思議そうに、見えない客の前に皿を並べる。

「沢山食べてね。今日は私のおごりだから」

 少し寂しげに、少女が笑った。


 

「~をあつかう」、

「~を手当てする」、

「楽しみ」、

「喜び」、

「おごり」。

 


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