44.join
ふわふわと、淡い木漏れ日が揺れる。新緑の枝葉を透かして、透明な風が微笑する。
――こっち。こっちだよ。
浅黄色の浴衣が、栗鼠のように跳ねて前を行く。待ってよ、と掛けた声は、空気を揺らさずに届いた。
――あははっ。早く早く。
本当に、溶けるような、森の色だ。葉の囁き、虫の笑い声、獣達の息遣い。溶けて混ざりあって、却って静かな、眩い静寂だ。
――ほら、こっちこっち。
駆けながら、なんだかうっとりとする。怖いような、けれど遠くへ、もっともっと、どこかわからない所へ。
――ここだよ。
ほう、と、誰が浮かんでいる。三つ、四つ、沢山いる。嬉しそうに、満ち足りたように、皆一緒になって手をつないでいる。
――ほら。
その子が笑って手を伸ばす。
――来て。一緒に よう。
光がとろけて、蜜になる。蜜があたりを浸している。甘い、甘い蜜。ふらりと手を伸ばした。
「…はる…!…貞治!」
突然、殴られたような気分で目を覚ました。顔の真ん前に、兄の切羽詰まった顔があり、それがほっと緩む。
「…ああ、よかった…!」
「どうしたの、兄様?」
すると今度は烈火の如く怒り出した。
「馬鹿!独りで二つ谷の森に入るなと言ったろう!もう少しでお前、妖怪に攫われちまうとこだったんだぞ!」
その話を聞いてもしばらくは怖さなど感じなかった。ふうん、と思ったきりで、それも面白かったかな、と言おうとしたけれど、怒られそうでやめた。
今ではまるで夢のような、昔の出来事だ。しかし、現在も時々、眠っている間に彼らが会いに来ることがある。向こうはちっとも変わっていないから、なんだか寂しい心持ちになる。
最近では、枕元に蜂蜜をおいて寝ている。彼らの一番の好物だ。
「~に参加する」、
「~に加わる」、
「~をつなぐ」。