4.expect
そろそろだろう、と思った。
だから準備を始めた。彼に悟られないように、彼の気持ちを早めないように。
早すぎたと人は言うかも知れない。だが私には分かったのだ。会う度、話す度、微かな前兆が見え隠れしているのが。
だから諦めた。
今を保つことを諦めた。代わりに、「その時」どうするかを考えることにした。
準備をしてきた。
綺麗に隠し仰せたと思う。彼はきっと自分の気持ちの変化にしか気付いていないだろう。私がこの数ヶ月やってきたことは、全く気付かれていないはずだ。
また「その」後も、私の真実が表に現れることはない。そのための準備だったのだから。
そして、その時は来た。
「別れよう」
場所は私の部屋、時間は夕方。彼に料理を作ってあげていた時。
私は驚かない。思った通りのタイミングだったから。
包丁を置き、鍋を火にかける。手を後ろに組んで、テーブルの前に堅くなっている彼に、ひょいと近づいた。
「うん」
私は笑う。
「わかってた。大丈夫だよ」
飛びっきりの笑顔。とっておきの、この日のために準備した笑顔だ。
大丈夫。私は悲しくなんかない。あんたなんか居なくたって、何にも痛くなんてない。
だから、なるべく早く、私の前から消え失せてよ。
じゃあね。
「~を予期する」、
「予想する」、
「期待する」。