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「今寝たら勿体ない」
「もうちょっと読んでから」
そんな風に考えてつい夜更かし、気付いたら空が白んでいる…なんてことはないだろうか。
実はその現象は、ある嫌がらせ好きの連中の仕業なのだ。連中は、霊だか妖怪だかわからないがともかく生きた人間とは違う存在で、正確な数もどんな意識を持っているのかもわからない。分かっているのは、連中が気紛れで毎晩誰かを選び、耳元で甘言を囁き続けること。
「今がチャンス」
「徹夜ぐらい大丈夫」
「寝たら起きれなくなるよ」
すると、大抵の人間はこの囁きに誑かされ、自ら覚醒して以降は寝付くのが限りなく困難になり、挙げ句多少健康を損なう。
まあ、本当に徹夜したいときにはありがたいのだが、大抵奴らが来るのは望まないタイミングだ。
「やべえ…寝ろよ俺」
今の自分などは、まさにその典型にあたる。普段なら布団に入ろうという時間に、つい奴らの言葉に耳を貸してしまったのだ。寝たら勿体ないと頭のどこかで囁き続ける声のせいで、俺は今没頭している。
――ドシャッ
――ズル…ズル…
――どうしよう…埋めようかな…
――ガタン
盗み聞きに。
どうもお隣は二人暮らしらしいのだが、夜中に喧嘩を始めたと思ったら、片方がもう一方を殺してしまったらしい。恐ろしさに体が震えたが、やはり無視して寝ることは出来ないのだった。
「勿体ないよ」
「滅多にないチャンス」
「リアルタイム殺人」
「今なら知るのは自分だけ」……。
ああ、寝られない、寝たくない。本当になんて希少な体験だろう。寝て朝になったら世間のものになってしまうんだ。俺だけの秘密じゃないんだ。貴重な一晩を無駄にしてなるものか。後で後悔したくない。
そうだ、折角だから、手伝いに行ってみよう。どうせ眠れないんだ。
素敵な夜になりそうだ。
「~を妨げる」、
「~を防ぐ」、
「~させない」。