42.encourage
え?よく育ってる?
そうでしょ、よく話しかけたからね。話しかけるといいって言うじゃない。なんでも声の調子とかで喜怒哀楽の波長があるんですってね。凄いわよね、満足に動けもしないのに言葉がわかるなんて。だけど私、話しかける内容が偏ってるのよね。
だって、生活してるとストレスって溜まるじゃない?こういうのに向かって独り言って、大抵そういう時でしょ。だからもう、「死ね」とか「消えろ」とか「嫌い」とか「地獄に落ちろ」とか、そんなことばっかりブツブツブツブツ…。
ほんと、こんな負のオーラまみれでよく育ったと思うわ。そのせいかしら、何だかほら、歪んでるのよね。色も悪いし、愛情なんて欠片も受けてませんって感じ。あ、もちろん栄養はあげたのよ?でも、そうね、もう少し大きくなったら危ないんじゃないかしら。きっと仕返しされると思うわ。私、憎まれてると思うのよね。わかるのよ、自分の手で育てたんですもの。
そうね、もしかしたら殺されるかも。まあそれもいいわ。どうでもいいもの、色んなことが。
…え?やだぁ、冗談じゃないわよ。よく見て。ほら、まだ三歳なのに死んだ魚みたいな目…何?人食い花?何の話よ。あら、違うってば。観葉植物の話なんかじゃないの、そんなの気持ちなんて知らないわよ。
私が言ってるのは、植木鉢の後ろにいる子の話。私の息子の話よ。ね、よく見たらちっとも子供らしくないでしょ。全然喋らないし、泣きもしないんだもの。やだもう、ずっと植物の話だと思ってたの?おかしいと思った、人の子を物扱いみたいな言い方するから。
あ、そうだ。この子、賢いから気をつけた方がいいわよ。大抵の言葉はもう理解できるみたい。あなたの顔も覚えたんじゃないかしら?
あら、帰るの?忙しないのね。じゃあ、明日の入園式でね。
「はげます」、
「~を促進する」、
「(-A to V)AにVするようすすめる」。