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 ねえねえ、聞いた話なんだけどさ。

 え?違う違う、怖い話。絶対誰にも言っちゃ駄目だよ、マジで危ないんだから。

 

 …『自分が増える』って話、聞いたことある?…ない?

 あのね、どっかの高校で凄い遅刻しちゃった子がいたんだって。そんで二時間目からしか出れなくて、だから先生に謝るとかするでしょ?そしたらその先生が不思議な顔して、

「何言ってるんですか?あなた朝のHRから居たでしょう」

 …そう言うの。

 おかしいなーと思って友達とかにも聞いたんだけど、みんな「朝から見た」って言うんだって。しかもその子しか知らないようなこと…例えば、昨日の晩見たテレビとか、夕食のおかずとか…そんなこと話したって言うんだよ。おかしいでしょ?

 他にもあるんだ。

 埼玉から東京に通ってたサラリーマンが、会社でふっと忘れ物を思い出して、家に電話をかけた。奥さんに頼もうってつもりでよ?

 何回かコールしたら、相手が電話に出たから「もしもし、俺だけど」って言ったんだって。そしたら相手が妙にびっくりしてさ、

「…どなたですか?うちは○○ですが」

って。

 そうなんだよ。答えた声が、自分の声だったんだって。

 しかもその人の場合それだけじゃないの。電話切った後に暫くして上司に呼び出されて怒られたんだけど、それがおかしいんだよね。

「君、お得意様にあの態度は何だ!折角私がついていったのに」

 …何か出先での失敗を詰られてるみたいなんだけど。その人さ、その日は会社から一歩も出てなかったらしいんだよね…。

 つまりこの人の場合、自分らしき人間が同時に三人バラバラの場所にいた、っていうことになんの。

 おかしいよね?

 その「別の自分」は、ほっといたらどんどん増えてくのに周りの人は全然気付かないんだって。その内、自分自身が信じられなくなって…頭がおかしくなっちゃった人もいるって話だよ。

 これが『自分が増える』って都市伝説なんだけど。…どう、知ってた?

 え?

 違うってば、作り話じゃないよ。そういう話があるのは、ホントにホント。…どっかで聞いたような話?そりゃそうでしょ、ドッペルゲンガーとか有名だし。

 でもさ。

「もう一人の自分」って類の話がどうして流行るのかって、考えたことない?

 まあ色々さ、説明は出来ると思うけど。夢遊病が作り出す錯覚だとか、記憶を忘れることへの不安が変形して、とか。

 でも思うんだよね。

 やっぱ、実際にあるからじゃないかって。嘘だと思う?…そうだよね。霊とかとおんなじで、見える人は「いる」って言うし見えない人は信じない。だったら居ないも同然だもん。

 だけどさ…そういう、居るか居ないか本当には分からない、曖昧な状態が、「怖い」って気持ちになるんじゃないかなあ。

 自分が増えるって話にしても。

―「私は何人居るんだろう?」

―「私はどこに居るんだろう?」

―「私は本当の私か?」

―「私は本当に私なのか?」

―「私は…」

 

 いるのか?

 

 ってね。自分が曖昧な感じが、怖くて怖くて仕方ない…。

 ね、ちょっと。

 何、変な顔して。引かないでよ、私が怪談好きなの知ってるでしょ?それとも…本当に怖くなった?

 …あ!

 …っ、う、後ろ…!

 …………。

 あはははは!冗談だってばもう、マジになるんだからあ。

 安心してよ、さっきの話でもね、回避する方法があるんだって。

 それはね。この「自分が増える」って話を、増えた人数分だけの他人に話すこと。沢山話せば他の自分はだんだん消えていくんだってさ。

 でも一つ問題があるんだよね…。

 話を聞いたほうの人がさ…増えちゃうんだよ。

 そう。増える症状が、口伝えで移っちゃうらしいんだ。だからさ、

 …もう、気付いたかな。

 

 ごめんね?

 

 丁度十五人目なんだ、あんたが。

 …ほら、携帯鳴ってるよ。出なくていいの?




 

「増える」、

「~を増やす」。

 


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